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第十五話 『仮説』

 『ハッキング』――筧の言った言葉に二人共、驚きを隠せなかった。二人して顔を見合わせ、おろおろとしている。その様子を見て、筧は苦笑してこう言った。

「君ら、ハッキングって悪い意味に捉えてるだろ……」

 筧の言葉に、今度は二人とも違うのかと言わんばかりの表情となる。それを見て、筧は溜め息をついた。

「ハッキングってのは別に悪い意味じゃないよ。君らが思ってるのはクラッキングかと」

 クラッキングは不正アクセスを行い、データやプログラムの入手や破壊を行う行為だ。確かに『クラッキング』はメディア的にも『ハッキング』で通っている為、深鈴や康の様に誤解する人も多いが、元々は高い技術でシステムを改造する事である。しかし、現在そう言う意味で『ハッキング』と言う言葉を使っているのは一部の技術者か、そうで無くともコンピューターを一般以上に詳しく知る人間位なのも確かだった。

 当然、深鈴は勿論、康もそう言った意味ではこの言葉を正しく捉えていない。それを感じ取り、筧は改めてそれを説明した。

「えーと……その、悪い事に使わなければ『ハッキング』で、悪い事に使ったら『クラッキング』って事?」

 分からないながらも、深鈴は自分なりの答を筧に示す。

「単純に言えば、そう」

 苦笑したまま、筧はそう言った。パソコンが一般普及してから今まで、一世紀以上経とうとも解決していない用語の壁である。技術者の間の単なる意地とも思える事なので、筧もそこは軽く流して終わりにした。少なくとも現在、自分が不正な事をしている訳では無いと伝われば十分だった。

「俺がしたのは、スキンのプログラム解析と改造。それなら、何ら違法じゃない」

 そう言われ、康はやっと納得のいった顔になった。スキンのプログラム自体は公開されているし、それを改造するソフト等も出ている。それが違法で無いと言うのは、NRWをやっている人間には周知の事実だった。只、スキンのプログラムはかなり膨大で、全ての解析には多大な時間と費用が掛かる為、一般的には不可能に近いと思われている。以前、康もスキンの改造を自分で出来ないかと自前のパソコンでプログラムを開いてみたが、その量に二時間待たされた挙句にエラー表示が出ると言う悲惨な目に遭った。その結果、パソコンのスペックを上げるだけの労力や費用を考えれば、市販のソフトを使用した方が良いと言う結論なったのは当然と言えよう。結局、全ての解析が出来るのはNRWを作った会社位のもので、事実、市販の改造ソフトはそこから発売されている物が殆どだった。

「……って、事は、筧さん、スキンのプログラム解析しちゃった……?」

 自分の見た膨大なプログラムの一端を思い出し、康は今度は別の意味で驚いた。あれだけの物を解析する等と、少なくとも康に取っては人間業では無かったからだ。

「あー、いや。山勘がぴたりビンゴでね。流石に全部解析なんてのは、無理」

 だから、実はあんまり凄くは無いんだ、と筧は謙遜とも事実とも分からない言い方をした。そのほんの少し苦笑した筧の様子に、場は一瞬和み掛ける。が、次に深鈴が言った一言で、再び波乱が起こった。

「でも、何でスキンのプログラムを使ったら、マニ君の言葉が分かるようになったの?」

 言われれば、その通りだった。何かしらの翻訳プログラムを改造した、と言うのなら解るが、筧は確かに『スキンのプログラム』と言ったのだ。スキンは言ってしまえば、ゲームの中の装備アイテムに人格を持たせた物だ。AIを組み込んではいるが、翻訳プログラム等を組み込む必要は無い。

「言われてみれば、必要無い、よね……?」

 確認する様に、康が筧に半疑問形で語り掛けた。筧も少々難しい顔をしている。

「確かに、NRWが単なるネットゲームであれば、必要は無い。けど……」

 これは、仮説だから、と筧は前置いて話を続けた。

「……NRWが現実に存在してる世界で、スキン自体も『そこ』の世界の物だったとしたら?」

 その『仮説』に、二人は絶句してしまう。そのあまりの突飛さ故に。

「例えば何処かにこう言った『世界』があって、プレイヤーはみんな、仮想現実(バーチャル)だと思っているけれど、実際はその『世界』に行っている完全な『現実』なら、説明がつくんだ。スキンやNPCとプレイヤーの会話を成り立たせる為には翻訳プログラムも必要となるだろ?」

 確かに筧の言っている事は筋が通っている様に思える。だが、この世界にそんな知られていない国があって、そこが高々ゲームの為だけに秘密にされているとは考え辛い。多分、筧が言っているのは……少なくとも地球上の話では無いだろう。『異世界』。そんな言葉が二人の頭を過ぎったが、それこそ御伽噺の領域だ。

「在り得ない……」

 康が、ぽつりと漏らした。それは、深鈴も同じ気持ちだ。

「俺も、そう思うよ。だけど、その方が何だかしっくりいくんだ」

 そう言って、筧は溜め息をついたのだった。

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