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腐男子先生!!!!!  作者: 瀧ことは
白い原稿の小さな推しカット
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102 文化祭編 仮装

 衣装を一式貸して欲しいと言われた。

 衣装を、一式、といわれたら、それは靴からウィッグまでのすべてを指す。秋尾の常識では。

 貸せと言われれば貸さない理由はないし、俺に借りるならわかっているだろうなとメイクまで仕上げるつもりだった。その上で、もちろん遊びにも行く。「行く?」と聞いたら、「行く」と迷わず彼の恋人であるキングが答えたので。

 あらゆる予定を合わせて秋尾はキングを連れて桐生と朱葉の通う高校に到着した。

 文化祭は休日に開催されていることもあり、生徒の父兄に加えて、志望校とする中学生だろうか。年若い子らの姿も多く、新鮮な気持ちになった。

 天気も夜までならもちそうだ。外には模擬店も出ていて、揚げ物や焼き物の、いいにおいがした。

 入り口で各クラスの出し物がかかれたチラシをもらい、覗き込む。

「とりあえずどこに行く?」

「アレの出来を見たい」

 とはキングの返事。アレとは桐生のことなのだろう。

「了解。携帯鳴らしても気づかなさそうだしな。朱葉ちゃんの漫研のあとに、桐生のクラスがやってる喫茶に行こうか」

 とりあえず、学校の中を見に行こう、と秋尾がキングの手を引こうとして、ちょっと考えて、やめた。

 今日のコンセプト違いだ。

 どこかのクラスか部活かで、ハロウィンの仮装が行われているのだろう、派手なものから控えめなペイントをしている外部からの客の姿もある。

 これは埋もれたかな、と思っていたけれど、渡り廊下で取り囲まれている長身の姿を見つけて、「おっ」と秋尾が声を上げた。


「よっ」


 手を上げて合図を送る。取り囲んでいた生徒達にチラシを渡して、どこまでも派手で目立つ桐生が大股で歩いてきた。

「歩き方気をつけろ」

 挨拶の前に秋尾が言う。桐生は秋尾の話は聞かず、隣にいたキングを見て言った。


「は?????? 尊い」


 そのまま崩れそうだったけれど人目があるのでなんとか持ちこたえる。当然だし崩れていただいてよかったのに。


「当然」


 と答えた本日の装いはおかっぱ頭にシックなセーラー服だ。どこからどう見ても高校生、いやその小柄な姿は中学生に見える。一緒になって学生服を着たかったけれど、その姿で運転するとあらぬ誤解を招きそうなので秋尾はやめた。

 ちなみに首からさげたカメラで名作にならない範囲の撮影もするつもりだった。学校背景万歳。

 そのキングは桐生を上から下まで眺めて、一言。


「75点」


 その採点に、「「おっし!!!!」」と秋尾と桐生がガッツポーズをした。特に仲間内への点数が辛いキングの、十分な合格点だった。

「アイメイクもう少し濃く出来なかった? この姿だと胸のボリューム足りてないけど」

「そこまではちょっと……」

 俺も、仕事がありますので、とは桐生の言。そこまでガチな仕上がりだと、立場というものが危ぶまれるのだろう。

 それからキングにチラシを渡しつつ、秋尾に対しては耳打ちをする。


「キングはこの姿だと大丈夫かもしれんが、お前はやばい」

「やばいって、何が?」

「来てる」

「?」


 何を言ってるんだ、と声を荒げようとした秋尾に。


「マリカ」


 その名前を出されて、「はぁ?」と思っていたよりも荒い声が出た。その名前は、桐生のモトカノの名前であったし、この様子を見ると、元サヤに戻っての訪問、ではないようだ。あたりまえだ。そうだったら、いろんなことが、台無しだ。

「いや、お前、それ……」

 言いたいことはたくさんあるけれど。


「その格好は、まずいのでは?」

「それな」


 全面的に同意された。秋尾の覚えている限り、マリカというひとは……あまり、コスプレの文化を好ましく思っていない節がある。特に、女装に対して嫌悪感を持つタイプの人間だったはずだ。(そしてそれをわかっていて、これみよがしに女の格好で行ったことが、秋尾にはある)

 秋尾は別に彼女に対してこれといった感情を持っていないけれど、キングはそうではないし、キングの敵は、自分の敵だ。

 どうするか、と考え込んでいる桐生に秋尾が、冷静なアドバイスを渡す。

「いいんじゃ、ないの?」

「え?」

「いや、今だったら、別にお前に対して百年の恋が冷めようが、構わないわけで。それともなにか? 戻るつもりがあるの? 関係」

「いや全然」

 即答だった。少し、安心した。

「だったら、胸張ってなさいよ。誰がうまいこと着飾ってやったと思ってるんだよ。背中丸めてこそこそしてるレイヤーが一番ブサイクだよ」

「レイヤーではないですけどね……」

 せいぜい客寄せ頑張ってきます、と桐生が立ち去り際に言う。


「部室の方にも顔をだしてやって。早乙女くん、頑張ってるから」


 もちろん、と秋尾は答えて見送った。さて、自分はどうするかな、と秋尾は考える。

「今日はキングの父兄の気持ちで来たんだけどね」

 高校見学の、付き添いというやつ。キングは桐生と秋尾の会話を聞いていたのか、いないのか。

 渡り廊下から外を歩く人を眺めながら、楽しそうに集まっている一画をさして、言った。


「人外コスが、いいかな」


 にっこり笑って、秋尾は答える。


「おおせのままに、キング」


 いつまでも、どこまでも、なんででも。

 貴女と遊んで生きていくと決めている。

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