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ミスリル  作者: 紺野 柚季
本編
3/14

2:9年目・13歳

「剣士~」は前話のあとがき参照。

「重大発表があります」

「なんですかロニーさん。いきなりですね」


先程よりも少しだけ背筋を伸ばし、ぴしりと姿勢を正すイノリア。

俺のいきなりの発言にも特に困惑する事なく、一年振りにもかかわらずすぐさま乗って来てくれた。


工房の奥。

小さく作られた生活スペースに置かれた食卓で、向かい合って座るイノリアに向けて、真剣な表情を崩さないまま口を開く。


「はい。この度、俺、ロニーは、なんと!」


そこで一度、ためる。

大した事ない事でも、こうすると本当に重要な事を言う雰囲気になるような気がする。

やばい、笑いそう。耐えるんだ俺。


目の前のイノリアが緊張した面持ちで息を飲みこんだのが分かった。


「剣術学校に通い始めましたーっ! ひゅー、ぱふぱふー!」

「わーわーきゃーきゃー! …………ねえ、何? このノリ」

「何となく」

「何となくって何ー」


最後の囃しまで付き合ってくれたイノリアは、予想通りにへにょりと食卓にもたれかかった。

手元のカップに手を伸ばしながら答えると、不満げな言い方で困ったように、間延びした声をあげる。


「何となくは何となくー。イノリアだったらこの報告、喜んでくれるかなって」

「内容はね。内容は。言い方だよもう」


困り顔のイノリアもカップに手を伸ばし、紅茶を一口含むと、ほっと肩を下ろしてこう続けた。


「お姉さんが結婚するのかと思ったじゃない」

「っ!?」


衝撃である。

紅茶噴くかと思った。


「うわ、ない。ごめん。それはないわー、だってあれだぜ? 無理だろ」

「いやでも、一発KOされたい男の人も居るかも」

「物理的に? 居たとしても姉ちゃんがなあ。あいつ強い人が好きだから」

「え、恋愛的な意味で?」

「……あれ、どうなんだろ……」


その場を妙な沈黙が包む。

姉ちゃん……一生家に居そうな気がするんだけど……。


「あー、と、そうだ! 剣術学校、どんな感じなの? ていうか、いつ行き始めたの?」

「あ、ああ、そうだな。あー、去年、剣士になりたいって言っただろ、俺。家に帰ってから母さん達を説得して回って、やっと許してもらえたのが三ヶ月くらい前」


ちなみに、説得期間の半分以上は姉ちゃんに……いや、これは止めておこう。

せっかくイノリアが無理やりにでも話を変えてくれたのだから。


「で、今は走り込みが終わって、やっと普通に模造剣で色々教えてもらってるところ」

「前まで行ってた学校は? 教養の。辞めちゃったの?」

「いや、剣術は休日だから、そっちとは被ってないんだ。おかげで一週間丸々大忙し! 周り知らない奴ばっかりで楽しいよ」

「へえー、良いなあ。でも私じゃ楽しめないか」


イノリアは尋常じゃないくらい力が強いから、剣術が、という意味ではないはずだ。多分。

男だらけの中に女一人、ってのがきつい可能性もあるけど。

……ああ、いや、そっか、そういえば。


「人見知り?」

「見知ります」


神妙に頷く姿を見て、そういやそうだったと、初めて会った時の事を思い出す。

あの頃は俺もちょっと人見知りしてたけど、イノリアのは凄かった。

今こうしてふざけながら話してると全然感じないから、すっかり忘れていた。


「残念だったなー、イノリアちゃん」

「ちゃん付け気持ち悪いよ」

「ごめんなさい」


微笑んだまま放たれた一言は、俺の心を易々と抉っていく。


――ああ、でも、やっぱり。


「な、俺がちゃんと強くなったら」

「?」


こうして気の置けない奴がいるって、とても貴重な事だと思う訳で。


「家族……いや、姉ちゃん……もついでにいれとくか、一応。それに、村長さん達。あと、――イノリア」

「??」


「俺の剣で、絶対に守ってやるからな!」


イノリアにとっても俺がそうである、と。

妙な自信があるけど、それは決して気のせいなんかじゃないから。


イノリアの、その淡い笑みを。

守ってやりたいと、そう思うんだ。

その後、少し。


「ありがとう、楽しみにしてるね」

「任せとけ!」

「ふふ、どの位かかるかなぁ? 50年?」

「そんなにかかんねーよ」


別に恋愛フラグでもなんでもない。

天然な訳でもない。



2014/01/23 投稿

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