副長、雷腕のボルティック
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「さあ、熊共は片付いた。後はお前だけだなカンガルー坊主」
ガルーは警官達に囲まれていた。
四面楚歌。絶体絶命。
強い奴と闘いたい、"戦闘欲"でわくわくすると同時に、警官を相手にする覚悟との間で複雑な気持ちを抱えていた。
警官に手を出せば、事態は大事になり、より追われる身となるだろう。
自分1人なら、鼻をほじりながらできる覚悟だが、カミオ、キャンナにも自分の行動によって被害を及ぼす事を考えると、覚悟が出来ないでいた。
ガルーが思い付いた方法は一つだった。
「・・・おれの負けだよ、キンパツ」
そう言ってガルーは両手を差し出した。
戦闘欲旺盛なガルーにとって、相手に屈服することは何度生まれ変わっても有り得ない程の出来事だが、ガルーのとった行動はこうだった。
旺盛な戦闘欲をも上回る程、カミオ達への思いが勝っているとガルーが確信した瞬間であった。
「ほう、突然やけに素直になったな。まあいい、俺たちも無駄な争いがしたい訳じゃない。素直に捕まってくれるなら、それが1番だ」
キンパツはそう言うと、手錠をかけようと手を伸ばす。
その瞬間、ガルーが吠える。
「おい!待て! 後ろを見ろ!!!」
「往生際が悪いぞカンガルー。素直に捕まっておけ」
「違う!馬鹿野郎避けろ!」
ガルーの言葉に後ろを向いた金髪だったが、その瞬間、身体は宙を舞い、吹き飛ばされた。
「な、なんだコイツは・・・」
警官の一人が思わず呟いた。
その眼前には、1匹の熊が居た。それも、先程まで対峙していた大熊の2倍はあろうかと言う超巨大な熊だ。
何体もの巨大な動物達を相手にしてきた手練の警官達でも、見た事のないサイズだった。怪物の中の怪物。
冷や汗をかく警官達を尻目に、ガルーは1人笑みを浮かべていた。
「よし、お前ら! おれがコイツをぶっ飛ばしてやるから、おれのことを見逃せ」
ガルーの問いかけに、1人の警官が答える。
「フン、誰がみすみすとお前を逃すものか。それと、手錠がかけられた状態のお前に何ができる」
ガルーは自分の両手に目をやる。
あぁ!?あの金髪、吹き飛ばされながらもきちんとおれに手錠をかけていやがった!!!
警察に捕まるどころの話じゃねェ!このままじゃ警官もろともここでお陀仏だ!
ガルーが思いあぐねているうちに、警官達がガルーを取り押さえる。
「おい!お前ら何してる!速くおれの手錠を解け!」
「解く訳がないだろう獣。お前は署まで連行する」
「わ、わかった。なら、頑張れ! 無事におれを連行しろよ!」
「変な奴だ。言われなくてもそうする」
こんなカンガルーと警官のやり取りを黙って聞く訳もなく、同胞を倒された恨みを晴らすが如く、怪物が牙を向く。
警官が素早く放った2発の弾丸を、その巨体からは想像もつかぬ身のこなしで躱す。
そして、追撃の間もなく薙ぎ倒す。
ただデカいだけではない。力だけではない。高い知能をも併せ持った怪物に、手練の警官達もバッタバッタと倒されていった。
いつしかその場に立っていたのは、その怪物だけになっていた。
返り血を浴び、夕日に照らされた紅の怪物は、その怒りに満ちた眼差しを、地に付すガルーに向けている。
くそ、ここまでか。
だから手錠を解けと言ったんだ無能警官共が。足にまで錠をかけやがって・・・
カミオ、キャンナ。後は頼んだぞ。
おれは殺された後カンガルーの妖怪と化して、おれをこんな目にあわせた無能警官共を呪い殺すことを生き甲斐、いや、死に甲斐とするよ。
さらばこの世・・・よろしくあの世・・・
---ザシュッ!!!
・・・オ ミオ カミオ! 起きて!
「・・・ん?キャンナ・・・?」
「良かった。死んでるのかと思ったわ」ニコッ
「おい、ニコッじゃない!感謝しろ!ありがとうってちゃんと言え!」
と、カミオがキャンナに吠えながら起き上がると、目の前は夕日で茜色に染まっていた。
自分はどれほど寝ていたのだろう。
「キャンナ、ガルーは!?」
カミオにキャンナは答える。
「分からない。私は逃げてから、武器を持ってここにすぐ戻ってきて、それからずっとここに居るけど・・・ガルーとは会ってないわ。街の外に効率よく行くにはここを通る筈だし、1番考えられるとしたら、警察に捕まってるとかかしらね」ニコッ
「いやだからニコッじゃないんだよ!」
「馬鹿ね、悲しい時こそ笑うのよ」ニコッ
「なんだよそりゃ・・・まあいい。とにかくガルーを探しに行くぞキャンナ!」ニコッ
----ポタ・・・ポタ・・・
陽に照らされ、より赤みを増した血液が滴り落ちる音がする。
「痛ェなァ、おい」
そこには、ガルーを庇うように怪物の攻撃を受け、傷を負った金髪の姿があった。
「なんのつもりだ・・・?金髪のおっさん」
「フン、お前は逃がさんよ。あの世にも何処にもな」
「そして貴様も逃がさんぞ化け物め!同胞を倒された者同士、サシの腕っ節でケリつけようぜ!!!」
同じ目をした2体の化け物が対峙する。
先に動いたのは、熊だった。
常識に囚われない、力任せの野生の一撃を矢継ぎ早に放っていく。その連撃を、まるで来る場所が分かっているかのように金髪が躱していく。
シュッ! シュッ!
熊の剛腕が空を切る。
この体躯でこの動き、久方ぶりの強者だ。だが、相手が悪かったな。俺はお前を超える強者だ。
大人しく眠っていろ!
ドン! ドン!
金髪のカウンターがヒットしていく。
一撃では倒れなかった熊も、数回食らうと流石にダメージを隠せない。
グオオオオオ・・・
熊は唸りを上げ、疲れを見せ始めるも、未だ倒れる気配はない。
「流石にこれ程の大物ともなると、なかなか倒れんな。」
「アレ(・・)を使う他ないか」
金髪が呟いたその時、額に流れていた血が目に入る。
相手に対する警戒がほんの一瞬、途切れた。
熊はその最大のチャンスを見逃さなかった。己の全てを最大限に動員し、金髪に向かって飛び掛かる。
「おっさん!!!」
ガルーの咆哮の先には、熊に左腕を噛み付かれた金髪の姿があった。
ほう、まだそんな力を残していたか化け物… 仕方ない。くれてやろう、その"左腕"…!!!
バキバキッ! ズンッ!!!
熊は金髪の左腕を噛み砕き、根本から引きちぎった。
ヴァリヴァリヴァリィ!!! バチバチ!!
その瞬間、凄まじい閃光と共に、聞き慣れない音と焦げ臭い匂いが当たりを包んだ。
「な、何が起きた…」
ガルーがそう思うのも無理はなかった。
腕を噛みちぎっていた筈の熊が、酷い火傷を負って地に伏していたのである。
「お前にくれてやった左腕は偽物だ。本物はとうに他の奴にあげちまってね。すまないな化け熊。」
そう呟いた男の、左腕のあった場所には、電流を纏った金属の、腕とは呼べぬ、奇怪な棒のようなものが付いている。
規格外の化け物をも、その奇怪な左腕で打ち倒す。
その男の名は、雷腕のボルティック。