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腐男子先生!!!!!  作者: 瀧ことは
先生の言うことにゃ
41/138

41「恋人つなぎ! 恋人つなぎして!」

「…………………だめだーーーー!!!!!」

 倒れ込んだ朱葉にご臨終の手を合わせる。

 結局最後に一杯頼んだランダムコースターでも推しにあえなかったのだった。

「あとは交換?」

「無理無理! レートが二番目に高いもんー! 一番人気も引けなかったし……うう……自引はだめだった……。でももうおかわりはむり……」

 お腹も財布もこれ以上は冷たくなってしまう。

 結局朱葉はドリンクファイトでは敗北を喫し、けれどそれ以外はコラボカフェを満喫することが出来た。

 ちなみに桐生はカフェ限定のランダムキーホルダーを限定数MAXまで大人買いぶちかましていた。大人ってこれだからと思ったけれど推しキャラを売ってもらったので許した。

「すみませんちょっと、トイレいってもいいです……?」

「俺も……」

 お腹が冷たくなってしまったので、トイレに行って手をふきながら戻ってくると、桐生がある壁の前で佇んでいた。


「どうしたんですか? せん……」


 せい、じゃなかった、と思っていると。


「先生、これ」


 ちょいちょい、と桐生が壁をさした。くどいようだがこの場合先生は朱葉のことだった。

『メッセージパネル』と書かれたそこには、白い模造紙を貼られており、客が好きなように絵や言葉を残せるものだった。


「これ?」

「描いてください♥」


 お願いポーズで言われた。まあ、そうだと思ったよ、と朱葉は思う。めっちゃ恥ずかしい、と思わなくともなかったけれど、人混みは主に交換ゾーンにかたまっていて、パネルの前は人通りもなかった。近くには小さな机に色とりどりのペン。

 下書きなしの一発描きは不安も大きかったけれど、それでも、アナログ絵描きという矜恃のあった。

 あと、奢られはしなかったけど、コラボカフェの代金を多めに払ってもらった、という弱みもあった。


「描くキャラはこのキャラとこのキャラで」

「リクエストまでする!? 隣り合わせでいいの!?」

「恋人つなぎ! 恋人つなぎして!」

 あぁ!? と言いながら、それでも朱葉は上半身の絵を描いていく。顔は問題なくバランスよく描けたのだけれど。


「うー……手……」


 わきわき、と自分の手を動かして、もどかしさに顔をしかめると。


「ちょっと! 貸して!」 


 隣にいた、桐生の手をつかんでぐっと握った。別に、本当に、他意はなかったのだ。ちょうどそこにいたから。ちょうどよかったから、握ってしまった。握って、まじまじとその形を見ながら、描く。


「どーだ!」


 描き上げて、ふん、と桐生を見上げれば。


「最高以外の言葉がない」


 桐生がそう言いながら、ぱしゃりと一枚、写真を撮る。できあがった絵を、片手で。

(うん? 片手?)

 もう、片方の手、は。

 なぜか、つながったままで。


「行こう」


 引っ張るように、歩き出す。

「え、ちょっ、あの」 

 思わずつんのめりそうになって、慌てながら、朱葉が言う。


「先生!」

「先生はぱぴりお先生ですよ」

「まずくない!?」

「まずいねー」


 ははは、と半歩、先に行くので、どういう顔をしているか、よくわからないんだけれど。

(手)

 ちょっと、緊張してるな、とわかった。つないでいたから。心拍数まではわからないけど、ちょっと汗が出てて、でも冷たい。

 結局、黙って、従ってしまった。

 帰りの、駅まで、二人。

 あんまり会話もなくて。

 まるで、本当に、デートみたいだった。




 駅前の交差点で信号待ちまできて、するりと自然に、手が離れた。黙っている間に、考えていたことを朱葉は言った。

「ふだせんって、どうですか?」

「え?」

「あだな。先生、腐男子の先生だから。ふだせん」

「あー」

 なんでもいいですよ、と桐生が言った。

 なんでもいいって、と朱葉が呆れれば。


「なんでもいいです。つけてもらえたら嬉しいんで」


 それでいいよ、と桐生が笑う。なんだか調子が狂うな、と思いながら、重ねて朱葉が言った。


「それから、アカウント、教えてもらえませんか?」

「え?」

「ふだせんの、SNSアカウントです。ずっと思ってたんですけど。わたしだけ、アカウント監視されてるのおかしくないですか?」

「いや、でも」

 困り顔で桐生が、何本も指をおる仕草をして。


「どれを?」


 こいつ一体いくつのアカウントもってやがるんだ? と思いながら、「どれか! メインのやつ! わたしばっかり見られてるのが嫌なだけだから!」と言う。

「メインとは……」

「もーいい!!」

「じゃあ、メイン、にしてみるので。あの、譲渡用アカウントを」

 桐生が言ったのは、朱葉が最初に、応援上映のチケットを譲られるためにつながったアカウントだった。メインだとはまったく思えなかったけれど、まあ、それくらいがちょうどいいのかもしれない。朱葉は複数のアカウントを持つことが苦手だけれど。

 朱葉と、桐生は、そういう、取引相手、で。

 それが、お似合いなのかもしれなかった。

 ちょっとさみしいけれど、別に、これ以上の特別を求めているわけでは……今のところは、ない。


「それじゃ、今日はありがとうございました」

「こちらこそ。……これ」


 唐突に、渡されたのは、一枚の四角い紙だった。


「これ、は? ……え?」

「今日の、お礼です」


 それは、カフェで何度も見たコースターで。

 表を向けて見れば、出なかったはずの……朱葉の推しだった。


「ちょ、どうやって!?」

「ぱぴりお先生の戻りを待つ間に」

「え、だって!」


 朱葉はこのジャンルの交換レートを知っている。よほど運がよくなければ、このキャラクターが簡単に交換してもらえるのは。

 ……桐生が出した、桐生の推しキャラぐらいだろう。


「俺のことなら心配はいらないすでにカフェ限定グッズの譲渡交渉の上で自分の推しキャラが手に入ることは確実だ」

 信用出来ないなら取引用のアカウントから確認してもらえばいい。

「あ、はい」

 思わず冷めたように朱葉は返してしまう。

 結構台無しだった。

 それでも嬉しかったけども。


「でも、本当に、今日のお礼」


 心から、楽しかったです、と桐生が言ったので。


「……わたしも、楽しかったですよ」


 そう言って、別れた。普通に、偶然の、デートもどきは、それでおしまい。

 家に帰って、転がりながら、SNSを開いて見たら。

 桐生の、譲渡用のアカウントの、その名前が。

『ふだせん』

 になっていたので。


「……あの人、本当に好きだな」


 わたしのこと、と照れ隠しみたいに、呆れ声で、呟いた。

デート編終了です!!!!


はあああああああ、大丈夫でしたかね! いろいろと!

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