表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

第六話 『異常事態』

 気が付くと、深鈴は大きな椅子に座っていた。今いち状況が掴めず、周りを見回そうとすると頭が何かに引っ掛かる。深鈴は被っていたヘルメットの様な物を外し、やっと自分がNRWにログインした所に居るのに気付いた。今まで居た場所とは逆に、最先端の機器達に囲まれた、狭いボックス状の部屋。外からは完全に隔離されていて、小さな窓一つ無い。体だけはこんな所にずっと居たのかと思うと、深鈴は何だか複雑な気分になった。

「そう言えば、あれからどうなったんだろ?」

 ウィルに薦められるままにログアウトしてしまったが、あのコロボックルは無事なのだろうか、と不安になる。もう一度ログインし直すべきか悩んでいる最中、ふと深鈴は自分の膝の不自然な重みに気付く。

「?」

 鞄でも置いていたかと思い、視線をそこへと動かした深鈴はそのまま凍り付いてしまった。

「深鈴、起きてるなら開けてくれ」

 聞き慣れた声のおかげで我に帰ったが、状況は変わらない。深鈴は扉を開けたものかどうか迷ったが、開けなければ事態は進展しないだろう。そう考え、深鈴は膝の上のものをそっと抱き抱えると、少しだけ扉を開けた。

「急にログアウトするなよ……って、何持って……え?」

 康は最初、不機嫌な顔をしていたが、深鈴の腕の中を見ると、驚きに目を丸くした。

「……これ、どうしよう」

 深鈴の声は、当然の事ながら途方に暮れた物になっていた。

「……か、筧さんに…相談しよう、か?」

 自然に、康は小声になる。こんな事態、自分には解決不可能だと思ったのだ。深鈴はその提案に声も無く、こくこくと頷いて肯定する。そうして二人は『それ』を隠すように、そそくさとその場を離れたのだった。


 ロビーに出ると、そこには待ち構えるように筧が立っていた。

「あ、お帰り。二人共、ちょっとマズい事になったぞ」

「え、あ…あの、こっちもマズい事に……」

 康の歯切れの悪い物言いに、筧は怪訝そうな顔をする。

「何か、あったのか?」

「あ、えっと、これ……」

 康がおどおどと深鈴に視線を送ると、深鈴は無言で隠し持っていたものを筧に示した。一瞬にして、筧の表情が固まる。

「な、んだ……?」

 深鈴の腕に抱かれていたのは、身長四十センチ程の子供。若干、縮尺が違ってはいたが先程のコロボックルそのものだった。重い沈黙が、三人の上に乗し掛る。

「…………一先ず、俺の車に」

 やっとの事で、筧はそれだけ言った。その後は三人共、逃げるようにその場を去ったのだった。


 裏にある駐車場で、三人は無言のまま車に乗り込んだ。日陰に停めてあったとは言え、むっとする蒸し暑い車内で筧がエンジンをかける音だけが、嫌に大きく響く。

 暫く沈黙だけが辺りを占めていたが、考え込んでいても仕方が無いと思ったのか、筧は車を発進させた。

「どこ、行くの……?」

 康が疑問を口にする。

「……俺んち。周り気にせず話せる場所、そこしか思いつかん」

 投げ槍な風に聞こえるのは、筧も混乱しているからなのか。

「……これも、バグ?」

「違う、だろ。むしろ……深鈴ちゃん」

 何か思い付いたのか、筧は信号で止まった所で自分の携帯を取り出した。

「ちょっと、その子見せて」

 深鈴が腕を少し広げてコロボックルを見せると、筧は携帯のカメラでそれを撮った。そのまま素早くメールを打つと、どこかにそれを転送する。

「何……?」

 不安げに深鈴が訊いてきたが、筧はちょっとな、と言うだけだった。信号が青に変わり、再び景色が流れ始める。暫くすると筧の携帯が鳴り始め、筧は運転しながら器用にそれに出る。

「……あぁ、悪いな……うん、そうか。いや、大した意味は無いよ。うん、今、運転中だから……あぁ、また呑み入ったら行くよ。じゃあ」

 筧は短い会話を終えると携帯を切り、大仰な溜め息をついた。

「何……今の?」

 不安そうに、康が訊いてくる。筧は前を見たまま、いやな、と言った。

「ダチにその子の写メ送って確認してみた。どうも集団幻覚の類じゃ無いみたいだな」

 いっそ、そうであってくれた方が良かった、と言わんばかりに、筧は康に返答する。そんな筧に、康はぽつりと呟くように言った。

「何か、筧さん、冷静だね」

「そうか? そう見えるかぁーっ! 滅茶苦茶、こっちは混乱しまくってるぞ!!」

「う、うわぁー! 筧さん、前っ! 前、見て運転してっ!!」

 康に反論すべく叫んだ筧は、見事に真横を向いていた。いち早く(?)それに気づいた康が、慌てて叫び返す。つまりは、筧も余り冷静ではないらしい。

「……まぁ、そんな討論も、家についてゆっくりするか」

 下手打って事故死なんて、冗談じゃないからな、と筧は苦笑しながら言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