第十七話 『地震』
暫くすると、着替えた太一が再び皆の前に現れた。先程の事など特に気にする風も無く、再び皆の所へと座る。そんな太一に、深鈴は少しだけほっとしていた。
「さてと……ん?」
漸くマニから何かしら聞き出せると思ったのか、筧は意気揚々と口を開こうとした。だが、何かに気付いた様に言葉を途切れさせる。最初、誰もそれが何の為なのか分からなかったが、次第に皆、理解し始めた。
「何か、揺れてない?」
大型のトラックが通った時の様な軽い揺れを感じ、深鈴は何となく天井を見詰めながら、そう言った。最初は微弱だったそれは、次第に大きくなっていく。長く続く揺れに不安が募った瞬間、部屋がガクンと横に揺れた。
「ぅあっ!?」
驚いた康の口から、奇妙な悲鳴が零れる。かなりの揺れに、各々慌てて側にある物にしがみついた。深鈴は反射的にマニを抱え込む様にその場に伏せ、康は側の箪笥に、太一は目の前の小さなテーブルに、筧は何故だかパソコンにそれぞれしがみついている。部屋の中の安定が悪い物達が、どんどんと倒れ、中には床に落ちていく物もあった。何時になったら治まるのかも分からない揺れに、誰もがおろおろとするばかりだ。だが、暫くそうしている内に、次第に揺れは治まっていった。
「……と、止まった??」
箪笥から手を離し、康はそう言った。揺れは激しかったが、幸い筧の部屋には物が少なかったので、それ程の被害は無い様である。
「大きかったなぁ……最近、デカい地震が増えてないか?」
筧はパソコンから手を離すと、部屋の惨状を見つつ、溜め息混じりにそう言った。深鈴も恐る恐る顔を上げ、周りを見回す。
「た、太一さん、大丈夫っ!?」
瞬間、深鈴はそう叫んだ。見れば、太一はまだ机にしがみついたままで、動かない。何か上から落ちてきた物で、頭でもぶつけたのではないかと深鈴は思ったのだ。
「あ、いや……だ、大丈夫だ……」
言いながら、太一はやっと顔を上げた。心成しか、顔色が悪く思える。心配そうに深鈴が見ていると、太一は再度大丈夫だと言って軽く手を振った。
「その……苦手、なんだ」
口篭る太一を見て、深鈴は漸く納得した。どうやら、太一は地震が苦手らしい。これだけ強そうで大きな大人が地震を怖がると言うのは、本人には悪いが、少々可愛らしく思える。
「太一さんにも苦手なものがあるんですね」
意外そうに言う深鈴に、まぁな、と太一は言った。
「タイチは地震ダメか? マニは平気だぞ。慣れてるしな」
深鈴と太一が話していると、深鈴の腕の中からぴょこんとマニが顔を覗かせた。そのまま深鈴の腕から抜け出すと、とことこと太一の傍にやってくる。
「じっとしてれば、すぐに終わるし。怖くないぞ」
マニなりに太一を気遣っているのだろう。マニは太一の横に座ると、慰める様にぽんぽんと腕を叩いた。そんなマニの様子に太一は苦笑しつつ、マニの頭を撫でる。
「そうだな。お前は強いな」
褒められて、マニは嬉しそうに目を細めた。子供らしいその仕草に、何だか場の空気がほんわかと和む。
「マニ君の住んでた所も地震が多かったんだね」
深鈴は倒れてしまった物を分かる範囲で片付けながら、マニにそう言った。日本自体、地震の多い土地だが、深鈴達が今現在住んでいる場所は特に頻繁だった。最近では今日の様な規模の地震も少なくない。
「おう、多いぞ。昔はそうでもなかったって大人は言うけど」
マニはもそもそと太一の膝の上に移動しながら、そう言った。これだけの地震でも離さなかったスナック菓子を摘み、一つ口に放り込む。
「昔は、違ってた?」
深鈴と同じく散らかった物を片付けていた筧が、マニの言葉に手を止めた。
「うん。こんなにいっぱい、地震は起こらなかったって」
暢気にスナック菓子を頬張るマニとは対照的に、筧は酷く真剣な顔をしている。深鈴が少々、驚いてしまった程だ。しかし、マニは気付いていないのか、そのままの調子で話を続ける。
「こんなふうになったのは、神様が来てからだって、大人は言ってるよ」
「……神様?」
新たな単語に、筧の眉がぴくりと動いた。今まで進展の無かった状況に、突破口を見出せた、そんな表情に見える。筧は身を乗り出す様にして、マニの方へと向き直った。