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よくわかり以下略・裏(天光降教教皇レヴァン・ベルヌーイの場合)

別視点です。

別視点は、今回はこれで終了です。

明日は行きません。

 事の起こりは王宮へ招かれた定期的な会食での席であった。


「なあ、レヴァン。最近王都内である事が特に噂になってるが、レヴァンの耳には入っているか?」


 会食の席でも最も位の高い位置の上座に座するアレックス・レム・ド・コンラードが言った。

 今回の会食の主催であり、ここ、コンラード王国の国王でもある。


 しかし、噂……か。


 彼、レヴァン・ベルヌーイはコンラード王国国教である天光降(サン・レイ)教における最高位、教皇と言う立場にあった。

 最近は各貴族間の調整や毎晩のようにある晩餐や夜会、会食で、屋敷には寝に帰っている様なもの。

 招待された屋敷に泊まるのもザラだ。

 最近の王都内における市井の様子などさっぱりわからなかった。

 とは言え、まったく知りませんでしたなどと言うには、レヴァンの立場、そして矜持(プライド)が許さなかった。


「さてさて。市井の噂話など、根も葉もない流言から単なる戯言まで多岐に渡りますしなぁ…あまりに多すぎる故、陛下の申された噂がどれにあたるのか…判断が難しいですな」


『知らない』のではない、『もちろん知っているが、どの噂の事を言っているのかが分からない』と言う風を装う。


「おお、そうだな。確かにただ『噂』だけでは判断が付かぬな。ワシもつい最近知ったのだが、どうも優秀な医者がいる様でな。他にも無償で治療を行うとか、見目も麗しいなどといった噂でな。ほれ、末の姫がそう言った事に夢中での」


「ああ、レイミー姫様は天真爛漫でいらっしゃいますからな。そう言った噂話なども茶会などでは話に花咲く事でしょうな」


「うむうむ。レイミーはまだ小さいからな、そいうった話が楽しくてしょうがないのだろう」


 相好を崩すコンラード王アレックス。

 話に出たレイミー姫は正妃との間に出来た唯一の姫。

 もちろん正妃との間にはすでに長子として男子が生まれており、すでに成人し王太子を冠している。

 しかし、その後正妃との間に子が出来ず3人の側妃との間に3男5女を設けていた。

 正妃との間に長子の男子で、しかもすでに王太子位を冠しており、側妃の間には3人の王子が控えている。

 世継ぎ問題も安泰ではあったが、アレックスは正妃を非常に愛しており、その間に一人しか子を設けられなかった事を嘆いていたのだ。

 そんな中での正妃との間に生まれた姫。

 もちろん他の王子王女も等しく愛していたが、正妃との間に出来た待望の姫はこの上なく可愛がっていた。


「レイミー姫は非常にお可愛らしいですからなぁ。そういえばそろそろ10でしたかな? そろそろ良き縁談も来ているのではないですかな?」


「うむうむ。まだまだ早いとは言え、レイミーには最高の男を用意してやらねばな」


「エドワード卿の所やチャック卿の所に良い年頃の子息がおられましたなぁ。歳若いながらもなかなかに優秀とか」


「ーーーーーーーーーーー」


「ーーーーーーーーー……」


「ーーーーーーー…………」


 アレックスの言葉に頷きながら、会話を続けたレヴァン。

 最初に話に登った噂話からうまい具合に話を逸らしたまま会食は進んだ。




 コンラード王アレックスとの会食も済み、自分の自宅である屋敷へと帰ったレヴァンは、翌朝、教会本部の教皇執務室へと向かうと、本部内に居た枢機卿数名を執務室に呼び、昨夜のアレックスとの会食の際に話に登った噂の話を、話して聞かせた。


