表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

【序 章】 雪の花は白く萌ゆる

今作のコンセプトはもっと百合! エロ! ということで()、まずはジャブ的な感じでこのような形になりました。

ポエムみたいで意味がわからないと思うのですが、自分でもまだ御しきれてないので意味がわからないッ!!(中二) ので大丈夫です(?)

 彼女のキスが私から全てを奪ってゆく。

 いや、むしろ奪っているのは私のほうなのかもしれない。

 いつから互いの唇を重ね合わせているかなんてもう覚えていないし、思い出すのも億劫だった。ただただ眠くて、ぎゅっと瞼を閉じた暗闇の世界を満たすのは、彼女の温かさと冷たさだけ。押しつけられた唇は柔らかいのに、怖気が走るほど冷たい。時折触れる凍てついた舌のざらつきに痛みを覚えるほどだ。けれど抱き合えば寒さなんて忘れてしまうくらい温かくて、もっともっとと求めるように、私は強く彼女を抱き締めた。

 唇を離す。

 目を開ければ、銀色が眩しい。

 澄み渡る冬の氷柱のように、透明な光を湛えた長い銀髪。一糸纏わぬ真っ白な深雪の肌を、するりと私の指が這う。血潮の色に染まった、紅い唇。真ん丸の大きな黒い瞳。曇りなく磨かれた玉の鏡に、私の薄く尖った顔つきが映り込んでいる。

 彼女の手が私の手を包んだ。

 いや、私がそうさせたのかもしれない。

銀花(ぎんか)の手、冷たい」

 口にした途端、違和感を覚えた。

 ――銀花?

 銀花……ああ、この娘の名前か。

 そういえば、そうだった。

「違うよ、雪花(ゆきばな)の手が冷たいんだよ。何これ、氷みたい」

「そんなに冷たいかな……」

「でもぉ、手が冷たい人は心が温かいって言うよねぇ」

 昔、誰かに同じことを言われた気がする。

 あの時、私はなんて返したんだっけ……。

「あっ、待って! 今のなし! やっぱり私の手のほうが冷たい! ああ~残念! 私は心が温かいから手が冷たいのね~!」

「銀花は手も冷たいし心も冷たいよ」

「ヘビーショック!」

 眉を上下させ萎れる銀花。喜怒哀楽に富んだ彼女の表情は、見ていて全然退屈しない。

「冗談。銀花の手は冷たいけど――私をちゃんと温めてくれてるよ」

 昔からそうだった。

 寂しい夜も、泣きたい夜も、いつも私を慰めて励ましてくれた。その温もりを、私は今も感じている。

「銀花」

「なぁに、雪花」

「私を独りにしないでね」

「変なことを言うなあ。私が君から離れたことなんて、これまであった? それこそ君が生まれた時からずっと、私は君を見てきたんだから」

 銀花の氷の手が、私の頬を優しく撫でた。皮膚の表面を伝う冷たい焔は、じんわりと凍みるように胸の中へ這入り侵してゆく。

「私は君だ。そして、君は私さ」

「私は銀花……銀花は私……」

「そう。二人は一つになるのよ。恨みも憎しみもないこの銀世界で、私達は繋がって、気持ちよぉくなって、互いの心臓を舐め合えるくらい近づいて……合一を果たすの」

「合一……」

「一つになるのよ、私と雪花は。怖がることなんて何もない」

 私は首を振った。繋がることが――一つになることが怖いわけじゃない。むしろ私は、ずっとそれを望んでいたに違いないのだ。誰かと繋がることを。好きな人と繋がることを。

 そうだ。私には一つになりたいと願った人がいた。もう叶うはずのない願いだ。けれど一度灯った小さな火は、今なお燻り続け私の心を灰にしてゆく。

 それなのに、名前も顔も――憶い出せない。

「あ、またあの娘のこと考えてる。もうっ、諦めなよぉ」

「でも……思い出せない。全て忘れてしまうのが怖いんだ。ちゃんと憶い出さなきゃ、いずれ本当に忘れてしまうかもしれない。好きだったことも、恨まれていることも……。忘れてしまえば――楽になるかもしれないけど、それだけはだめなんだよ。忘れちゃったら、あの人を待つ人がいなくなっちゃうよ」

