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腐男子先生!!!!!  作者: 瀧ことは
白い原稿の小さな推しカット
106/138

106「祝! R解禁!!」

 この秋一番の……というよりも、すでにもう冬だけれど。

 一番の寒波が日本列島を覆った、週明けの月曜日。

 眠いまなこをこすりながら、億劫な気持ちでSNSを開いたら、風船が飛んでいて目が覚めた。

 おめでとうございます、といくつもとんでくるメッセージにいいねをつけながら、家を出る。

 今年の冬はなんだかはやいけれど。

 18年前は、今日が紅葉の盛りだったらしい。

 その葉の色を見て、両親は、朱葉の名前を決めたらしい。

 風は冷たくて、気持ちは晴れやかとは言えないけれど。

 11月20日、早乙女朱葉は18歳になった。




「朱葉~! お誕生日おめでと!」

 これオススメのボディクリームね、それからこれは新発売のチョコレート! そしてこれは私が複数買いしたDVDで~す! と夏美が陽気に朱葉の誕生日を祝ってくれる。

「はいはいありがと」

 ちょっと呆れながらも、朱葉は心から礼を言う。

 誕生日を覚えていてくれたことが嬉しいし、こうして可愛いラッピングをして用意をしてくれたことが嬉しい。

「なあに? 委員長誕生日? 飴ちゃんあげる~」

 通りがかった都築がそんなことを言って、自分の嘗めていた棒付き飴を差し出してくる。

「食べかけはノーセンキュー」

 突き返したら、「俺の熱いキッスの方がよかった?」と言いながら、律儀にまだ封を切っていない棒付き飴をおいていく。

「大丈夫? それ危ないクスリとか入ってない?」

 そんなことを言う夏美は漫画の読み過ぎだと朱葉は思う。

 それから夏美はちょっと身を乗り出して、他のクラスメイトに聞こえないよう、小声で囁いた。


「ね、何もらうの?」


 なにって? と朱葉が聞き返せば。


「とぼけないでよー!」


 とばしばし叩かれる。痛い。

「ふだせんだよ!」

 ともう一度、耳元で。


「さぁ……」


 と朱葉はちょっと身を引きながら答える。

「知らないよ……別に……誕生日知ってるかどうかもわかんないし……」

「知らないと思う?」

 真顔で夏美が尋ねる。


「推しの誕生日」

「絶対知ってる」


 すみませんでした、と朱葉が言う。

「去年は? 去年は何もらったの?」

「いや、去年は……確か、会って間もなかったから……」

 オフのほうで。

 別に、桐生からはなにも、祝われたりはしなかった。ただ、イイネもおめでとうリプライも、してこなかったかといえば……確かめようがない。いや、絶対している、と確信まで出来てしまう。でも。


「別に、何も用意してないんじゃない?」


 オタク活動中は、ともかくとして。

 今は先生と生徒なので。プレゼントをもらったらおかしい、と朱葉は思っている。


「ええ~! つまんない~! せっかくの18歳の誕生日なんだよ! 法律的にも結婚出来る!」

「結婚だけなら16でも出来るでしょ」

「そうだっけ! じゃああれだ!!」

 びし、と夏美が指をつきつけ宣言する。

「祝! R解禁!!」

「あ、それ前も話し合ったことあるんだけど、やっぱり高校生の間はNGじゃない?」

「え!!!! 嘘!!!! わたしすみやかに解禁したよ!!!!! なんなら解禁前にだって……!」

「はいストップ。それ以上は言うな。……いや、今ね、解禁してもね」

 勉強手につかなくなっちゃうでしょう? と朱葉が言えば。

「だよね……夢中になっちゃうもんね……」

 と夏美も神妙に頷いた。

 もちろん男女間の話ではなく。

 推しジャンルの推しカップリングの話である。


「えーじゃあR系のものじゃないとしたら~何かな~。あ、指輪とか!?」


 ギク、と朱葉が硬直する。

「いや……それは……ないんじゃない……?」

 目をそらして朱葉が言う。

「えーなんで~」と夏美が言うけれど。

 もう、もらったから、とは、言いづらい。

 もう、もらったけど。別に、そういう意味じゃない。そういう意味ってなんだ? とにかく……恋人、的な、意味じゃなくて。じゃあ何かって言われたら、よくわかんないけど。

(お守り?)

 って、言ってた。何かはわかんないけど、魔除け、みたいなものだと思って。ずっと、見えないように首から提げてはいる。

 値段は、わからない。

 でも、軽くはないものだな、と朱葉にだって思う。

 重さでいったら、いつも重い。桐生の愛は。

 ただ、それは、推しへの愛だから……と、朱葉は思っている。思い込もうとしている、のかもしれない。どこまでどう、なのかはわからない。

 始業のチャイムが鳴って、今日もかっちり擬態を固めた桐生が教室に入ってくる。その涼しげな横顔を見ながら、朱葉は思う。

(たとえば、卒業を、したら)

 案外、普通に、疎遠になってしまったりもするんじゃないかなって、なんとなく、そんなことを、思ってしまうのは。

 今だけ、の取引だからだ。

 卒業までの間だけ。お互いに、別の、恋人とかつくらないで。

 一緒にいようって。

 卒業、までの……。

 少しだけ、センチメンタルな気持ちになって、顔を背けてしまう。

 背けた顔を、桐生の視線が、不自然でないように、なぜて。


「──それじゃあ、先日の模試の結果を渡すついでに、今日は個人面接をするから」


 いきなり、落ちた爆弾に、教室中が落胆のため息をつく。聞いてないよと、ブーイング。

(個人、面接……)

 もちろんその中で、夏美だけが、いやにわくわくと、朱葉の方を見ていた。

復活です~! ちょっと日付あわせに前編だけになります。どの日にするかずいぶん迷いましたが今日ということで。

先生が、何をくれるかは、ぜひぜひ皆さん、予想してみてください。一応決めてあるので、近日答え合わせです。

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