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腐男子先生!!!!!  作者: 瀧ことは
先生の言うことにゃ
39/138

39「ここでは先生って呼ぶのはやめよう」

 偶然というには大変意図的な指向性を感じないこともなかったけれど、朱葉は結局、桐生とコラボカフェに向かうことになった。

 まずいとは思ってはいたが、共通の友人どうしが行ってこいというシチュエーションなのだから、やましさを感じることがやましいことだ、と無理矢理己を納得させて。

 納得さえしてしまえば、特別気が重い話ではなかった。それどころか、桐生は朱葉の目にもわかるほど機嫌がよかった。

「嬉しそうですね」

 店に向かう途中、朱葉が言えば。

「カフェ系はなかなかいけない」

 とにこにこしながら桐生が言う。

「意外」

 金に物を言わせて限定グッズを買い漁ってそうなのに、という先入観はこれまでの経験に蓄積された根拠がある。

 しかしため息交じりに桐生は言う。

「男性ファンも多いコンテンツならためらわないんだけどな。男子がひとりで行くと、やっぱり悪目立ちするから……」

 その言葉に、朱葉はなるほど、と思う。確かに、別に石を投げられる対象でないとはいえ、腐男子は悪目立ちする。カフェは写真をとっている人も多いから、桐生にはリスキーな場所になってしまうのだろう。

「でも、ほとんどみんな推ししか見て無くないですか?」

「そうとも限らない」

 あれ、と指さしたのは、カフェの外、オープンスペースに設けられたランダムグッズの交換所だった。

「あー……」

「みんな見てる。かなり見てる。隣のテーブルの人間が誰推しなのかを。ちなみに俺は対面じゃなく郵送交換派だけどそれはそれで転売厨みたいに言われるのは悲しい」

 やっぱり転売屋は死すべき、といつもの過激思想で呟いた。

「ま、それじゃあ、今日は楽しみましょうね。せっかくだし」

「とりあえず推しはわけあおう。俺はこの作品黄色だ」

「あ、わたし青です」

 ぐ、と親指を立てて、カフェに入っていく。


「はい、二名様ですね~。こちらにどうぞ!」


 案内されたテーブル、まずそのテーブルクロスの色を一瞥して。

「っしゃ!!!!!!」

 あげはがガッツポーズをとった。隣の桐生は、あーーと軽く息を吐く。

 コラボカフェはテーブルごとにキャラクターのテーブルクロスが置かれている。今回は朱葉の推しのテーブルに案内されたようだった。幸先がいい。

「嬉しいんだけど~! えー何たべよ~!!」

 まず写メをとりまくり、メニューを開く。


「まずメインキャラの攻略はしておきたいよな。各キャラクターごはん系とスイーツ系、そして問題のランダムコースターがついてるドリンクだから、俺はごはん系メインに食べるからスイーツ系の攻略頼ってもいいか? あ、俺の希望だから、ちゃんと俺が多めに支払うので」

「ガチじゃん。経験少ないんじゃなかったの?」

「少ない中で最大の楽しみを得たい。すべての味を食べてみたい。そしてコンプしたい」

「はいはい、任せます」


 先生の好きなように、と朱葉が言うと、「じゃあドリンクだけ決めて」と言われ、さくさくと注文が済ませられる。


「あと」


 ちょっと一息ついたところで、桐生が言う。


「ここでは先生って呼ぶのはやめよう」

「あ」


 そうか、と朱葉が思う。確かに、ここで大声で先生というのは、いいことはないだろう。配慮が足りなかったな、と朱葉は思う。

 プライベートで、オフなんだから。

 先生と生徒じゃ、今はないんだから。

 その事実と改めて向き合って、ちょっとだけ緊張した。背筋がのびた。

「俺も早乙女くんとは呼ばないから」と言われて、それには少し驚いた。


「いや、でも」


 いきなり、名前で? あ、ハンドルネームか、と思ったところで、桐生が身を乗り出し、真剣な表情で言う。


「つきましては、俺が『先生』と呼ばせて欲しい」

「待って」


 おかしいだろ。

 お前が呼ぶのかよ。


「いや、いきなりハンドルネームで呼ばれるよりかはいいけどね!? その発想はちょっとなかったかな!?」

「俺のことはよければあだ名をつけて下さい!」

「推しメンに自分のあだ名をつけさせようとする痛いファンみたい言い方するな!」


 思わず全力で突っ込んでしまう。

 同時に脱力もしてしまうが、なにかわくわくした様子なので、朱葉は呆れながらも考える。

(かずくんってのは、なしだしな……)

 別に、他意はないけれど。そう言ってた相手が、他にいたから。


「あだな……あだな……きりゅう……かずと……あ、じゃあキリ……」

「ちょっとまって」

 顔をおさえて桐生が言う。

「そこはまって、結構好きなスーパーチートイケメンキャラと同じ名前だからちょっと心の準備が」

「あーそーかよ」

 映画も評判いいですよね、と思いながら、相変わらずめんどくさい感じの桐生を横目で見て、もうモブとかクズでいいかなと思いながら、そう言って喜ばれるのもなんだか酌に障る。

「お待たせしました~」

 そうこう言ううちに、最初のドリンクが運ばれてきた。コースターが、裏側にして置かれる。


「…………!」

「…………!」


 同柄で推しなし。


「盛り上がってきたな……」

「待って!! ドリンクは飲んでからだから!!!!」

「もう飲んだ」

「はや!!!!!!!」

「俺達の戦いはまだはじまったばかりだ!!!!!!!」


 呼び方も決まっていないのに、戦いばかりがはじまっていく、ドリンクファイトだった。

がんばってるのにデートにならない。

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― 新着の感想 ―
[一言] SAO面白いですよねー笑 今結構いろいろあって修羅場ですけど明けたら自分へのご褒美で映画見に行く予定です!
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