神殿騎士団と言うモノがあるそうです。
大聖堂で突然拝まれて、びっくりしちゃったわたしは、思わず逃げちゃいました。
新興宗教の教祖様って、あんなの良く平気ですよね?
性格とか、慣れの問題なのかもしれませんけど…
生徒会長とかってすごいよね?
全校生徒とかの前で話すなんてわたしには無理ですよ。
平平凡凡な村娘Dには、多くを期待しないでください。
と言うかね? いきなり大勢に拝まれてみてよ。怖いって。
「聖女様! 突然どうされたのですか?」
突然逃げ出したわたしに、ミレッタもコニーも付いて来てくれたみたいです。
よかった。
自分で走り出しておいてなんですけど、一人になるのはよくないですね。
お付きの彼女たちにも迷惑がかかるでしょうし、ひょいと攫われてしまうと言いますし。
「ご、ごめんなさい。突然の事で驚いてしまいました」
「?」
ミレッタとコニーは不思議そうにわたしを見ました。
「いえ…あんなに大勢の人っていうのは初めてですし…突然拝まれちゃうし…その…」
大勢の人、という事であれば村から王都に来た際の王都内の中の方が人数的には多かったです。
でも、その時は馬車の中から窓越しに見ただけで、視線や意識がこちらに向けられる事は無かったので、問題無かったのですが、今回はもろに大勢の人からこちらを見られていたし、何より大人数から拝まれたのです。
わたしの中の小市民な部分が出てもしょうがなくない?
そう言う事をもにょもにょと話します。
「ああ、そういえば聖女様は王都に来る前は小さな村に居たって聞いてますしね」
「そう言う事なら、まあ…仕方ないな」
「突然大勢の前に出たら、びっくりしますよね」
「しかし、意外だな。聖女様と言うくらいだから、そういう大勢の前での説法とかに慣れていると思っていた」
村娘Dにナニを期待してますか。
「とは言え、突然走り出すのは控えてもらいたい。何かあれば私が守る。ひょいと持って行かれてしまう」
「び、びっくりして驚いただけです。つ、次から気を付けます」
ひょいと持ってかれるのは困ります。
「ところで…ここはどこでしょうか…?」
今、わたしがいるのは大聖堂から繋がっている渡り廊下。
修道院から大聖堂につながる渡り廊下は屋外むき出しじゃなく、キチンと屋根と壁があって、床には絨毯が引かれていて、普通の屋内の廊下と言ってもいいですね。
窓も多く配置されていて明るく、暗くてじめじめした感じは無い。
窓の外には中庭が広がっているんだけど、今いる渡り廊下はそんなカンジじゃない。
屋根はあるけど、屋外むき出しだし、床は歩く所だけ石畳であとは土むき出し。
一般開放もされていて観光名所になっているらしい教会本部は、全体的にきらびやかできらきらしています。
通路は絨毯が引かれているし、それ以外の場所、特に大聖堂の中の床とかは、つるつるした石の床で覆われています。
歩く度にかつーんかつーんって音が鳴るんですよ。
夜に一人でいる時には怖すぎると思うんですよ。
板張りの所なんて無いんですよ。
板張りのぎしっぎしっも怖いと思うけどね。
でも、ここは表面がざらざらごつごつした石畳。
きらきらつるつるの教会本部の中とは思えない場所ですね。
「ああ、ここは神殿騎士団に繋がる通路だな」
コニーが答えてくれました。
「神殿騎士団?」
「ああ、この通路を進むと神殿騎士団本部に着く。さらにその先に訓練場がある」
「さっきまではきらきらつるつるの場所でしたのに、ここはそうでもないのですね」
わたしは疑問に思ったので聞いてみました。
「ああ、ここから先は神殿騎士団の管轄だからな。神殿騎士団は基本的にふだん甲冑や防具を纏っているからな。足元だってそうだ。華美な設備では壊れたり傷ついたりするから、ここから先はこういう感じさ」
「でも、さっきのきらきらつるつるの場所にも行く事もあるのではないでしょうか?」
「そういう時は、甲冑などではなく、それに見合った祭典用の軍服等になるさ」
色々考えられてるのですね。
「ここが大聖堂でーーこっちが修道院ーーここがこうなって…今、ここ。で、こっち側が神殿騎士団側」
コニーは足元の土の上に大雑把に地図を描いてくれます。
大聖堂を挟んで、ちょうど修道院とは正反対ですね。
「私も聖女様付きになる前は神殿騎士団所属だったしな。古巣と言った感じか。まだ昨日の事だがな」
「そうだったのですか! 知りませんでした」
「ああ、別にわざわざ言う事でも無いしな。通常時ならともかく、聖女様付きの護衛という事で神殿騎士団所属の、しかも女神殿騎士と言う事で私が選ばれた」
ちょうどいい、神殿騎士団も案内しようーーという事になりました。
コニーが先に進み、ミレッタがわたしの手を引いてくれます。
土がむき出しだし、ざらざらぼこぼこした石畳の渡り廊下と言っても、暗くてじめじめしてるわけじゃないので怖くありません。
歩いて行くと、建物が見えてきました。
「あそこが神殿騎士団の本部だ。ここからじゃ角度の関係で見えないが、神殿騎士団の団員の宿舎も並ぶように併設されている」
全体的な色は、他の教会施設と同じ白を基調にした感じだけど、大聖堂がきらきらしてるし装飾とかいっぱい付いていて派手。修道院はなんとなく丸みを帯びていて何と無くふわっとしたカンジ?