「それは違うよ、雪花。あの娘はねぇ、君に待っていてほしいなんて思っていないし、望んでもいない」

 銀花が言った。子供の頃から変わらない真っ直ぐな瞳で、じっと私を見つめながら。

「何度でも思い出させてあげる、雪花。君は私のもので、私は君のもの。私と君の間に、あの娘が入り込む隙間なんてないんだから」

 銀花の額が、私の額に押し当てられる。

「さぁ、雪花。一緒に見にいこうか。そしてはっきり思い出すのよ――私達を繋ぐ愛を」






【最初の記憶】



「よろしくね、ゆきちゃん。わたし‰Jっていうの!」

 出逢った時、太陽みたいに明るい笑顔を向けられた私は、思いきり怯んだ。怖かったのだと思う。人見知りで、泣虫で弱虫、お母さんが近くにいないとすぐに不安になってしまう、そんな子供だったから。

 五歳の冬。東北の田舎町に引っ越してきたばかりで友達もいなかった私は、隣の家に住む一つ年上の女の子と友達になった。

 邪悪なものを全て洗い流すような勢いの女の子相手に、はじめこそ戸惑いはしたけれど、心を開くのに時間はかからなかった。

「わたしはぎんか! ゆきばなのいちばんのともだち! はじめにゆっておくけど、‰Jはにばんめだからね! いちばんはぎんかなんだから!」

 私はお母さんと二人、決して新しいとは言えない借家で暮らしていた。その田舎町に並ぶ家々はだいたい似たようなもので、私の家が別段古びているというわけではなかったから、それを気にしたことはなかったけれど。

 お母さんは優しかった。優しかったし――大きかった。私を守ってくれる家のような存在だった。お母さんは町工場で働いていたみたいだけれど、たびたび家を空けることがあって、そんな時、私の面倒は決まって‰Jちゃんと‰Jちゃんのご両親が見てくれた。

 初めて‰Jちゃんの家で‰Jちゃんの両親と一緒にご飯を食べた時、私は思った。

 ――お父さんってなんだろう? どうして私にはいないんだろう?

 そのあとすぐにお父さんのことをお母さんに訊いたらとても哀しい顔をされたので、それ以降父の話題をお母さんの前で出したことはない。

「ゆきちゃん、さみしくなったらいつでもうちへおいでよ。わたし、ゆきちゃんみたいなおんなのこがひっこしてきてくれて、うれしいんだあ」

「だめ! ゆきばなはぎんかとあそぶからいいのっ! さみしくなんかないんだから!」

 ‰Jちゃんは人気者で、近所の子供達に慕われていた。快活で、誰とも分け隔てなく接する太陽みたいな女の子。男の子みたいに短い髪は元気の証で、誰よりも活発に走り回っていた。‰Jちゃんに誘われてその輪に加わることになったのだけれど、私の目はいつも‰Jちゃんを追ってばかりいた。

 初めて‰Jちゃんの家にお泊りに行った夜は、なんだか興奮して寝つけず、二人でずっとお喋りしていたのを今でも憶えている。






唼血(そうけつ)の記憶】



 確かあれは小学二年生か三年生の冬、‰Jちゃんとの下校途中だ。

 小雪のちらつく季節だというのに、なぜか道端に蛇がいた。たぶん、実際はそんなに大きかったわけでも毒を持っていたわけでもないのだろうけれど、当時の私にはそれが鎌首をもたげて今にも襲いかかってきそうな大蛇に見えたのだった。

 悲鳴を上げながら一目散に逃げ出すと、‰Jちゃんが転んでしまった。凍りついて固くなった地面に足をぶつけて、‰Jちゃんは膝を押さえて蹲った。風の子の‰Jちゃんは冬でもスカートだ。見る見るうちに、剥き出しの膝から真っ赤な血が溢れ出した。

 痛い痛いと泣き始めてしまった‰Jちゃん。しっかり者の‰Jちゃんが泣き叫ぶ姿を見たのは、それが最初で最後だ。

 傷口から流れる、雪を緋く染める‰Jちゃんの血。それを見た私は、どうしたらいいのかわからず困って焦って頭が真っ白になって――

 けれど場違いにも、なぜだかとてもきれいだと思ったのだ。

 白が緋に染まってゆくその光景が、とてもきれいだと。

 指先に付着した‰Jちゃんの血を、私はぺろっと舐めてみた。どんな味だったかはもう覚えていない。決して美味しかったとかそんなわけはなく、変な味にむしろ顔を顰めたはずだ。

