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腐男子先生!!!!!  作者: 瀧ことは
番外編ボーナスステージ集 お礼に語りましょう
123/138

その2<前編>「はじめては俺が欲しい」

 誰にだって、はじめて、はある。

 はじめましての挨拶をする時、まず何から話すといいだろう。

 まずは名前。それが基本だ。それから? 所属だろうか、年齢だろうか。大学生になったばかりの、朱葉は、自分の学部、出身高校など、言えることはたくさんあるけれど。なによりも先に語るべきことは。


「ええと……ちなみに、今は……」

「今は……少年○○○に連載されてる……××××……」


 そう、なによりも、推しジャンルである。


「あ! わかります~!」

「わかります!?」

「わかりますよー! 友達が好きで。よければ、カプは……」

「基本は……××××なんですが、主人公受けで……」

「あ! その友達もです!」

「本当ですか~!?」


 あ、これ大丈夫なやつだ、と朱葉もとたん相好を崩した。

 理解というのは大切だ。すなわち世界平和だといってもいい。

 大学サークルの新入生勧誘時期だった。朱葉が入ることにした漫研サークルは、幽霊部員も含めると百人近くいるのではないかといわれるほどのマンモスサークルで、活動はゆるいが大人数ゆえに友達もつくりにくくある。

 しかし7対3くらいで男性の方が多いために、女子は女子で集まる傾向にあるようだった。

 そして、同じ新入生の中でも、仲良くなれそうな人を見つけられた。朱葉が出会ったのは文学部の百瀬ももせという女子だった。


「モモって呼んでね」


 オシャレなヘアバンドをして、長い髪を流していた。女性らしいふんわりとした曲線の印象だった。ちなみにジャンルはと聞いたら、「ウフフ」と笑って誤魔化された。「いろいろ、いっぱい」とのこと。

「えっと、モモ……さんは、何か描かれるんですか?」

「うーん、友達のお手伝いで、少し……。でも、ほとんど読み専ね」

 そう言いながら、目の前の棚に並んだ部誌をとった。


「すごいね、ずっと続いてるんだ」


 夏冬に即売会にサークル出展をし、頒布を続けているようだった。現在の部員だけでなく過去の部員も多く買っていくため、刷り部数もそれなりにあるのだろう。しっかりとしたつくりに、朱葉も感心する。

 それから、自分の高校の文化祭も思い出して、なんだか淡い気持ちになった。

 奥付の日付を見て、朱葉は記憶をたどり、数年前の部誌を手にとった。もしかしたら、先生の名前があるかもしれないと思ったから。

 けれどやはり桐生は描き手でなかったためか、奥付を見ても名前はなかった。しかし、その中で朱葉の目がとまる。


編集責任・山口マリカ


 しかし、「ひっ」と小さく声をあげたのは、その名前の下にあった、人名リストで。


──以下、今号の〆切破り(提出遅れ順)



「こわ!!!!!!!!!」



 思わず叫んだ朱葉に、後ろを通りかかった勧誘者が立ち止まる。

「あ、それね」

 人の良さそうな先輩が笑いながら、朱葉に説明してくれた。

「有名なんだよ~、その人。めちゃくちゃ美人だけどめちゃくちゃ怖い編集委員だったんだって。確か、ついたあだなが……」




『オタサーの魔女、だろう?』

 深夜の自室で、電話越しに、さらりと桐生がそう言った。

「そう、それ……」

 朱葉がベッドに座って、スマホを耳にあてながら言う。最初は普通にメッセージのやりとりをしていたのだけれど、そのうち『帰宅したから』と通話がかかってきたのだ。

 まだまだ忙しさで会うことは少ないけれど、こうした連絡は、ずいぶんこまめにとりあうようになった。

「魔女なんですね。普通だったら、オタサーの姫じゃないですか」

『いやー俺もその違いは……よくわからないが……まあ姫って感じじゃなかったな……まあ、おそれられてはいた。〆切破りした原稿に火をつけたことがあるとか……尾ひれがついただけだと思うけど』

「怖すぎる……」

『それで? 早乙女くんはそのままサークルに入ったの?』

「あ、はい。気があいそうな友達も出来たんで……」


『ふーん、男?』


 何でもない風を、装って桐生が聞いた。まあ、装って、なんだから。装えてはいなかったわけだけれど。


「女の子です」


 別に嘘をつくところでもないので、正直に朱葉が言った。

『そ。新歓は?』

「え、新刊ですか?」

『じゃなくて。ええと。新入生歓迎のコンパ。そろそろあるはずだろ、例年通りなら』

「あ、はい。今度、木曜日に……」

『週の中日か。自由だな、大学生』

 少し、うらやむように、まぶしいものでも見るように、桐生が言う。


『ないと思うけど、大人数になるだろうから、無理にお酒は飲まないように』


 突然「先生」みたいなことを言い出すので、朱葉は苦笑する。「飲みませんよ。確かお店が……そもそも飲み放題が、上級生にしかつけないって言ってましたし。今回は会費も部費から出るそうで……」

『まあ、相変わらずか……。まだあの店でやってんのかな』

 当時のことを振り返りながら、桐生もいくつか話をしてくれる。その中で、ふと、思い立って朱葉が言った。


「先生も、ハタチになるまでお酒は飲まなかったんですか?」


 酔っ払ったりしているところは見たことがないけれど、飲めないわけではないはずだった。(ただ、いつもは深夜アニメリアタイなどがあるから飲んでいる場合じゃないとか云々)

 朱葉の問いかけに桐生は『うっ』と詰まって、『ノーコメント』と答えた。

(別に、いいのに……)

 ちょっとくらい、未成年飲酒したって、言いふらしたりしないのにと朱葉は思う。話をかえようとするかのように、桐生がきく。

『早乙女くんはこれまでも、全然?』

「あ、はい。うちは、お母さんのめないし、お父さん仕事でしか飲まないんで」

 親戚の集まりなども、車でいくことが多いため、すすめられたことはない。『そうか』と桐生は言ってから、しばらく考えるように沈黙をすると。


『……別に、絶対飲むなと言っているわけじゃないんだけど』


 苦しい言い訳をするみたいに、桐生が言う。


『はじめては俺が欲しい』


 え? と朱葉が聞き返す。

 頭が、おいつかなくて。イメージが、すぐ、わかなくて。だから。丁寧に、桐生が言い直した。



『最初の酒は、俺が飲ませたい』



 わがままですが、と付け加える。

 思わず朱葉は言葉に詰まって、返事が出来なかった。

(飲ませ、たいって)

 多分、おごりたいとか、そういう意味なんだろうけど。


『あとはじめてのR18絵も是非欲し』

「はいおやすみなさい!!!!!!」


 どさくさにまぎれてやばいリクエストをしようとした桐生をぶった切るように通話を切って。


「~~~~~」


 ばたん、とベッドに倒れてスマホを投げる。

 別に、何って、わけではないけれど。

 これから外で酒をすすめられるたびに、今の言葉を思い出すのかと思ったら。

 なんだかまんまと術中にはまった気がして、釈然としなかった。

「はじめての○○」編。多分前中後編くらいかな??

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