「陛下の話にあった噂と言うモノを知っておる者はおるか?」


「ああ、それならば聞いた事がありますな」


「私も聞いていますね。なんでも優秀な医者とか?」


「いつもの単なる噂話の一つかとも思っておりましたが、存外大きくなり始めているようですね」


 レヴァンの問いに数名の枢機卿が答える。


「猊下は何かとお忙しい立場ゆえ、気付かれなかったのも無理からぬ事。その噂がさらに拡がるようなら猊下のお耳にも入れるつもりでした」


 1人の枢機卿の言葉に他の枢機卿すべてが頷く。


「分かっている事だけで良い、詳しく話しなさい」


 レヴァンの言葉に枢機卿たちは話し始める。


 最近、王都の市井の間に拡がる噂をまとめるにーー


『大怪我を負い、再起不能になった冒険者がすっかりもとに回復した』

『格安で怪我を治療してくれる人がいる』

『無償で怪我を治療してくれる人がいる』

『凄腕の医者がいる』

『治せない怪我など無い凄腕の医者がいる』

『絶世の美女で、治せない怪我は無い』

『一目見れば失神者続出の美男子の医者』

 などなど。

 例を挙げればきりが無い。


 愚にも付かない、くだらない与太話から、案外ありそうな小さな話まで。


「これはまた…ずいぶんな噂ですね」


 あまりの内容にレヴァンは苦笑する。


「まあ、市井の噂ですし、不可能な事だったり、矛盾していたりと。こんなものでしょう」


「多少大きな広がりを見せているとはいえ、猊下が気にする様な事では無いと思われますが?」


「エイミー姫様がこの噂にご執心の様でな」


「エイミー姫様が?」


「うむ。エイミー姫様を溺愛している陛下ならば、噂の詳細や新たな情報を持ってゆけば1も2も無く食いつくであろう? エイミー姫様への話のネタになるからのう」


「なるほど、なるほど。ああ、それでは少し調べさせましょう」


「うむ。頼むぞ」




 噂の調査を命じてから2ヶ月。


 教皇執務室。

 レヴァンの前に1人の神殿騎士が枢機卿に連れられ来ていた。


「ロッソ・アンダーソン。調査の報告に参りました」


 ロッソは、レヴァンに王都内で上っていた噂の調査結果をひとつひとつ、聞いた内容、またそれに対する己の所感も合わせて報告した。

 噂の大元は冒険者であり、その冒険者の体験談という事も報告した。

 その内容とロッソの所感は、レヴァンそして枢機卿たちも当初から予想していた物と変わらないものだった。


 そこそこの技量は有るが医師会、治癒師連盟に所属出来るほどの実力は無い。

 多少安めの治療費で客寄せをしている。

 見目もそこそこ。


「ひとつ、気になる情報を入手いたしました」


 ロッソは続ける。

 ロッソは情報収集中にとある冒険者のクループから気になる情報を入手していたのだ。

 その冒険者は件の噂の大元。

 その気になる情報はにわかには信じられないものだったが、噂の大元の冒険者が体験した事のようで、信憑性は高いかと思われる。

 その情報はすでに枢機卿に報告済みなのだが、報告を受けた枢機卿も、教皇に話した方が良いと判断し、ロッソを教皇に引き合わせたのだ。


「続けなさい」


 レヴァンはロッソに促す。


「その冒険者が言うには、熊に襲われ冒険者としては再起不能の重傷を負ったらしいのですが、村の少女が魔法で治したと言うものでした」


 レヴァンはぴくりと反応する。

 しかし、報告を止める事も無く、最後まで聞くとロッソに退出を促した。


「よくわかりました。報告ご苦労様でしたね。もう結構ですよ」


 ロッソはレヴァンに一礼し退出した。


「今いる人数で構いません。枢機卿をすべて呼びなさい」


「はい」


 レヴァンの言葉にロッソを連れてきた枢機卿が出ていく。


「ふむ……魔法で治療した…?」


 レヴァンは報告に来たロッソの一言が頭の片隅に残っていた。

 当初は医者か治療師と予想されていた。それも医師会や治癒師連盟にも所属出来ない程度のウデ。

 ロッソの報告からのそれが確認出来た。

