始まりの前までの物語的な何か
当初はもっとファンタジーのはずだったのにどうしてこうなった?
禍々しく、それでいてどこか気高さを感じさせる大きな城の最深部。そこでは正に、2人の豪傑が雌雄を決っしようとしていた。
「はぁ、はぁ……さあ魔王、年貢の納め時だ。大人しく私に殺されろ」
そう言った人物は床に膝を付き、息を整えていた。その体を包んでいたであろう純白の鎧は所々欠けていたり砕けていたりしている。
「はぁ、はぁ……クフフ。勇者さん……どの口で言ってるのですか? まだ勝敗は決していませんよ」
応えた人物もまた苦しさに顔をしかめつつ、精一杯強がってみせる。その体を覆っていたであろう漆黒のマントも、やはり同じく所々に切り裂かれた跡や破けている箇所が多い。
部屋中にも大きな穴や抉られた跡が物々しく付いており、大規模な戦闘が行われていることが窺える。
勇者アナスタシアと呼ばれる英雄と、魔王ヴォルガゼノスと呼ばれている覇王。
オフィーリアと呼ばれるこの世界の有名人である。
「私はお前を倒して、このオフィーリアに平和を取り戻さなければならないんだ……次で決めさせて貰う」
「クフフ……いいでしょう。僕もそろそろ限界が近い。あなたを倒して、オフィーリアを完全なる闇の世界に堕とさせて貰いますよ」
2人は残りの力をありったけ獲物に集中させる。次の一撃で間違いなくこの戦いに決着が着くであろうことはどちらも悟っていた。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
裂帛の雄叫びと共にアナスタシアの聖剣とヴォルガゼノスの魔剣が切り結ぶ。
ドォォォォォン!!!
「ヴォルガゼノスぅぅぅ!!!」
「アナスタシアぁぁぁ!!!」
渾身の力の鍔迫り合いが続く……そしてその瞬間。『それ』は突然起こった。
キュィィィィィン……!
「な、なんだっ!?」
「これは……書斎で見たことがありますね……という事はまさか……!?」
ぶつかり合った2つの剣を中心にして、尋常ではない圧力の力場が淡い光と共に広がってゆく。
「く……うわぁぁぁぁぁ!!!」
「このままでは……飲み込まれる!」
力場が部屋中を包み、一際大きな光を放ったあとに消えた。
しかしその場からは、勇者アナスタシアと魔王ヴォルガゼノスの姿も消えていたのであった。
後に王都からの調査隊と、魔界からの使者がアナスタシアとヴォルガゼノスの安否を確認しに魔王城へと派遣されるが、双方とも2人の姿を確認する事はできなかった。
それから数年後……
「父さん母さん、行って来ます!」
「クフフ……気をつけるのですよ勇魔」
「行ってらっしゃい勇魔! 頑張って来てね!」
小さな一軒家から身長165センチ位、中肉中背の元気な少年が飛び出す。
彼の名前は魔勇勇魔。
勇者アナスタシアと魔王ヴォルガゼノスの間に生まれた子供である。
「しかし、もう15年ですか……こちらの世界に来てから気付けばもうこんなにも時がたっていようとは」
「私も同感です世乃栖さん」
息子を見送ったこちらの仲むつまじい夫婦。
夫の魔勇世乃栖と妻の多梓亜。
この2人。実は勇者と魔王だったりする。
本当の始まりは次からですね。
勇者と魔王の過去の話も追々書ければええなぁ……