表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腐男子先生!!!!!  作者: 瀧ことは
ある日島の中先生に出会った
3/138

3「そこに本があるから」

 生物教師である桐生はだいたい休み時間と放課後、生物準備室にいる。

 お互い決定的な身バレが発生してから、朱葉が生物準備室に出入りすることが多くなった。といっても、他の生徒にあらぬ疑いをかけられたくはないので、放課後質問を装ってこっそりとだ。

 朱葉が生物準備室に入ると、桐生はだいたい忙しそうにタブレット端末を見ている。


「先生」

「はい」

「pix×v巡回はかどりますか」

「今10usersタグつける大事な業務の最中だから。このカプの小説タグは俺が守ってるから」


 そりゃ忙しいだろうよ、と朱葉は思う。

 別に、どうしても好き好んでこのクソヲタに会いに通っているわけではなく、校内でのスマホ利用が著しく制限されているこの学校で、ひとめにつかずにスマホがいじれる場所がここだという、それだけだった。それなりに、朱葉にも利点があるのだ。

 ちなみに桐生が見ているカップリングは朱葉も嫌いではないガッツリBLだった。


「あのさー」


 スマホをいじりながら朱葉が世間話のように聞く。


「先生って男の人が好きなんですか」


 さりげなさを装いながらもそれなりに意を決して聞いたつもりだった。桐生はせわしなく動かしていた指先をとめると、パタンとタブレットにカバーをして。


「時に早乙女くん。百合は嗜みますか」

「はあ。人並みに」

「きゅあプリは?」

「初代が正義」


 桐生が出したのは日曜早朝にやっている女児向けアニメだった。懐古ババアと呼ばれてもいい、と思う早乙女朱葉(17歳)。


「そんな君は、レズビアンなのか!?」

「はぁ? ……いや……別に……」


 ちょっと考えてから、言う。


「でもわたし、女子アイドルなら娘!のさくらちゃんと結婚したいです」

「先生もBARASHIならいちのみやくんと一緒に住みたいです」


 やっぱホモかな? と朱葉は思った。自分のことは棚にあげて。

 桐生はまたタブレットに戻りながら言う。


「まあそれはそれとして。俺としては別に偏見もないけど自分のセクシャルに悩んだこともないです。あと、二次元の方が美味い。運命の相手だったらともかく、二次元ぺろぺろしてたら、この年になったわけですしおすし」

「運命の相手ねぇ……」


 それはまあ、わからないでもないなと朱葉は思う。結局のところ、イケメンだったら許す、美少女だったら許すってことは、この世の中たくさんあるわけだし。

 そんな風に考えていたら、ふと思いついて朱葉は言った。


「あ、先生あれ、あの台詞言ってください。めっちゃ似合いそう」

 無駄にイケメンだし。無駄だけど。

「あれ……? ああ……」

 驚異的な空気の読解力をもって、桐生はキメ顔で言った。



「男だから好きになったわけじゃない。好きになったやつが男だった。それだけだ」



「それ!!!!! それな!!!!!!!!!!!!!!」

 大盛り上がりで叫んだ瞬間、ノックの音がして生徒が入ってきた。

 とっさに朱葉はいじっていたスマホをポケットにいれて立ち上がりながら言った。


「先生それで、次のテストの問題って教えてもらえないんですか」

「それを言ったらおしまいだろう早乙女くん」


 あのお、先生~プリントここにおいておきます~、と明らかに媚びを売ったような言い方をする女子生徒を、「ケースがあるだろう。そこにいれておいて」と無碍に扱い、まだ何か話したそうな女子生徒に「今忙しいから悪いね」と追い出して、一息。

 やばかったーと朱葉も肩から力を抜きながら。


「ねー先生、今の子さぁ、先生のこと狙ってると思うよ」


 そういう子多いんじゃない? と朱葉が聞いた。

 桐生はイケメンだ。顔だけは。残念なくらい。だから、そういうことを思う女子生徒がいたって不思議ではない。

 もちろん、みんな本気じゃなくて、はしかみたいなもので。しばらくしたら忘れてしまう、夢の中の火遊びみたいなものなんだろうけど。

 桐生はきりっとした顔をして言った。


「俺が狙うのはとら×あなの新刊だけだ」

「だから聞いてねぇよ」


 なんだかばかばかしくなって、朱葉はため息まじりで聞いた。


「そもそも、なんで先生イベントなんて来たの」

「そこに本があるから」

「いや格好良く言わなくていいから。登山じゃねえから。そうじゃなくてさ、今時ネット見ればいっぱい良い漫画も小説もあるし、本だってだいたい通販で済むし、身バレ怖いんなら、イベントなんてマジリスキーじゃない?」

「リスキーですね。まあ、久々にはまったカップリングで、鉄は熱いうちに打てって感じで巡回してた時に、めっちゃ好みのサンプル見つけたけど、イベント売りオンリーだったわけですよ。こりゃ運命かなと思うよね。行くよね」

「へぇ……」

「まさか教え子だとは思いませんでしたけどね」

「わたしやないかーい」


 思わず突っ込んでしまったけれど、まあ、それは、気恥ずかしさを隠したかったからでもある。

 運命ねぇ、と心の中だけで、朱葉は小さく、呟いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