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護衛が付くそうです。

 ミレッタがわたしのお付きの修道女となりました。


 彼女はこの国、コンラード王国の国教である天光降(サン・レイ)教の修道女だそうで。

 レヴァン様に言いつけられたらしく、わたしのお世話係という事で、侍女(メイド)代わりをするみたい。

 レヴァン様は偉い人っぽいから、たぶんミレッタの上司なんだと思います。

 上司に言われちゃったらしょうがないよね。


「ミレッタはわたしのお世話をしてくれるのよね?」


「はい。そうでございます」


「それって、侍女(メイド)のお仕事じゃないのかしら?」


 わたしはちょっと疑問に思ったので、そう尋ねました。


 これでもネット小説やら何やらで、メイドさんの知識くらいはあります。

 付きっきりでお世話するというのはメイドさんのお仕事だと思うんですよ。


「いえ、教会の人間と言う立場上、侍女(メイド)を雇うわけにはいかないのでございます」


 ーーうん?


 どういう事でしょう?

 村には教会も無かったし、大人の人達は日々の暮らしにいっぱいいっぱいだったし、そんなに信心深いわけじゃなかったから、わたしにはいまいち天光降(サン・レイ)教と言うものに詳しくありません。


 わたしはミレッタに尋ねました。


 ミレッタに聞くに、そもそも、天光降(サン・レイ)教と言う組織としては自分の事は自分でするという教義らしく、侍女(メイド)はいないみたい。

 とは言え、小さな教会ならともかく、巨大な大聖堂ともなると掃除ひとつとっても大変らしく、下の者が持ち回りで担当しているみたい。

 他にも、下級貴族はともかく大聖堂に来た王族や大物貴族、国外の賓客などに教義を押し付けるわけにもいかないらしく、『侍女(メイド)じゃありません。修道女です』って事にして体裁を整えいるみたい。

 あと、教会の人間でも偉い人は修道女を侍女(メイド)よろしく使っているみたい。

 王族や貴族は、市民の雇用確保の為に使用人を抱えるのが義務らしく、その人数がステータスになるとか。


 うーん…

 なんと言いますか、世知辛いと言いますか。

 宗教としては使用人否定なのに国策としては雇用を確保しなければいけない。

 王族、貴族、教会の偉い人は使用人おっけーと言う、偉い人に都合のいい決まりですね…


「聖女様はまだお小さいので、難しい事はわからないでしょうが、ゆるゆると判っていけばよろしいかと思います」


 そうですね。

 わたしにそんな、政治とか宗教とかコムズカシイ事なんてわかるわけないじゃないですか。

 こんな豪華な部屋に通されて、さらにはお付きの修道女が付くわたしがどうこう言える立場じゃないですしね。


「わたしはこれから、どうしたらいいのでしょうか? ミレッタは何か聞いていますか?」


「はい。伺っております」


 ミレッタは頷きました。


「聖女様は突然遠方からこの王都に来られたわけですから、お疲れでしょうーーという事で数日はごゆっくりしていただくという事でございます」


「はあ…」


「あとは、滅多に無いかと思いますが、聖女様へ来客があった際は、まず私が対応し、聖女様の体調等に問題が無い様ならばお通しする事になっております」


「来客…? わたしは王都に知合いなど居ないのですが…?」


「聖女様に一目お目通りをーーと言う方は結構いらっしゃるかと思います。そのほとんどは、聖女様は王都に来たばかりでお疲れだからという事で門前で弾かれるでしょうが、お相手の立場などでここまで来る方も何人かはいらっしゃるかと思います。まあ、そうそう無いのでお気になさる事はありません」


「はあ…そういうものですか…」


 聖女なんてことにされちゃったけど、村娘Dに会いに来る方なんているとは思えませんよ?


「まあ、私もいますし数日はゆっくり出来ると思います。ゆるゆると王都の事やこの大聖堂の事を学ばれるのもよろしいかと」


 と、ミレッタがここまで言った時に、部屋の中にノックの音が響いた。


「話をしていればさっそくですね」


 ミレッタがくすりと笑った。


「わたしが対応しますので、聖女様はここでお待ちください」


 わたしが今いる部屋はベットやチェスト、衣装タンスが並ぶ寝室。いわゆるプライベートルーム。

 プライベートルームを出ると来客を対応する部屋になる。

 その先が廊下。

 ミレッタはプライベートルームを出て行った。


 扉の向こうからミレッタと知らない人の声がする。

 扉越しなのではっきりとはわからないけど、レヴァン様とは違うみたい。

 と、ミレッタが戻って来ました。


「聖女様。来客でございます」


 ついさっき、そうそう来客は無いって言ったばかりだというのにもう来客です。

 そういう話をしていたにもかかわらず、ミレッタがわたしを呼ぶという事は大事なお客様なのでしょう。


 わたしはプライベートルームを出る事にしました。


 プライベートルームを出たわたしを待っていたのは、ミレッタの他には1人の女性。

 服装はミレッタと同じ修道服。

 すらりと背が高く、しゅっとしてる。

 顔付は切れ長の目で若干キツめ。

 ミレッタはふわっとした感じだけど、この人は『しゅっ』とか『しゃっ』とかそんなカンジ。


「聖女様。こちらはコニーさんと言う方です。コニー。こちらにいらっしゃるのが聖女、ミリィ様」


「初めまして、聖女様。コニー・ローリアンと申します。この度は、聖女様の護衛をしろという事で参りました。誠心誠意お仕えさせていただきます」


 コニー様はそう言ってわたしの前で片膝を付き、頭を下げました。


 おおぅ!

