第四話
不気味な警報が鳴り響いていた。
ぶーん、ぶーん、と聞いている人を不快にさせるビープ音。
それは、紛れもなく対空ミサイルに捕捉されている、というメッセージだった。
敵を撹乱させるためにフレアディスペンサーを起動させる。一度きりしか使えない墜落回避装置。これで低空範囲では撒ける。しばらくはロックオンの標的はフレアにいく。でも、敵は弾頭があり続ける限り何度でもロックオンし、墜落させようと情け容赦なく対空ミサイルを叩き込んでくる。
後部の座席からは、乗り会わせた小隊の罵詈雑言が聞こえ、銃座の機関銃を撃っているのか、断続的に銃声が聞こえてくる。
沈黙していた警告音がまた鳴り始めた。場所を補足された。フレアはない。
横を飛んでいた戦闘ヘリが対空攻撃を受け墜落するのが視界の端で見えた。
次は自分だ。
どうする。
どうする。
ビープ音と銃声が鳴り響く機内で、カブは一人恐慌状態に陥っていた。
銃座の隊員が叫ぶ。
脱出、と言ったかもしれないその声は、カブの耳に届く前に爆発音で掻き消された。
数時間前、駐屯地第三格納庫。
カブはヘリのコックピットに座り、活字と見間違えるほど上手な筆記体で手紙を書いていた。
これは出撃前の兵士が書くことを義務づけられている手紙だ。手紙と言っても、その手紙は兵士が戦死したときだけに送られるものだから遺書と言ってもいいかもしれない。毎日毎日何人もの兵士が死ぬ前線で、死んだ兵士は遺骨さえも拾ってもらえない。だから、気休め程度にしかならないが、軍は遺族に何かを渡すために、すべての兵士に手紙を書くことを義務づけた。軍の郵便局に提出しておけば、差出人が死亡したときに発送される。
その手紙の内容はいつも似たり寄ったりだ。
前日にあったこと、手紙を書く前何をしていたか、今回の作戦ーつまり自分はどんな作戦で死んだかーを書き記しておく。最期に自分が何を思って、どうやって死んだのかが相手に伝わるように。
情報通信技術の進歩は日進月歩だが、カブはあくまでも手紙というデッドメディアに拘った。カブだけではない。周りの兵士たちもカブのように手紙に残している。もちろん電子メールでの発送も可能だが、どういうわけかそういった方法で遺書を残す兵士は少なかった。それは昔からの風習なのかもしれないし、機械に囲まれて生き、そして死ぬ現代の兵士たちにとって最期に残された先祖帰りなのかもしれない。その辺はカブにもよくわからないが、カブは自分の文字で遺書を書いているということは事実だった。
「よおカブ」
聞き慣れた声が聞こえてきて、カブはフロントガラス越しにアランの姿を見る。
「先輩、どうしてここにいるんですか。格納庫の前に張ってある張り紙見ませんでしたか?」
「関係者意外立ち入り禁止、ってやつだろう」
そう言ってアランは体の後ろに隠してあった張り紙をカブに見せつける。張り紙には大きなゴシック体で、KEEP OUT と書かれていた。
「一応俺も関係者だ。俺はお前とその他たくさんのヘリパイロットの副操縦士兼ガンナーだ。もっとも、銃座の操作は射撃システムが主だけれどな」
カブの隣の操縦席、本来ならば副操縦士が乗る場所には一辺およそ30センチほどの黒光りする四角い物体が鎮座している。
これは情報科からの電波を受信しヘリに反映させるコンピュータである。これによってカブたちヘリパイロットは二人で操縦するはずのヘリを独りで操縦することができる。いわば遠隔操作の副操縦士というわけだ。そしてカブの遠隔操作を担当しているのがアランであり、情報科にはアランのような要員がたくさん存在する。
「先輩は百分の一しか僕のヘリ操縦を担当していないじゃないですか。だから僕と違って先輩は百分の一しかこの場所には入れません。此処から百分の一、ってなると入り口付近ですよ。そこまで下がってください」
「違う、こう考えるんだ。俺は独りで百人のサポートをしている。よって、俺はお前ら独りで操縦するヘリパイロットよりも百倍苦労しているわけじゃないか?
な、そうだろう」
ヘリを遠隔操作する要員は大抵一人につき何十機もの機体を担当している。人員削減のためだ。一人につき一機の担当であったら何のために高い金を出してヘリにコンピュータを艤装しているのかわからないし、何より普通に副操縦士を載せたほうが手っ取り早い。
「ともかく、俺は多かれ少なかれお前の操縦を半分担当しているんだ、ここに入ってきても何も文句をいうな。それに、俺が持ってきた情報を聞けばお前は俺を日本古来の伝統の神棚に入れて奉りたくなるだろう」