 それでも。

 泣き止まない‰Jちゃんをよそにして、彼女の一部が自分の体内に入り込んだという事実に、私はしばし想い耽った。

 ふと、気づく。

 雪の道路を這ってきたのか――先ほどの蛇がすぐ傍で(とぐろ)を巻いていた。私達を観察するように佇むその蛇は、ほどなくして雪深い林の中へと消えていった。






【贈物の記憶】



 小学校高学年にもなれば、誰だって好きな子の一人や二人できるもの――らしい。

 私の通っていた小学校は全校生徒が二百人もいなくて、一学年につき一学級、同級生は三十人くらいだった。学年ごとの隔たりというものもあまりなく、休み時間に上級生・下級生が入り乱れて校庭で遊ぶなんて当たり前の風景だ。

「はい、雪ちゃん。バレンタインのチョコレート。アーンド、誕生日プレゼント~!」

 毎年二月十四日――バレンタインデーに、‰Jちゃんはチョコと一緒に誕生日プレゼントをくれた。小学生がお小遣いで買える範囲だから、お菓子やアクセサリーといったささやかなものではあったけれど――全て宝物だ。今でも大事にしまってある。

「ホワイトデー、楽しみにしてるね!」

 バレンタインデーは彼女から私に、そして、ホワイトデーは私から彼女に渡すというのが二人の中でのお約束だった。

 私はお母さんと一緒に、‰Jちゃんにあげるお菓子を作ることもあった。慣れない作業だし、柄にも合っていないとも思う。それでも、‰Jちゃんが喜ぶ顔を想像するだけで自然と頬が緩んだ。

 私は毎年、‰Jちゃんのためだけに――‰Jちゃんだけを想って贈り物を準備する。

 けれど、彼女はそうではない。

 ‰Jちゃんは毎年、ほかの女の子や――男の子にもチョコを渡している。だからホワイトデーの日はお返しのプレゼントを両手いっぱいに抱えていて、私が渡したものなんてその一片に過ぎないのだった。

「ムカつく~! 雪花がすごぉ~く頑張って、何度も何度も失敗して、それでもめげずに作ったお菓子なのに、きっと‰Jは一口も食べないでゴミ箱にポーイって捨てちゃうのよ! 最低だわ!」

 ある日私は、‰Jちゃんが男の子と二人で下校しているのを見かけた。

 男子と女子が一緒に下校する――別に、それ自体は珍しいことではない。田舎町の小学生にとっての性別なんて、ランドセルの色の違いでしかないのだ。

 それなのに、男の子に笑顔を向ける‰Jちゃんを見ると、私の胸はざわざわと騒ぎ、ちくちくと痒くなるのだ。

「雪花には私がいるよ! 私がいるんだから寂しくないじゃん! ‰Jの奴、男なんかににこにこしちゃってさ! 私は‰Jと違って、あんなうるさくて下品で野蛮で凶暴な生き物なんて大嫌い! 私はずっと雪花が一番だからね!」

 やがて冬が過ぎ、春になる。

 彼女は小学校を卒業した。






【最後の記憶】



 胸が大きくなったのを知っている。少しだけ髪が伸びたのも知っている。行きつけの美容院ができたのも知っている。お洒落に気を遣い始めたのも知っている。昔みたいに男勝りな言葉遣いをしなくなったのも知っている。お気に入りのリップクリームがあるのも知っている。スカートの丈が短くなったのも知っている。眉毛が細くなったのも知っている。新しい級友に慕われているのも知っている。教師に信頼されているのも、男子に好かれているのも知っている。可愛くないと評判の制服を、誰よりも可愛く着こなしているのも知っている。

 私は小学六年生になり、‰Jちゃんは中学一年生になった。

 毎朝一緒に登校することもなくなり、遊ぶ時間も極端に減った。中学校の制服は、異世界の人が身につける紺色の貴族服で、私服にランドセルという平民の私が話しかけることは憚られたのだ。

 恋をすると女の子は可愛くなる――そう、誰かが言っていた。私は毎日‰Jちゃんを見ているのだ。だからわかる。

 ‰Jちゃんは、きっと男の子に恋をしている。

 相手が誰なのかはわからない。たぶん中学校の同級生か、先輩か、はたまた教師なんてこともありうるのか。

「‰Jのバカ、雪花っていう大切な幼馴染みがいるのに、なぁ~に中学生活をエンジョイしちゃってんのよー! やっぱりダメね! あの女はダメだわ! 雪花のことは私が一番理解してるもの!」