 しかしそこに気になる報告が一つ加わる。


『魔法で治療した』


 聞いた事が無い。


 魔法による、治療は出来ない。

 治癒の魔法は存在しない。

 あまりに当たり前な事で、考えの片隅にすら上らないほどの常識である。

 事実、齢60を超えたレヴァンも生まれてこのかた見た事は無かった。


 新たな魔法…? いや、しかし…


 色々と考えているうちに教皇執務室内には今いるすべての枢機卿が集まっていた。

 レヴァンは集まった枢機卿たちに先ほどのロッソの報告、そして魔法での治療の件を話す。


「魔法で治療…?」


「聞いた事がありませんぞ?」


「治療の魔法と言うのは存在しませんよね?」


 集まった枢機卿すべてから否定の言葉が漏れる。

 それはそうだ。

 レヴァン自身でさえ、そう思う。

 しかし…


「ひとつだけ例外があるではないか」


 レヴァンは言う。


「例外…? ……あっ!」


 レヴァンの言葉に1人の枢機卿が、その『例外』に行き着くと、周りの枢機卿たちも次々と気が付いて行く。


「…聖女…?」


 1人の枢機卿の口から零れ落ちる。


「いや、いくら何でも、聖女様の治癒魔法は…あれは、その…」


 別の枢機卿が否定しようとしたが、言葉尻が下がってゆく。


 天光降(サン・レイ)教には『聖女』と呼ばれる人物が一人いる。

 いや、いたと言うべきか。

 天光降(サン・レイ)教が立ち上がる切っ掛けとなった人物と伝えられているが、天光降(サン・レイ)教の歴史自体あまりに古く、実在していない偶像なのではないか? とも囁かれている人物である。

 その『聖女』が治癒魔法を使えたと伝えられている。

 その、分け隔てなく民草を治療する姿が『聖女』として拡まり、天光降(サン・レイ)教の前身である組織が出来上がったと伝えられているのだ。


 とは言え、その治癒魔法も眉唾物ではないかと言われている。

 と言うのも、そこまで古い時代と言うのは、魔法と言うものに対する知識も乏しく、同時に医療技術も劣悪だったはずである。

 そんな中で周囲より医療技術、薬草知識等が優れていれば、乏しい魔法知識も相まって治癒魔法に見えたのではないか?

『聖女』は当時としては優れた治癒師であり、魔法で治癒を行っていたわけではない。


 それが、広く拡まっている認識である。


 とは言え、曲がりなりにも教祖とも言える人物であるので、天光降(サン・レイ)教としては、それに対しては明言をしないようにしている。


 枢機卿の言葉尻が下がったのはその為である。

 枢機卿と言う立場にあって、教祖とも言える人物を貶すわけにはいかないからだ。


「うおっほん! それはともかく、魔法師協会ーーああ、それと宮廷魔法師にも確認を取ってからでも事実確認は遅くはないでしょう」


 変な空気になったのを別の枢機卿がとりなす。


「そうだな。聖女の件は伏せて、治癒魔法の事を聞く事にしよう」


 レヴァンの言葉でひとまずはお開きとなった。


 結論から言えば『治癒魔法と言うのは不可能』ーーと言うのが宮廷魔法師からの回答。

『もしかしたら可能なのかもしれないが、現状では発見されていない』ーーと言うのが魔法師協会からの回答だった。


 突然『魔法での治癒は可能か?』などと聞かれれば、変な顔もされたが、そこは上手くごまかしつつ『聖女』の事は出さず聞き出した答えだった。


 宮廷魔法師と魔法師協会からの回答から、とりあえず、その村娘を召喚し確認してみようという事に答えは落ち着き、噂を調べ上げてきたロッソに引き続き調査を命じた。

 まずは、その村娘がいる村へと赴き、事実確認を行い間違いならそれでよい。もし本当なら連れてくるようにーーと。




 どうやら、その村はマール村と言い、コンラード王国の端も端。

 途中悪路も多かった様で、半年程経ってからロッソは帰還した。


 ロッソは、マール村から件の村娘を連れて来たようでーーとなると、魔法による治癒が本当だという事になる。

 だが、本当に魔法の治療など可能か?


