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腐男子先生!!!!!  作者: 瀧ことは
白い原稿の小さな推しカット
120/138

120 先生、ありがとう

 卒業式はあいにくの雨だった。

 ここしばらくのあたたかさから、逆戻りをしたように天気は崩れ、風の強さからだろうか、少し肌寒い体育館での式となった。

 送辞を聞き、答辞を聞いた。


「早乙女朱葉」


 先生の声で、名前を呼ばれ、返事をして卒業証書を授与される。


 あおげばとうとし、わがしのおん。


 時折にじむ涙をぬぐいながら、もしかしたら。

 もしかしたら、このせいなのかもなと朱葉は思う。

 コンタクトだと、涙で落ちて、しまうかもしれないから。

 桐生は、涙なんて、ひとつもこぼしはしなかったけれど。


 在校生に見送られて、外に出る。

「こんな日に、雨なんて!」

 こぼしながらも、傘をさす卒業生は皆笑顔だった。クラスメイトである都築はあっという間に後輩女子に囲まれて、写真をとりあっている。式が終われば今日だけは、スマホもおとがめなしだ。


「あげはー! 写真とろ!」


 夏美や友人達と写真をとっていたら、見送りの保護者の集団から、声がかかった。


「あげはちゃん!」


 先に振り返った夏美が、「ぎゃ!」と声をあげ、朱葉の腕をひく。「なぁに……?」と振り返ってみれば。


「卒業、おめでとう」


 きちんと礼服に身を固めた、秋尾とキングがいた。キングが差し出すのは、美しい、スイートピーの花束だ。

「あ、ありがとうございます! どうして……」

 平日なのに、とうろたえる朱葉に。


「せっかくの門出だ」

「カメラマンが、必要かと思って?」


 と秋尾がごつい一眼レフを構える。夏美が歓声をあげて、まずキングとの写真を所望した。朱葉もみんなとの写真をとってもらいながら。


「あいつも、いるでしょ」


 そう秋尾が言って指差した先には、女子生徒に囲まれる桐生。「連れてきます!!」と夏美が手をあげ、人混みの中から桐生を引っ張り出してきた。

 桐生も秋尾が来るとは思っていなかったようで、顔を見て少し驚いた顔をする。


「初卒業式、おめでとう」

「あいにくの、雨だけどな」

「雨もまた、悪くはないだろ」


 そんな風に言って、「じゃあそこの壁の前に立とうか~。あ、朱葉ちゃんは傘貸して。桐生の傘に入ってね」といつものようにテキパキと構図指定をしてくれる。

「アゲハ、前髪」

 キングの細かいチェックも入りながら。


「ちょっと待って、今光量確認するから──」


 一本の傘の下、身を寄せ合って、朱葉は桐生を見上げた。


「卒業ですね」

「そうですね」


 朱葉の言葉に、桐生がそう返す。

 傘を持つ桐生の手に、自分の手を重ねて。


「卒業しても、先生ですか?」


 そう、聞いた。

 都築に対して、卒業しても先生だと言っていた。朱葉は、卒業したら、もう、先生と生徒ではないんじゃないかと思っていたけれど、先生は、もしかしたらそうではないのかもしれないと朱葉は思った。

 聞き返すように、桐生が振り返るが。


「じゃあ。撮るよ! 一発で仕上げる! カウント3、2、1──」


 ぎこちない顔で、写真を一枚。確認をしている間に。


「──さて。どうかは、わからないけど……」


 桐生が、朱葉に囁いた。


「俺は、神様を好きになったんだから」


 大きな黒い、傘を斜めに、周りから遮断するように、二人を隠し。

 ほんの、一瞬。卒業式の、ざわめきを隔てて。


 教師である、桐生から。

 生徒である、朱葉に。

 ほんの一瞬だけ、唇が触れた。


「先生を好きになるくらい、簡単なのでは?」


 そして至近距離からそう、囁き笑って、姿勢を戻して傘も、持ち上げる。

 驚き固まる、朱葉がみるみる赤くなり。



「──そういうとこだぞ!!!!!」



 それだけ叫んで、離れた。秋尾やキングが驚いた顔をしているが、桐生はひとり、何食わぬ顔。

(そういう!!! ところ!!!!!!)

 そのまま逃げるように大股で歩いていた朱葉だったけれど。


「せんぱい……」


 その先に、涙を浮かべた咲がいた。後ろには、ひっそりと九堂が、心配そうに眺めている。

「咲ちゃん!」

「先輩いぃいい……卒業なんてしないでくださいいいい……」

「あはは、それはムリかな!」

「ムリなのむりぃ……」

「大丈夫大丈夫! イベントいけば絶対会えるし!! また、活動だって再開するよ!」

 ガッツポーズをつくって朱葉が言う。


「咲ちゃんだって、新刊、読みたいでしょう?」


 絶対読みたいです!!!! と咲が叫ぶ。でもまだ、涙は止まらないみたいだから。

「はい、これ」

 朱葉は、自分の制服のリボンをとり、咲に渡した。

「よかったら、もらって」

 漫研のこと、よろしくね。

 そう言ったなら。


「…………はい……!」


 しっかりと、咲が頷いた。胸にリボンを、抱きしめるようにして。




 雨の卒業式は、つつがなく終わった。明日が合格発表の大学も多いし、まだまだ進路指導は続く。結局は浪人という道を選ぶ生徒もいるかもしれない。

 桐生は卒業生を見送ったあと、まず教室を確認し、職員室に戻った。それから、生物準備室に行き。

(……世話になったな)

 自分と、朱葉が、ずいぶん話し込んだ机をなぜた。

 教師と、生徒じゃなかったらと、思ったことはある。確かにある。でも、教師と生徒じゃなかったら──自分は、きっと。

 神様を好きになることなんて出来なかっただろう。

 だから、とても感謝していた。

 好きなものを、好きなままで、教師になったから。


 何より好きな、たった一人に出会えたのだろうと、思っている。


 そして足は自然に、漫研の部室に向かっていった。「部室のチェックをしておいてください」と職員室の机に、朱葉の字でメモとともに鍵が返してあったから。

 扉をあけると、他の部屋よりもよく親しんだ、印刷インクのようなにおいがして。

 中に入った、桐生は。

 思わず、その膝から、崩れ落ちた。


 広がる黒板、いっぱいに。

 いつ描いたのだろう、見間違えるはずのない朱葉の線で、抱きしめられないくらい大きい、推しキャラのイラスト。

 やばい。まずい。

 泣かないって、決めていたのに。

 桐生は眼鏡の下の、瞼をおさえる。こらえきれない涙が、こぼれて、落ちた。


「……そういう……とこだぞ……」


 大きな絵には、大きな文字が、書いてあった。

 卒業の門出に。

 たった一人の、生徒から。





 先生 ありがとう!







そして、完結、おめでとうありがとう!!!!!


こうして、この日に、終わるって決めていました。

さみしいけど、終わりたくないって気持ちもあるけど、

こうして、朱葉さんの卒業を見届けられること。

先生と一緒に、本当に、嬉しく思っています。


「腐男子先生!!!!!」は終わってしまいますが。

先生は、先生らしいですし?

罪でなく、ここからは、面白おかしく、推し活とともに恋愛も、頑張って欲しいなと思っています。

そういう話を、遠からず、書いていきたいなという気持ちですので。

よろしければまた、このページでお会いしましょう!


朱葉ちゃん、先生、卒業おめでとう。


そして、読んで下さったあなた、本当にありがとう!!!!!!

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