神殿騎士団本部は装飾とかが一切なくて一切の無駄をそぎ落とした感じ。全体的にはごつごつしたカンジで、うーん…無骨ってカンジ? かくかくしてる。
あ、でも、ぼろいってカンジじゃないよ。
「はは、無骨な者も多いですから。こんな感じになってますが、ここも教会の一部ですから手入れはきちんと行っているさ」
わたしの気持ちを察したのか、コニーが教えてくれます。
確かに、掃除も行き届いているみたいだし、壊れてる所も無いです。
「ごめんなさい。騎士様という事は斬った張ったがお仕事でしょう? お掃除とか修繕とか深く考えない荒々しい人たちばっかりと勝手に思ってしまいました」
「無骨で粗忽者が多いのは確かだよ。女神殿騎士も男に比べてマシとは言え似たようなものさ。ただ、来訪者が多くは無いとは言えゼロでは無いからな。神殿騎士団にも誇りがある。本部がぼろでは示しがつかんからな」
コニーは気にした様子も無く笑って答えました。
遠くから何やら歓声や掛け声らしきものが聞こえます。
「なんだか賑やかですね」
「今の時間だと奥にある訓練場で訓練中ですね。覗いてみますか?」
「お願いします」
神殿本部の中は後にしましょう。
神殿騎士団本部の脇を通り過ぎて奥に向かいます。
建物の角を曲がると一気に掛け声の音量が上がります。
すごく広い訓練場にたくさんの人が訓練をしています。
全身鎧でがっしょんがっしょんいいながら走ってる騎士様や簡単な服で剣を振ってる人。あの人も騎士様なのかな?
格闘? してる人もいます。わたしは格闘技とかわからないので、ただ喧嘩してる様にしか見えません。
と、見覚えがある人がいます。
ロッソ・アンダーソン様。
わたしをマール村からこの王都に連れてきた騎士様です。
相変わらず全身鎧でがっしょんがっしょんです。
一段高い所から10人くらいの騎士様に指示を出しています。
隊長さんなのかな?
あ、こちらに気付いたようです。
部下? の人達に何か指示を出した後、一人でわたしたちの元にやって来ました。
「コニー・ローリアン。訓練にも出ずにどうした!?」
どうやら、わたしじゃなくコニーに気付いてこちらに来たみたいです。
「アンダーソン隊長!? いつお戻りに?」
「今日の朝だ。教会本部に報告やら何やらがあったので、神殿騎士団本部に戻って来たのはついさっきだがな! だが戻って見ればお前がおらん。他の物に聞いても良くわからんと言うし、怪我や何かで療養と言うわけでも無いようだしな」
「いえ、わたしは本日の昼をもちまして、神殿騎士団から聖女様付きの護衛として所属が移動になりました」
「なに!? そんな事は聞いておらんぞ!」
「上からの命との事で。アンダーソン隊長は不在ゆえ、ケビン隊長の方から伝えておくと伺っていたのですが…?」
んん?
なにか問題が発生したみたいです。
状況的に情報伝達の不備でしょうか?
というかロッソ様、声でっかいね。
マール村から王都までの道のりでは穏やかな声だったのにね。
「これは! 聖女様!」
ロッソ様はわたしに気付いたようで、跪き礼をとった。
大聖堂の中の時みたいに土下座バージョンじゃなく、よくある騎士様がやる礼。
土下座バージョンじゃないだけまだ良いけど、自分よりずっと年上の人に礼をとられるのは、なんだかなー…って思う。
「ロッソ様。王都までありがとうございました。おかげさまで良くしてもらっています」
「これは、お見苦しい様を! 聖女様のお役に立てた事、光栄でございます。ところで、このような所へ何故?」
わたしは、教会の中を見て回っている事を伝えました。
「なるほど、神殿騎士団としてこれほど光栄な事はございません。ごゆるりと見学をなさってくださいーーコニー。くれぐれも失礼の無いようにな!」
ロッソ様はそのまま戻って行きました。
隊長と言う立場では、わたしだけにかまけていてはダメでしょうしね。
「ケビン、ケビーン! 貴様、どういう事だ? 俺は聞いてないぞ!」
ロッソ様は、大声を出しながら、あっと言う間にかなり遠くに走って行ってしまいました。
「コニーはロッソ様の下に就いていたのですね」
「情報伝達がうまくいってなかったようで…お見苦しい様を」
コニーは苦笑していました。
その後は、神殿騎士団本部の建物の中を見学して、その場を後にしました。