28「俺は全裸待機してるから」
美しいイルミネーションの下で恋人同士のように歩きながら、朱葉と桐生がもっぱら盛り上がったのは「漫画原作実写作品の鑑賞の仕方」だった。
「でね、その時太一が面白いって言ったのを聞いて心底思ったんですよ。今回の実写映画については原作に愛情のない一般人のためにつくられたのかもしれないって。そもそも原作が好きなら原作で我慢しろってことなのかもしれないって。そもそもあの漫画は他にもいろんなメディアミックスがされているわけじゃないですか。その一環として、原作から遠ざかるものも必要なんじゃ無いかと思ったんですよね」
「それはサンプリングした一般人の目が節穴過ぎるでしょ早乙女くん。原作がなくてもいいなら原作つきを実写化することの方が間違いだし、何十回何百回とメディアミックスされてきている古典だってやはり魂が継承されていないと名作にはなり得ないんだよ。その点某古典推理小説のリメイクは本当に目を見張るものがあると俺は思っているね。まさかこの年になって趣旨がえを迫られるとは思っていなかった。俺があの作品にはじめて触れたのは小学校の学級文庫でその頃から絶対逆転することはないだろうと思っていたのに今回ばかりはお手上げだ名探偵の方が受け」
LEDが切なげに光っている。
光っているだけだが。
朱葉は綺麗な景色を見ながら、「え、先生そんな時期から腐ってるの? やばくない?」と思った。
「でも百合のスピリッツが継承されてるなら俺も一見の価値はあると思っているので見ておこう。早乙女くんも割引のきいている日でいいので俺の推した映画を見ておくように。冬休みの宿題」
「はぁ……」
「あ、週明けから、休み明けテスト前ってことで、職員室、準備室の立ち入り禁止だから。気をつけて」
「もうそんな時期?」
てことは、もうしばらくゆっくり話すことはないんだな、と思ったら、なんだか少し名残惜しい気持ちになった。イルミネーションも途切れて、駅が見えてくる。
しばしのお別れ、だと思った。
駅の前で別れることになっていた。乗る路線が違うので。
桐生が足をとめて、前を向いたまま、隣の朱葉に言う。
「早乙女くん、今年はありがとう」
「いや、わたしの方こそ」
〆の挨拶みたいだったから、朱葉も神妙に答える。
今年は、短い期間でしたけど。なんかめっちゃ楽しかったですよ、と正直に。
桐生は朱葉を振り返り、ぽつりと言った。
「よいクリスマスを」
「……はい」
「俺はクリスマスイラスト全裸待機してるから」
「服は着て下さい。また風邪ひきますよ」
思わずマジレスしてしまった。
そしてお別れ。結局電話に出なかったという、「マリカ」さんはどうなったのだろうか……と思いながら帰路につき、家にはそのまま寄らずに、数件となりの、幼なじみの家のチャイムを押す。
とりあえず、CDだけでも渡さなければならない。そして、太一に悪かったといって、桐生のことは、なんとかごまかさなければ。
「──こんばんは。朱葉ですけど」
インターフォンでそう言ったら、すぐに玄関のドアがあいた。
「あら、本当に来たのね」
そう言って、出てきたのは。
……アニメショップで別れたはずの、マリカ、その人だった。
前回に間違いなく一段落ついたんですけど、年内はすみません、もうちょっとだけアフターストーリーをロスタイムでやります。クリスマスと年末のあれこれ。




