4:11年目・15歳
「ごめん、剣術学校の特別補習があるから、今年は早く帰る事になる」
来て早々にそう言い放った俺に、イノリアは目をぱちぱちと瞬いた。
「え、そうなの?」
「うん。もう年明けたらすぐ騎士養成学校の試験だし。時間ないけど、ちょっとくらいは身になるだろ」
そのちょっとでどうにかなればいいのだが。
自分の将来がかかっているから、教養の方の学校の課題も例年通り最終日に、なんてことは出来ない。
今年こそは時間に余裕を持つ。
「頑張ってるね」
「当たり前!」
緊張で心に余裕が無い分、とにかく体を動かしていないと落ち着かないのだ。
嫌な緊張感ではないんだけど。
なんとか笑ってみせると、イノリアは少し考えた様子で工房内を見回した。
「……ね、ちょっと振って見せてよ。そこにあるの使って良いから」
数秒の後、柔らかく笑んで言われた言葉に、すぐさま食いつく。
「! 良いのか!?」
「うん」
「やった! イノリアの作った剣かー。一回使ってみたかったんだよな」
「だろうね。そんな感じだったし」
ふふっ、と笑うイノリアは心なしか楽しそうだ。
昔に、危ないから触っちゃだめだ、と泣きながらイノリアに言われて以来、出来る限り近寄らないようにしていたが、ずっと気になっていたのだ。
イノリアの鍛冶屋としての腕前は高い。
こう言っては悪いが、秋の終わり頃から雪に閉ざされるような、山奥の辺境の村にわざわざ依頼をしにくる人間が居るくらい。
よりにもよってその冬に来る俺んちには言われたくないだろうけど。
「じゃあ、言葉に甘えて」
剣術学校で使っているのと同じような剣を手に取る。
握って、構えて。
ほんの少しの違和感。
「おお、なんか違うな」
「そうかもね。ロニーには、どっちかというとこっちかも」
はい、と渡された剣は最初に持った物よりも幾分か長く、無理だろ、という思いとは裏腹に先程よりも余程体に馴染んだ。
「おわ、え、何これ?」
「どう?」
「すごいしっくりくる」
離れて、と手で合図をし、軽く三回ほど振る。
「え、え、何これ、ほんとに」
「何だろうねー」
混乱する俺の様子を見るイノリアは、嬉しそうに笑っていた。
ロニーが叔父さんちに帰った後の、イノリアの独り言。
「……“成功”。良かったね」
「なんだか、ズルをしちゃったような気もするけど。おまじないみたいなものだし、良いよね」
「それにしても、流石ロニー! 私も頑張らなくちゃ」
込めたのは。
2014/01/23 投稿
2014/04/13 あとがき修正
(“”足して、」の前の句点を削除)