3話
吸い込まれてからは、さんざんだった。
まず最初に見た、というより私が居たのは時代錯誤な服を着た、ピンク色の髪の女性――まるでお姫様みたい――とフードを被ったおばあさんのいる部屋だった。どことなく薄暗く、ほこりっぽい。見渡せば本があちこちに乱雑に積まれていたり、フラスコのようなものにどす黒い液体が入ってたり。
「なにがおきたの……」
言ってからハッとした。慌てて口を押えたが二人が私を気にした様子はない。
「あのー、すみませーん……」
うすうす嫌な予感がしてきて冷や汗をかく。二人の反応はない。向き合っている二人に見えるように軽く手を振るがそれでも二人が私を気にした様子はない。
「もしかして……グリティシア姫の舞台とか……」
そのまさかだった。マジか。なんでや!
本の挿絵が飛び出してきたかのような美しい女性――グリティシア姫は意を決したようにお婆さんに話しかける。お婆さん――というかあの童話を信じるなら魔女だろう。
「あの……!お願いがあるんです」
「あんたのことなら知ってるよ、全部。もちろん願いもね」
「じゃあ叶えてください。私だけではあの魔女に勝てないんです!」
「おや、あんたの名前はグリティシアではなかったかね?」
「ええそうです。……それがなにか?」
「グリティシア――グリティとは古来より勇気あるものに授けられる名前なんだよ」
「だからなんだというのですか」
どうやらグリティシア姫はなかなかしたたかな女性だったようだ。野暮だからツッコミはしないが、あながち私のグリティシア腹黒説も間違いじゃないらしい。
今の私の状況が分からないから何とも言えないが、実はこんな裏がありましたーっていうのを盗み聞きっていうのもなんだかむずがゆい。別にやましいことをしてる訳じゃないんだけど。二人が気づいてないだけだし。
とりあえず静観することにした。私が誘拐されて寝起きに再現ドラマを見せられてる可能性、実はファンタジーの劇の監督をする約束をいつの間にかしていた等――あほらしいのだが、嘘とも言い切れないのが悔しい――も捨てきれない。
つまるところ、まぁ、現状維持だ。訳も分からず何かすることは得策じゃない。
それにしても年老いた魔女はどっちの味方だったんだろう。童話を読んだ感じじゃグリティシア姫の味方だったみたいだが、この会話を聞いていれば中立のような気もする。
「勇気があるならその――アメリアとかいう魔女もどうにかできるだろう?」
「……っ」
アメリア……?そんなのいたっけ。
「私は魔法が使えません。だからあの魔女に勝つには魔女に頼るしかないんです」
「それはまぁ、たいそうなこと」
そうか、読めて来たぞ。このシーンはグリティシア姫が運命を変えるヒモをもらいにいくところだ。たぶんアメリアというのは、私がかわいそうだと言っていたラスティ王子の婚約者!
グリティシア姫は相当、その魔女――アメリアが憎いらしい。美人が台無しになるくらい怖い顔をしている。
「まぁまぁ、そんな怖い顔をしなさるな。ひとつ、チャンスをあげよう」
「チャンス?」
「ここに三本のヒモがある。白、赤、桃色だ。これが何を表すか分かるかい?」
「ラスティ様と……あの魔女と、私……?」
「そうだ。ところが白と赤は固く結ばれている」
「それはどういうことなんです?」
「それほど運命で強く結ばれているということだ。もし何もしなければあの二人は運命通り、結婚するだろう」
「それをほどくことはできないのですか?」
「さあね。自分で考えなさい。これはあんたにあげよう」
グリティシアはものすごく喜んでいた。ほどけると思ったんだろう。受け取ってすぐその場でほどこうとしていた。しかし焦ってるのか上手くほどけない。
……邪魔できたらいいのに。
ためしにヒモをさわろうとしたら、ヒモどころかグリティシアの手まですーっと通り抜けてしまった。私は幽霊になったんだろうか……。
魔女はそんなグリティシアをニヤニヤと見つめ、ふと、思い出したかのように私を見――
「!?」
「ただし、丁寧にほどくんだよ。じゃないと運命が元に戻そうとしてしまうからね」
そのときだった。いきなり魔女と目線が合って驚き、目を見開いた私の視界の隅に光線が伸びる水晶玉が映った。
あれ、さっきまであったっけ。それにさっきのセリフはどっかで――
たくさんのまばゆい光が水晶玉から部屋を埋め尽くすように溢れてきて、思わず目を閉じると――私はまた吸い込まれた。
こうして私は第三者視点で、ラスティ王子、アメリア、グリティシア――三人を中心とした記憶の追想をさせられることとなる。