表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
午睡  作者: 藤原建武
第二章「骨美人」
11/19

(5)


 清美が給湯室でコーヒーをいれている時だった。

「最近つきあいが悪いな」

 上司の松葉が入ってくる。四十近いが、背は高く、髪も短く刈って、精力にみちていた。

「今、コーヒーいれてます。あとで持っていきますから」

「そうじゃなくてさ」

 松葉は清美の肩に手を回す。

「なんだよ? 彼氏でもできた?」

「べつに……」

 松葉の、左の薬指の指輪が光った。

「今度、猫、見にいっていい?」

「困ります」

「なんで?」

 清美は松葉の腕を振りほどき、給湯室を出た。そのままトイレに駆けこむ。

 廊下で、同僚とすれ違った瞬間、うしろから笑い声が聞こえた。

 清美は体を抱きしめ、うずくまる。

 松葉との関係は二年前、この部署に配属されてからだった。抵抗がなかったわけじゃない。自分に言い訳して、関係を続けた。仕事で優遇されることもあるし、何かと便利だった。

 しかし関係を隠していても、空気で分かる。いつしか影で、揶揄されるようになった。

 そうして、いつもその影に怯え、ただの儀礼に溺れた。このまま自分は、朽ちた骨になっていくのだろう。何もない、ただの空虚な存在として。

 そう思っていた。それでも霧也は、「綺麗だ」といってくれた。

 霧也といれば、霧也が意味を与えてくれる。ずっと一緒にいたい。失うことが怖い。

 このまま誰にも明かさず、あの部屋に夢を飼い続けよう。



 清美は憂鬱な気持ちで家に帰る。

「おかえり」

 そういって、霧也は出迎えてくれた。

 清美はじっと、霧也の顔を見つめる。

「どうしたの?」

 霧也は姉のように慕ってくれる。どこかに本当の姉がいて、家があるのだろう。

「霧也は、いつか出てくの?」

 唇がふるえた。

 霧也は、清美の瞳を見返す。

「ずっと、一緒にいて……」

 それに霧也は微笑んだ。

「当たり前だろ、姉さん」

 その瞳が、清美ではなく、姉の記号を見ている。そのことは分かっていた。たとえそれでも構わない。

 霧也は、想像で絵を描けない。清美の絵だけは、確かに見てくれている証拠だ。



 丸くなって二人で眠る。甘い嘘の中で、夢は肥大していく。

 抱き寄せれば、その温度の中で、骨が触れ合う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