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灰色キャンパス



 止まない雨はない。だれ?最初にそんなこと言った人。

 もう六日も降り続けてるんですけど。土砂降りとまではいきませんが、ひどい雨です。

 どこを見ても灰色、灰色、灰色。そろそろ太陽の日差しが恋しくなります。

「はぁ・・・」

 そりゃため息だって出ちゃいますよ。

 憂鬱感と無気力の両方が襲ってきます。わたしは机に突っ伏して、目を閉じました。



一週間前



 わたしはふと休暇が欲しくなりました。しかも猛烈に。

 なんというかストレスが溜まっている感じで、とにかくリフレッシュしたいのです。誰にでもありますよね、こういうこと。

職場の方には一週間の家族旅行、という名目で無理やりながら休暇を貰うことができました。

わたしは職場でそれなりの業績を残していますし、上司ともそれなりに仲がいいので、一年に一回くらいならこんな無理も聞いてくれるのです。

 さて、久しぶりに心が軽くなりましたよ。何もかも忘れ、遊び呆けて心も体もリフレッシュ。もちろん、すでに予定もいくつか入れています。

 気分はまさに有頂天、おもわず笑みもこぼれてしまいます。



休暇一日目



 雨。初日から雨。天気予報では広範囲に広がる雨雲がうんぬんと言っていました。つまりこの雨しばらく続いちゃうのです。モウヤダ。

 どうしてわたしって運がないんでしょうかね。

 でも、なってしまったものはしょうがないです、諦めるしか無いんです、現実は厳しいものなのです。

せっかく貰った休暇、無駄に使うわけにはいきませんでした。

 雨は嫌いです。わたしはできるだけ室内でできることを模索しました。

室内、有意義、リフレッシュ。これらのワードから導かれるものは……そうです読書です。

 幸いにも雨で出歩けない日にでも読もうかと思って買っておいた小説が何冊かありました。さすがに読み終わる頃には雨も止んでいるでしょう。



休暇四日目



 全部読破しちゃいました。しかも三日で。完全にやることがなくなりました。いろいろ考えたのですが室内でできることなんて限られてます。

 特にやることがなくなってしまったわたしは、気がつけば明るく楽しいニート生活を満喫していました。

その内容はというと、ふとんに潜りいつまでも眠る。ただこれだけです。

 黒い雨雲のせいでカーテンを閉めると部屋の中はちょうどいい感じに薄暗くなってぐっすり眠れるのです。

人ってやることがなくなるとダメになってしまうんですね。おかげで総睡眠時間は二日くらいですよ。あぁ、しにたい。



休暇六日目



 さすがにこのまま堕落しきった生活を続けていたら、職場復帰した時にこの生活とのギャップで死にます。それ以前に人間としての何かが死にます。

 危機感が募り始めます。わたしだって一応社会人です。いつまでもぐうたらな生活はしていられません。

こうなったら何かしらやるしかないでしょう。

 ふと、あることが思い浮かびました。わたしは押し入れからあるものを引っ張りだしてきます。

 鉛筆、消しゴム、絵筆、絵の具、キャンパスなどその他諸々。絵を描くことによって気持ちを高めよう、という思いつきなわけです。

こう見えてもわたし、風景画を描くのが好きなんです。

 こんな天気だったので描くのは自重していましたが、この際構いません。曇天だって立派な風景です。ええ描いてやりますよ描いてやりますとも。

もはや休暇だのリフレッシュだのは関係ありません。人としてダメになるのを防ぐのもいい経験となることでしょう。

 この部屋の窓からは町を一望できます。ここからならいい絵が描けそうです。

 キャンパスを机の上に置き、鉛筆を手に取りました。

 


 まずは下書き。これは特に苦労もせずものの二十分程度で描き終えました。

キャンパスにはここから見える町並みである数々の家やいくつかのビル、そして薄らと遠くに見える山々、そしてこの曇天を描きました。

 続いて色塗り。用意した色は黒系統や灰色系統のものばかりでパッとしませんが、まぁ仕方ないことでしょう。

絵筆に水を少しつけ、パレットの上で絵の具を溶かします。

 まずは雲から描いていきましょう。キャンパスにそっと絵筆をつけました。

「…………え?」

 わたしは目をこすり、もう一度色を塗った部分を凝視します。

「…………はい?」

 おかしなことが起きました。わたしが筆につけたのは灰色の絵の具です。

 パレットを確認してみました。もちろん、こんな色は用意していません。

「虹色……。」

 こんな色の作り方はそうそうできるものではありません。というかできません。色と色とがまったく混ざらずに、ほんとうにきれいな虹色をしているのです。

 試しに何度か筆をつけてみました。が、やはり虹色にしかなりません。

そうして試し塗りしているうちに、気がつけば虹色の雲を描き上げていました。

 それはとても幻想的なもの。現実ではありえない光景。とてもすばらしく、美しいです。

 なぜこんなことが起きているのかだとか、その原理だとかは、あまり不思議に思いませんでした。

なんというか頭がボーッとして、物事をあまり考えられない、そんな感じでした。

 これはこれで綺麗な絵が描けそうなので、このまま描き続けようとしました。その時です。

「…………あ、あれ……?」

 おかしいです。今まで雲だけに色をつけていたはずなのに、いつの間にか町並みや、他の箇所にも色が塗られていたのです。

 いったい何が起こっているのか、わたしはまったく理解できませんでした。

何度も目をこすりますが、目の前の光景に一切の変化がありません。それどころか、なんだか部屋全体が歪んでいるように見えるのです。

 これは大変です。自分では気づいていませんでしたが、そうとう体の方はお疲れだったようです。

 とりあえず一眠りしようと思い、椅子から立ち上がろうとしました、が

「う、うわぁっ」

 わたしは椅子から転げ落ちてしまいました。



休暇七日目



 わたしは机に突っ伏していました。

「…………。」

 いつの間にか寝てしまったようです。今までぐうたら生活だったというのに、なんでこうも寝てしまうんでしょうか。

 はっとして机の上のキャンパスを見ます。どうやら下書きを終えたところで安心して眠ってしまったのでしょう。ちょっとよだれもついてます。なんという失態。

 ぐぐぐっと背伸びをします。今からでもなんとかなるでしょう。筆を持って窓の外を見てみました。すると

「あ……。」

 雨、止んでいました。ところどころ雲間から陽の光が見えます。明日には晴れてくれるでしょうか。

 再びキャンパスを見ます。今の風景とはまったく違うものが目の前にはありました。

わたしはこの曇り空を描きあげてみたいと思います。どうせなら、夢で見たあの虹色で。

 この絵が完成したら外へ出かけたいです。その頃には雨も止んでいることでしょう。

灰色に染まるはずだったキャンパスは、あざやかな虹色へと変化していくのでした。



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