 声もカッコイイ女の人ってカンジ。

 雰囲気と言うか立ち居振る舞いがオトコマエってカンジで宝塚のトップ張れるんじゃないかしら?

 修道服だし、護衛と言うお仕事を見ると星組トップかな?


「コニー。貴女が来たという事は何と無く予想していたけどやっぱり護衛だったのね」


 次いでミレッタが説明するには、大聖堂内や教会内、巡礼中に王族や貴族を護衛する修道女とのこと。


 はー…そういう職種もあるんですね。

 修道女ってすごいね。


「コニー様。こちらこそよろしくお願いしますね」


 ぺこりと頭を下げるわたし。


「聖女様、私に様付けなど不要です」


 ミレッタの時と同じ事言われました。

 コニーも上司のレヴァン様に言われたのでしょうね。

 わたしに対して良くしてくれる人です。

 無駄に怒られるのはわたしとしては本意じゃないです。

 今回もわたしが折れるしかないでしょう。


「ではコニー。よろしくお願いしますね」


「はい」


「そういえばミレッタとコニーは親しいのかしら?」


 ふわっと、しゅっ。

 全然雰囲気の違う2人で、性格が合わないけど仕事だから嫌々一緒にいますってわけでもなさそうだし、かと言って単なる一同僚ってカンジでもない。態度を見るに仲が悪いというわけでもなさそう。


「私とコニーはほとんど同じ時期に修道女になったんです」


「不思議とウマが合ったと言いますか、一緒にいる事が多かったもので。流石にわたしの護衛と言う仕事上、最近はあまり会ってはいませんでしたが」


 同級生とか、クラスメイトみたいなものでしょうかね。

 なるほど、仲が良いのも頷けます。


「でも、わたしはこの王都に来たばっかりで、そのままこの大聖堂に来ましたよ? よくわかりませんが、外出って出来るのでしょうか?」


「もちろんでございます。流石に今すぐと言うわけにはまいりませんが、聖女様は急な王都で戸惑いもあるでしょうからしばらくゆっくりしていただくご予定です。その際に大聖堂内を回っていただいてもよろしいですし、王都内を散策していただいてもかまわないと伺っております」


 おお。

 外出おっけーですか。

 てっきり軟禁まがいの事されるのかと、実はちょっと思っていました。


「こう言っては失礼にあたるのかもしれませんが、聖女様はまだお小さいので、善からぬ事を考える者からすれば、ひょいと抱えて攫う事も可能です。そう言った事に対しての私です」


 まあ…ちっこい5歳児は攫いやすいでしょうね。

 王都は人がいっぱいいるみたいだから、悪い人もいるという事でしょうか。

 のどかな村とは大違いですね…


「頼りにしています」


 と、ここまで来て、ふと思った事があります。

 ミレッタもコニーもわたし付きの修道女という事は、四六時中…と言うわけでも無いのでしょうが、かなりの時間わたしと一緒に居るという事になります。

 ミレッタもコニーも固すぎです。

 レヴァン様からそういう態度で接しなさいと言われた事は想像で出来ますが、ずっと一緒に居る人にそういう態度をされるとわたしが疲れちゃいます。

 そう言う事を2人に伝えると「うーん…」と困ってしまっています。


「お二人のお仕事は理解しました。わたしに良くしてくれているのも理解しています。他の人がいる時はともかく、三人でいる時くらいもう少し砕けた感じでお願いできませんでしょうか?」


「聖女様にそう言われると、私たちとしては…いや、しかし…うーん…」


 ミレッタとコニーは結構悩んでいましたが『善処いたします』との答えに至りました。


「よかった。ここではわたしはまだ何も出来ませんから。ミレッタとコニーは頼りにしています」


 自分で何でも出来るなんてウヌボレるわけないじゃないですか。

 そんな幼稚園児じゃあるまいし。

 身体は5才児だけど。


「そうですね…まだ、ドアノブにも届かないでしょうし」


 かちんときました。

 コニーが苦笑しています。

 なんですかそれは。

 いくら何でもドアくらい開けれます!


「ド、ドアくらい開けれます!」


 わたしは憤慨してドアに向かいました。


 もっと砕けろとは言いましたが、いくら何でもそれは無いでしょう。


 ドアノブに手を伸ばしーー


 届きませんでした。

 なんと言うショック。

 孔明の罠です。


 確かに、思えばこの部屋に来るまでわたしは自分でドアを開けていません。

 村ではドアなんてコジャレた物は無く、みんな引き戸だったので気が付きませんでした。


 振り返って見るミレッタとコニーはぷるぷる震えています。


 顔が真っ赤になるのが自分でもわかります。


「こ、これからよろしくお願いします…」


 わたしはそう言うのが精いっぱいでした。

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