一人去って、一匹
---お祭り当日
「世話になったな、トト」
「フフ…お前が礼を言うとはな。人間一度はカンガルーになってみるもんだな」
「最後くらい礼を言ってやろうと思ったらこれだ!!!」
「今日の今日こそは許さんぞトト!!! 最後の最後にどっちが上か教えておいてやるわァ!!!!」
バキッ ドゴゴ ドドドド!!!!!!!
2人の喧嘩による騒音も、俺にとっては、朝に鳴く小鳥の囀りのように、爽やかな朝を飾る一つのピースに過ぎない。
そう思うことができるまでに、この期間で2人と俺は溶け込めた。
ガルーに出会ったあの日はどうなることかと思ったが、今、この瞬間、俺は充分な幸せに包まれている。
そんな束の間の幸せも、今日で終わる。このままでいるのはもちろんダメだとは思う。俺が、ガルーが、何故こうなってしまったのか。それを知りたい気待ちと、それを追いかける不安とが同時に押し寄せてくる。
幸福。好奇心。不安。複雑に混ざり合う。
その全てを背負って、今、旅に出る。
「達者でなペット共…!!!」
カランコローン
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2匹の獣が森を抜けていく。
この森を抜ければ、街の中央-スタンストリート-へと出ることができる。
カミオは人間であった時の記憶を微かに思い出していた。
と言っても、ふわふわとした記憶で、自分が本当に人間だったのかを確信することは出来ないでいた。
この森を抜けた先にある住宅街で俺は暮らしていたのか…?
だとしたら、家族もそこにいるのか?
その鍵がこの先にある。
「さあ、そろそろつくぞ。いくらお祭りでみんな仮装してるからって、あんまり目立つ行動はとるなよ。」
凸凹の道がだんだんと平坦になっていく。明らかに違う空気を向こうに感じる。にぎやかな声が耳に入ってくる。
-スタンストリート-
こっちまできてみろー まてー まてー
子供達が追いかけっこをしている。
やはり俺はここに住んでいたのだろうか、なんだか懐かしい感じがする。
青色の空に白い雲。緑の木々。金色の太陽に照らされ、カラフルな屋台の屋根が、より一層輝いて見える。
俺はいつの間にか呟いていた。
「…平和だなぁ」
「ソウ、ココハ平和平凡ナ街-ダードスタン-ノ中央街、-スタンストリート-デゴザイマス。本日ハ一年二一度ノオ祭リ"大平祭"ヲ開催シテオリマス。皆ガ、動物ノ姿二仮装シテ、自然ヘノ感謝ヲ表ス。ソンナオ祭リデゴザイマス。オ二人ノ仮装、オ似合イデゴザイマスヨ。」
謎のメタリックがカタコトで喋る。
「ななな何…? この人も仮装してるのか?」ロボットノカソウ?
ガルーは笑顔で答えた。
「ハハハッ! こいつは"TA-スケル" かの有名な大天才発明家兼科学者兼、世界一の大企業-ジーレント社-通称"G社"の大社長"サイニアス=ジーレント"が生み出した量産型お助けロボットだ! G社は世のため人のためと言うスローガンを掲げ、このお助けロボットを街中に配備することで、街の人達に快適、安全な生活をお届けしているのだ!」
「へ…へぇ」
「…おっと、つい喋りすぎてしまった。先を急ぐぞ」
俺たちは美味しそうな匂いの漂う屋台などには目もくれず、仮装した人を、ロボットをかき分け、最短ルートを突き進んだ。
屋台には目もくれず……目もくれず……
「な、なあガルー。あの"じゃがバター"ってやつ食べt」
「ダメだ!!! 後で美味しい美味しい男の料理を作ってやるから我慢しろ」
「どうせまたドングリじゃn」
まてー!!!!!!!
大人の男が誰かを追いかけている。
お祭りでテンションが上がったのか、大人まで追いかけっことは平和な街だ。
誰か捕まえてくれー!!! 泥棒だー!!!!!!!
え?泥棒??
目をやるとそこには走る影が。そしてその手には"じゃがバター"!!!
◎『カミオの脳内』
『じゃがバター泥棒を捕まえる→店主に感謝される→じゃがバター贈呈→happy』
「俺は!悪は許さない!!」 マテージャガバター
「おい!カミオ待て!!!」
カミオとガルーは泥棒を追いかける。いや、詳しくは、泥棒を追うカミオ。そしてそのカミオをガルーが追いかける。
最初は離れていた泥棒との距離も、猛獣の身体能力を持つ2人はその差をどんどんと縮めていった。が、泥棒もものすごいスピードで逃げていく。
「なあ、ガルー アイツ速くないか?」 ゼェゼェ
「ああ、俺たちが本気で追いかけてこれだ ただの泥棒じゃないらしい」 ゼェゼェ
泥棒は、陸上100m金メダリスト級の走りを見せていた。が、それを追いかける2人は人外だ。じりじりと距離を詰め、ついに手が届きそうなくらいまで近づいた。
「……仕方ないわね」
じゃがバター泥棒はそう呟くと、じゃがバターを鞄に入れ、地面に両手をつけた。泥棒は、四足歩行で再び走り出した。
四足走法にチェンジした泥棒は人外のカミオ、ガルーをも凌ぐスピードで2人との距離を再びグングン離していった。
そして、曲がり角を猛スピードで曲がり、一瞬にして姿を消してしまった。
「何処に行きやがった…一体何者だ……」 ゼェゼェゼェゼェ
「ん?じゃがバターの匂い」 クンクン
「あそこだ!!!!」
カミオの鼻がじゃがバターの香りによって、泥棒の場所を嗅ぎ当てた。
「あの木の上だ!」
カミオがそう言った瞬間、泥棒が動いたのだろうか。木の葉がガサゴソと揺れた。
そこを見逃さず、ガルーがとんでもない跳躍力で木の上へジャンプする……
---何者よアンタたち
捕まえた泥棒は、猫の仮装をした幼い少女だった。
「女!?!?!?」
カミオとガルーは同時に吠えた。
「女だったら悪いわけ? アンタたちは何者なの?って聞いてるの」
カミオとガルーは驚いた顔で目を合わせた。
今まで追いかけていた100m金メダリストを凌駕する脚を持つ泥棒は、ムキムキの男ではなく、可愛らしい女の子だったのだ。
「ねえ、無視しないでくれる? まあいいわ。アナタたち"獣人"ね」
「きめいら?なんですかそれは」
カミオは年下の女の子に敬語で聞いた。
「少し前から突然現れた獣人間の事よ。アナタたちみたいなね。みんな仮装してるからバレないと思ったら大間違いよ。目を見れば分かるわ」
「ほぉ。それよりも、さっきのとんでもないスピードはなんだ?」
ガルーの言葉を遮るかのように、泥棒女は言った。
「ふん。私は物を盗んで生計を立ててるの。必死で生きてればあのくらいの事はできるのよ。アナタたちには分からないでしょうけど」
「それじゃ、アナタたちもせいぜい頑張りなさい」
---まて
「確かにお前は賢いが、所詮は子供だ。お前も俺たちと同じ獣人だろう?そして、俺たちと一緒にその謎を探りたいと思っている」
ガルーの顔はいつになく真剣だ。
「……勝手に決めつけないで。アナタに何が分かるっていうの!?」
---目を見れば分かる
「俺たちについてくるか。さっきの店に突き出されるか。選ぶがいい小娘」
真剣だった顔は、いつもの狂気に溢れた笑みに変わっていた。
「おい、ガルー こんな小さい女の子にその発言はよくn」
泥棒猫は数秒の沈黙の後言った。
「……仕方ないわね。別にアナタたちと居たい訳じゃないから。ここで捕まるのは嫌なだけだから」
「あ、あと小娘とかガキとか呼ばないで。名前はキャンナよ。キャンナお嬢様と呼びなさい」 ニコッ
こうして、オオカミ男とカンガルーの異色パーティに紅一点、泥棒猫が加わったのであった。
そして、あんなにも不機嫌だった女の子がガルーのあんなに乱暴な一言で仲間に加わったことに、納得がいかないカミオなのであった。
なんとなくだが、人間の頃から女の子の気持ちは分かっていなかったような気がした。