表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腐男子先生!!!!!  作者: 瀧ことは
ある日島の中先生に出会った
13/138

13「わたし、きょうせんせいのことめっちゃきらいなひです」

 だいたい、今日は朝から最悪だったのだ。

 明け方まで起きていたから寝坊をしてしまった。学校には間に合ったけれど、朝ご飯を食べる暇もなかった。その上出さなきゃいけない課題を忘れていて、なんとかお目こぼしをもらって昼休み中に提出したから、昼食を食べる暇もなかった。

 極めつけに。


(最悪……)


 女子トイレの個室で朱葉は心の底からため息をついた。

 貧血めいていると思ったのだ。用意はあったけれど、だからといって気が滅入るのは仕方がない。

 女は生きているだけで血を流す。まったく理不尽だ。


(こんな時は、推しキャラ女体化生理妄想することぐらいしかすることがない)


 そう思ってしまう程度には、まだ元気だった。その時までは。


 最悪なことに、午後一の授業は生物だった。


「じゃあ今日は、前回の続き。生態系のメカニズムから……」


 いつものごとく白衣を着て教室に現れた桐生和人は、涼しい顔をしていた。普段はいけ好かないなあ、と思うだけのその顔が、今日はいやに……かんに障った。


(嫌いかも)


 朦朧とする頭で、少し思った。


(わたし、先生のこと)


 嫌いかもしれない…………。

 そんなことを思いながら、ずるずると頭を落とし、机に突っ伏した。起きてなきゃ、とは思ったんだけれど。


「…………」


 あ、意識、落ちる。そう思った時だった。

 隣を通っていく桐生が、朱葉の肩に手を置いた。

 びくっ、と朱葉の肩が揺れる。見下ろす桐生と、目があった。どこか怒ったような顔をしている。

(何……)

 イラッとした。顔にも、出ていたと思う。桐生はそのまま、冷たい声で言った。


「調子悪いなら、保健室に行くように」


 ぐっと持っていたペンを握った。自分にもっと力があったら折っていたかもしれない。

(どの口で言うんだろ)

 こんなのは八つ当たりだ。もっといえば、寝不足で、あと周期的な問題で、神経もつらくって。貧血で。だから、桐生は悪くない。

 悪くないけど、ばーか、と、心だけで朱葉は思った。



 生物の授業はなんとか終わり、本日最後の授業は、体育だった。最悪中の最悪だけれど、それでも座学よりはマシといえたかもしれない。少なくとも、冷たい風に吹かれて外を走っている間は、眠気を忘れられる。

(と、思ったんだけど……)

 ちょっと、まずいかも、と思ったのは、秋空の中のマラソンが、はじまってすぐだった。

(お腹痛い)

 あと、めまいがする。指先が冷たくなる。

「先生」

 体育教師の加藤は、生徒に走らせておいて、自分は校舎のそばで見張りをしているだけだから嫌いだ。

「ちょっと、保健室行ってもいいですか」

 なんだ? と加藤が言う。

「早乙女、お前、サボりじゃないのか」

 こんな時に、女の先生だったら、生理だからとか言えただろうか。いや、きっと言えなかっただろうなと、頭の隅で思った。言い訳するのも、もう、めんどくさい。いっそこのまま、ここで倒れられたら。そう思った時だった。

「加藤先生」

 校舎の窓から、声がかかった。体育教師が振り返ると、そこにいたのは。


「桐生先生」


 まだ、白衣を着たままの、桐生その人で。


「そいつ、前の授業から調子が悪そうだったんです。保健室行くように勧めたのは俺ですから、連れていきますよ」


 桐生の言葉で、ようやく体育教師もサボりの嘘とは思わなくなったらしい。

「じゃあ、桐生先生頼めますか」「はい」という会話を、どこか他人事みたいに朱葉は聞いていた。下駄箱に戻ると、桐生が立っていて。

 なんだかほっとしてしまった。

 そのことに、また腹が立って、うつむいて。

 自分の靴のつま先を見ながら、朱葉が言った。


「せんせい」

「はい」

「わたし、きょうせんせいのことめっちゃきらいなひです」

「はい」

「あとすごいおなかいたい」

「はい」

「くそねむい」

「はい」


 桐生はただ、淡々と聞いた。それから。


「わかったから。おいで」


 それだけ言って、朱葉の肩をつかんで、保健室まで同行してくれた。

 並んで歩く授業中の廊下は静かで、別世界みたいだった。

 保健室に着くと、保健医に朱葉を引き渡し、桐生はさっさと出て行ってしまう。保険医から処置をうけて、ベッドに寝ていてもいいと言われ、朱葉は横たわりながら、自分の無力感に、ひたひたと沈んでいた。

 カーテンの向こうで、誰かが入ってくる気配。

 保険医に対し、何事か伝言を伝えている。「あとは俺が見ていますから」と言っている声は、聞き覚えがある。

 保険医が保健室を出て行くと、カーテンの端から、桐生が顔を出す。


「おーい」


 にょきっと生えた手が、握っていたのは朱葉の鞄。


「お前のスマホ、持ってきてやったけど」


 その言葉に。

「!!!!!!!!!!!!!」

 ガバッと音を立てて、朱葉が身体を持ち上げる。必死になってつかんだ鞄を、しっかりと桐生が握っていて。


「早乙女くん」


 お互い渾身の力で鞄を取り合いながら、冷たい目をして桐生が言った。


「やっぱりお前、その寝不足、スマホゲーのイベント走ってるせいだな?」


 ばれたか。

 朱葉は、心の中で、盛大に舌打ちをした。


次回、桐生和人渾身のお説教タイムVS課金兵黙ってろ早乙女朱葉 ファイッ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