エキストラ募集中!
短編です
街を歩いていると、女性に声をかけられた。
「あなた、すごく良い!」
目をランランと輝かせた女性は、黒いTシャツにチノパン、腰元にはガムテープやボールペンなどを入れる小さなポーチ、そして台本と思しき紙の束を持っていた。
「なんですか?」
「エキストラを募集しているんです!あなた、ピッタリだわ!」
何かの撮影のエキストラを探していたらしく、何やら重要な役だからと言われ、俺は二つ返事で請け負った。だって別に予定があったわけじゃないし、映画だかドラマだか知らないけど、そんな経験めったにできないだろうし。
女性についていくと、町中の撮影だったらしく、商店街を真っ直ぐただ歩くように指示された。
台詞とか、どういう感じで歩くかとか、なんか指示無いのか?
「ただ真っ直ぐ歩いてください!急いで!」
ただ真っ直ぐ歩けと言われてもなぁ。じゃぁまぁ、歩くけど。
指示通りただ真っ直ぐ歩く。商店街の端から端まで歩くと、女性はいつの間にか傍にいた。
「いやぁ!よかった!私の目に狂いはなかった!ありがとう!」
女性はそう言って、俺に一万円を渡してきた。
「助かったよ~!」
ニコニコ笑っているけど、コレ、何時どの番組に使われる映像なんだ?と聞こうとしたら、女性は、忙しそうに走り去ってしまった。
何だったんだ・・・。でもまぁ、ただ真っ直ぐ歩いただけで一万円もらえたなんて、ラッキー。コレで今日は何か美味しいモノでも食べよう。
俺は近所のコンビニに寄って、普段買わない良い具材のおにぎりと、気になっていたスイーツとアイスを買い込んで家に帰った。
もらった一万円のほとんどはそんな他愛もないモノに消えた。お金って儚いなぁ。
数日後、一通のメールが届いた。
そのメールはどうやらこの間の女性からで、「撮影協力ありがとう」という内容のバカ丁寧な文章と共に動画のリンクが張り付けてあった。
「「彼は手に入れた報酬を財布に入れ、どこへ向かうのか・・・」」
開くと、誰かの一日を追うドキュメントのような内容で、主人公らしき人の朝から晩までを映したものだった。この動画の主人公はパチンコ屋に入って、一時間もせずに落ち込んだ様子で出てくる、というなんとも他愛もない日常の動画だった。
その途中、俺が通ったあの商店街が映り、その映像の端に、俺が通り過ぎていった。
「・・・・これだけ?」
エキストラとは言われたけど、たったこれだけなんだなぁ。しかもなんか、俺ちょっとニヤニヤしてないか?ヤダなぁこんな映像残されてるの。ってか、これって、TVとかで放送されんのかな?今からでもモザイクかけてくれないかなぁ。
そう思っていると、もう一通、同じアドレスからメールが届いた。そう言えばあの人、なんで俺のアドレス知ってるんだろう。
もう一通を開くと、また動画のリンクが張り付けてあった。開くと、さっきの動画に似ていたけど、どうやら映っているのは、俺だった。
「・・・なんだよコレ・・・」
「「誰かの人生のエキストラとなった彼は、一万円を手にした。ホクホクとした表情でコンビニに入っていく。彼は普段買わないスイーツなどを買い込んだようだ。顔が緩んでいるのが分かる」」
どう見ても盗撮したとしか思えないアングルで、あの日の俺の行動が事細かに説明されている。は、恥ずかしい・・・。
俺が家に向かう動画の途中、ニヤニヤしながら妙に周囲をソワソワと気にする女性が通り過ぎたのが気になった。
「あれ、この人もしかして・・・エキストラかも」
リンク先のアカウントを開くと、俺以外にもたくさんの人の動画がアップされていた。
——えぇ・・・怖ぁい・・・——
次のエキストラはあなたかもしれない。