 早く中学生になりたい。焦りだけが日々募る。けれどなぜ焦っているのか自分でもよくわからなかった。

 元来の根暗が災いし友達と遊ぶこと自体あまりなくなっていた私は、‰Jちゃんと遊べない日によく本を読んでいた。漫画や童話、そしてなんとなく読めるようになってきた文字の多い小説など、家にある本は片っ端から読んでいった。

 私が好んで読んだのは、女の子が主人公の本だ。女の子の日常だったり、恋模様だったり、力を合わせて戦うものだったり。特に、不思議な力や超常的な存在が登場する物語には興味を引かれた。私にも変な力があったからだ。

 ずっと昔にお母さんと約束しているので、‰Jちゃんにも言っていないけれど――私は俗に言う『スプーン曲げ』というPK、つまり超能力が使えた。理由も意味も解らない、変な力だ。何かの役に立つこともない。しかし、だからこそなのか、超自然的な存在が登場する物語には妙に魅かれたのだ。そして、百年以上前に書かれたというとある吸血鬼の幻想(ほん)と出逢った時、自分の中で広がっている焦りの原因に気づいてしまった。

 ――私は、‰Jちゃんを誰にも取られたくないのだ。

 雪が舞う、小学校卒業間近のバレンタインデー。

 私は深く考えることもなく、‰Jちゃんに自分の想いを伝えた。

「ふふ、ありがと。わたしもスキだよ」

 ――誰かが私の名を読んだ。

 いや、呼んだのは私のほうだったかもしれない。

「はい、ここでおしまいっ。これ以上見たら、雪花また泣いちゃうもんね」

 ‰Jちゃんの声を聴いたのは、その日が最後だった。






【接吻の記憶】



 凍りついた季節に鎖され、目を覚まさない彼女の唇を奪った。

 何度も何度も奪った。

 心の中で謝りながら、夢にまで見た‰Jちゃんの唇を。  

「わぁ、雪花ってば私という存在がありながら……この浮気者!」

 唇を離し、私は‰Jちゃんの頬を優しく撫でる。柔らかい肌の上を指先が滑るたびに、心臓から酸っぱい液体が滲み出るような感覚に陥る。

「でも、いい加減もうわかったでしょ? 雪花の『好き』と‰Jの『スキ』は違うんだよ。雪花がどんなにその娘を好きになっても、その娘に恋しても、その娘は絶対に振り向かないの。眠ってるからじゃないよ。たとえ起きても、雪花とその娘は結ばれない」

 ‰Jちゃんの胸に手を回す。病衣越しに伝わる、二つの膨らみと確かな鼓動。‰Jちゃんが生きている証拠。

「忘れればいいんだよ。そうすれば雪花を束縛するものはなくなる」

 ‰Jちゃんの胸に顔を埋める。心臓の音が鳴っている。私の皮膚を叩いている。

「殺ろせばいいんだよ。そうすれば雪花は自由だ」

 私は彼女に話しかける。何度も、何度も。返事はなく、ただ虚しさだけが重なってゆく凍てついた檻の中で、『未来』は氷のように固まったまま決して融けることはなかった。






「銀花」

「なぁに、雪花。キスしてほしいの?」

「ん――」

 彼女のキスが私から全てを奪ってゆく。

 いや、むしろ奪っているのは私のほうなのかもしれない。

 次に目を覚ました時、私は銀花のことを全て忘れているだろう。

 これは私の夢が見せる幻想。

 そして銀の花が描がく風景。

 甘い蜜を味わい、幸福の果実をもぎ取るためだけにある、都合の良い銀世界だ。

「このまま眠りたい。銀花と二人で」

「いいよ。私の胸の中でおやすみ。痛みも、苦しみも、全て忘れさせてあげる。君は今まで十分頑張ったんだ。だから、おやすみ……」

 銀花。

 いつかちゃんと会える日が来たら、お礼を言わせてね……。

「――またね、雪花。愛してる」

『‰J』というのは、作中に登場する人物の名前をエンコードで文字化けさせた時に表示された文字列です。名前の部分だけ聴き取れないというのをどのように表現しようかなあと思い、この手法を取りました。

あと雪花が小6の時に読んだ吸血鬼の本は、百合小説の先駆けと名高い『カーミラ』です。ハアハアしながら女の子にキスしたり頬擦りしたりする女吸血鬼のアレですね。

次の章から、本格的に物語を始めたいと思いますッ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