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午睡  作者: 藤原建武
最終章「カミノフルメキ」
13/19

(1)


 車は県道から、下道に入る。

 隆史は清美の運転する車に乗っていた。後部座席から外を見る。低い山並みが、次々に去っていく。

「いいところでしょう?」

 助手席から、霧也が振り返る。

「あと山を一つ越えたところです」

 月前町まで、片道で半日かかるという。それを聞いても行こうと思ったのは、恭次の話に確信を抱いたからだ。

 清美の不審げな目や、霧也の異様な親しみ。霧也が隆史を誘ったのには、なにか裏がある。

 そのうちに車は山道に入り、坂をのぼる。がたがたと車体が揺れた。

「もう。ちゃんと舗装されてないみたいね」

「小さな町だからね」

 その会話も不自然だった。清美は、霧也の姉ではない。清美は土地勘がなく、月前町を知らない。この二人は、いったいどういう関係なのか。

 そのうち坂を越え、平地を見下ろす。

「あそこが――」

 そこには、聞いたような田園はなく、果樹園の姿もない。アメリカのドラマで見た、東部開拓期の荒野に似ていた。

 霧也が無言になった。そしてここまで自然豊かにきたのに、向こう側の山々は、ところどころ赤茶けていた。

 これが霧也の育った月前町。家屋はまばら、ずいぶんと殺風景なところだった。

 車は山をおり、町に入る。

「民宿に、予約しているんですよね」

「はい」

 清美が答える。

「チェックインまで時間があるから、どこかでスケッチして、時間を潰す予定だったんだけど……」

 ちらっと、清美が霧也を見る。

「うん、ああ。奥月村の方に、いい場所があるんだ。そこに行こう」

 清美が、赤茶けた山の方に向かう。山の地肌が剥き出しになったところもあり、重機が削っていた。

 最近、銀行や企業による、土地の購入が盛んである。ゴルフ場でも建設しているのだろう。

 車はその方へ向かって行く。

 サイドミラーに霧也の顔が見えた。

 その表情に、隆史はぞっとした。

 今ようやく、殺人鬼と一緒にいることを自覚した。


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