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午睡  作者: 藤原建武
第二章「骨美人」
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(6)


 夜、インターホンが鳴った。

 眠い目をこすって、玄関に出る。

 こんな時間に誰だろう。ドア越しに、レンズをのぞいて、相手を見る。松葉だった。

 清美はチェーンをかけたまま、ドアを開く。

「こんな時間に何のようですか?」

「猫を見にきたんだ」

「帰ってください」

「おいおい。わざわざきたんだぜ」

「……」

 清美は閉めようとする。隙間に、松葉は革靴のつま先を入れる。

「おい、いい加減にしろよ」

「それはこっちの台詞です。足どかしてください」

 松葉は肩を入れ、チェーンを外し、強引にドアを開く。

 清美を押しやり、後ろ手に閉める。

 そこで清美は、松葉が酒臭いのに気づいた。

「このマンションだって、俺が見つけてやったんだろ」

 靴を脱ぎ捨て、清美の腕を引っ張る。

 清美は精一杯抵抗し、

「お願い、出てって!」

「なんだ? 男でも連れこんでるのか?」

 それに黙りこむ。こんなところ、霧也に見られたくない。

 松葉は調子に乗り、リビングまで引っ張り、ソファに押し倒す。

「おとなしくしてりゃ、すぐに帰ってやるよ」

 松葉は清美のシャツを脱がす。清美は抵抗することをやめた。その上に覆いかぶさり、酒臭い息を吹きかける。

「で、猫ってどこにいんだよ?」

 清美の髪をつかみ、顔を向けさせる。そして清美は、松葉の後ろに、暗い影を見た。

 ガラスの砕ける音と、鈍い音が重なった。松葉の首が、がくんと傾く。

 松葉は呻きながら、頭をさすり、身を起こす。振り返り、

「なんだテメェ……」

 清美は、割れたビンを手にした霧也を見た。

「ガキじゃねぇか……」

 霧也の姿が、松葉に重なった。松葉の体が後ろに倒れ、その上に霧也がのる。松葉は喉を震わせ、声にならない声で呻いていた。割れたビンは、腹部に深々と突き刺さっていた。

 清美はただ、その光景に呆然としていた。そして最初に出た言葉は、

「隠さなきゃ」

 先に死体の処理を考えていた。隠さなければ、霧也を失ってしまう。それかもう、今までの会話を聞かれて愛想を尽かされたか。

 清美はすがるように霧也を見た。霧也は振り返ると、強引に清美の唇を奪った。清美はその背中に腕を回し、互いに求め合う。

 何かが吹っ切れた思いだった。


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