 レヴァンは事、ここに至っても、まだ半信半疑であった。


 枢機卿、大司教など、錚々(そうそう)たるメンバーが教皇執務室に飛び込んで来た。


 どうやらすでに大司教や枢機卿がその村娘の確認を行っていた様でーー


「げ、猊下! ロッソが連れ帰って来た娘ですが…本当に治療が可能でございます!」


 レヴァンは目を見開いた。


「司教、大司教と順に確認を行ったのですが確かだった様で、その後私も確認を行いましたが、確かに怪我人の怪我を治しました」


「薬草や薬も使わず怪我を治しております!」


 枢機卿、大司教が興奮して話す。


「た、ただ別の問題も発生しております…」


「問題?」


「それはーー見ていただいた方が早いかと思われます」


 興奮から一変、困惑の表情で話す枢機卿。


「すぐに向かいます」


 レヴァンはすぐさま立ち上がった。


 枢機卿に案内されて着いたのは教会本部の一室。

 部屋内にはロッソが控えており、膝をついて控えている。

 その傍らには平伏している人物。

 しかしーーずいぶんと小さくないだろうか?


「遠い所をご苦労様です。顔を上げなさい」


 レヴァンの言葉に顔を上げた少女ーーは、あまりに幼すぎた。

 少女と言うにはまだあまりに幼い……まだ幼女であった。


 あまりの幼さに言葉を失い、ついで隣にいる枢機卿に顔を向ける。


 レヴァンの考えを読んだ枢機卿は小声でレヴァンに耳打ちする。


「間違いなく、この娘でございます」


「こんなーー幼すぎではないのか?」


 確かに問題が発生だ。

 村娘と言う報告から勝手に14~15の結婚していない娘と思い込んでいたのだ。

 それなりの治療の腕もあるという事から考えても、こんな幼子が薬学等を修めているとも思えない。


「疑問はごもっとも。ですので実際に見てもらえばーーおい!」


 枢機卿は部屋の外の衛兵に向かって声をかけると、部屋の中に1人の怪我人が連れて来られた。

 なるほど、実際に怪我を治すのを実演させるという事か。


 レヴァンが来るまでにすでに数人を治療しているのであろう。

 怪我人を見ると、自分が何を求められているのかを理解したその幼女は怪我人の元に歩み寄り、怪我をしている個所に手をかざしーー


「元気におなりー」


 幼女の手のが薄ぼんやりと淡く桃色に光ったかと思ったら、怪我人の患部がきらりきらりと金色と銀色の粒子みたいなので覆われて、そのまま粒子が立ち上り、空中で儚く消えるーーレヴァンはその様子を見て目をむいた。


 なんだこれは!?


 こんなものは見た事が無い。

 魔法の治癒など見た事が無いのは確かだが、これはそんな事では無い。

 魔法師が魔法を使う際には、長ったらしい呪文を唱えるのが常だったはずだ。

 元気におなり?

 なんだそれは?

 そんな一言で魔法による治癒が出来ただと!?

 そのきらきら輝いているものは何だ?

 レヴァンは困惑していた。


 枢機卿が言っていた問題とはこれだ!

 幼さが問題かと思ったが、こちらの方が大問題だ。


「おわりー」


 困惑していたレヴァンであったが、その幼女の声で我に返る。

 身分も立場も置いて怪我人に駆け寄りーー怪我が完治しているのを確認した。


 ひゅっーー


 レヴァンは息を飲んだ。


 怪我の完治した元怪我人を退出させた後、レヴァンは腰を落とし、その幼女に目線を合わせる。


「初めまして。私はレヴァン。レヴァン・ベルヌーイと申します。お嬢さん、お名前をお聞きしてもよろしいかな?」


「ミリィ」


 ミリィと名乗った幼女にレヴァンは跪き、そのまま平伏した。


 周りの者たちが息を飲む。


「ミリィ様。天光降(サン・レイ)教一同、貴女を聖女としてお迎えさせて頂きたくーー」


 教祖の『聖女』の生まれ変わりか、はたまた別の新たな聖女かーーそれは分からない。

 しかし、まぎれも無い治癒の御業(みわざ)

 天光降(サン・レイ)教としては何を推しても迎え入れなければならない人材だった。


 ミリィは聖女となった。

2016/2/3 23:10

下から13行目「怪我の感知」→「怪我の完治」誤字修正しました。

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