産声
静かな月夜の森の奥。耳を済ますと、
ワウゥーーーーゥ!!!!!
と、鬼気迫る咆哮が聞こえる。
ズガッ!!! ガガガァン!!!!!
何かをきりつける音。二つの光が鋭く輝く。
ガァアアアアアァァ!!!!!
襲いかかる灰色の獣は鋭く睨んでいる。
だが、その眼は何も見えてはいなかった。見ようとしていなかった。
獣は立ち上がり、刃物のように尖った爪を突き立てる。
ドン…!!!
鈍い音が静寂に響き、灰色の獣が横たわる。
―――目は覚めたか。
眼に鋭い光が突き刺さる。
森はいつの間にか、夜が明けていた。
彼は思った。
いつから自分は森に居たのだろう。いつからこうしていたのだろう。
―――自分は何者なのだろう。
彼は飛び起きる。
その眼前には、木漏れ日に照らされた荒れた木々と、
帽子を被る茶色の獣がいた。
「お前は誰だ」
声にならない声が森に響く。
「落ち着け。落ち着かないのも無理はないがな。」
茶色の獣が喋った事に驚いたのもつかの間、自分自身の手が灰色の毛で覆われていることに気づく。
心臓の大きな鼓動を尻目に、とりあえず一旦落ち着くことにした。
目が覚めてからどれほど経っただろう。
2人は、いや、2匹はお互いに喋ることはなく、小鳥の囀りに耳を傾ける訳でもなく、淡々と時が過ぎていた。
心臓が動いていることも意識しなくなっていた時、片方の獣が口を開く。
「な、何者なんだお前は…!!」
茶色は答える。
「おれも分からなかった。最初はな。」
「たまたま昔からの知り合いに出会って、思い出したんだ。…自分が人間だったってことを。な。」
心臓が再び強く鳴り出す。
太陽の光が雲に隠れて木々に色が付いていく。
「…俺も……人間だった…!!」「この森の向こうにある、あの街で…暮らしていた……」
心臓の音が張り裂けんばかりに強く、強く鳴り響いていた。