(6)
夜、インターホンが鳴った。
眠い目をこすって、玄関に出る。
こんな時間に誰だろう。ドア越しに、レンズをのぞいて、相手を見る。松葉だった。
清美はチェーンをかけたまま、ドアを開く。
「こんな時間に何のようですか?」
「猫を見にきたんだ」
「帰ってください」
「おいおい。わざわざきたんだぜ」
「……」
清美は閉めようとする。隙間に、松葉は革靴のつま先を入れる。
「おい、いい加減にしろよ」
「それはこっちの台詞です。足どかしてください」
松葉は肩を入れ、チェーンを外し、強引にドアを開く。
清美を押しやり、後ろ手に閉める。
そこで清美は、松葉が酒臭いのに気づいた。
「このマンションだって、俺が見つけてやったんだろ」
靴を脱ぎ捨て、清美の腕を引っ張る。
清美は精一杯抵抗し、
「お願い、出てって!」
「なんだ? 男でも連れこんでるのか?」
それに黙りこむ。こんなところ、霧也に見られたくない。
松葉は調子に乗り、リビングまで引っ張り、ソファに押し倒す。
「おとなしくしてりゃ、すぐに帰ってやるよ」
松葉は清美のシャツを脱がす。清美は抵抗することをやめた。その上に覆いかぶさり、酒臭い息を吹きかける。
「で、猫ってどこにいんだよ?」
清美の髪をつかみ、顔を向けさせる。そして清美は、松葉の後ろに、暗い影を見た。
ガラスの砕ける音と、鈍い音が重なった。松葉の首が、がくんと傾く。
松葉は呻きながら、頭をさすり、身を起こす。振り返り、
「なんだテメェ……」
清美は、割れたビンを手にした霧也を見た。
「ガキじゃねぇか……」
霧也の姿が、松葉に重なった。松葉の体が後ろに倒れ、その上に霧也がのる。松葉は喉を震わせ、声にならない声で呻いていた。割れたビンは、腹部に深々と突き刺さっていた。
清美はただ、その光景に呆然としていた。そして最初に出た言葉は、
「隠さなきゃ」
先に死体の処理を考えていた。隠さなければ、霧也を失ってしまう。それかもう、今までの会話を聞かれて愛想を尽かされたか。
清美はすがるように霧也を見た。霧也は振り返ると、強引に清美の唇を奪った。清美はその背中に腕を回し、互いに求め合う。
何かが吹っ切れた思いだった。




