追放された俺のスキルが「整理整頓」だったんだが、魔王城の汚部屋を掃除したらなぜか幹部として歓迎されている件
「アイク、お前はクビだ」
王都を出てから三日目。 魔境の入り口と呼ばれる森のキャンプ地で、勇者アルヴィンが冷淡に告げた。
焚き火の爆ぜる音が、やけに大きく聞こえる。 俺は手に持っていた荷物を置き、眉をひそめた。
「……クビ、ですか。理由を聞いても?」 「言わなきゃ分からねえか? お前のスキル『整理整頓』が、戦闘の役に立たないからだよ」
アルヴィンが嘲笑うように鼻を鳴らすと、後ろに控えていた聖女と賢者も、汚いものを見るような目で俺を見た。
「そうね。あなたの『アイテムボックス内の整頓』なんて、誰でもできる雑用でしょう?」 「僕たちのリソースを割く価値がないんだよ。ポーションの管理なんて、自分でやればいい話だしね」
俺のスキル『整理整頓』。 それは、乱雑な状態を瞬時に秩序立て、最適な配置に並べ替える生活魔法の一種だ。 確かに直接的な攻撃力はない。 だが、彼らは分かっていない。
無限に近い容量を持つアイテムボックスの中から、必要なポーションを0.1秒で取り出せるのが誰のおかげか。 野営の際、魔物が寄り付かない清潔な結界を維持しているのが誰なのか。 彼らの装備のメンテナンスや、食料の鮮度管理を完璧に行っているのが誰なのか。
――いや、説明したところでもう遅いか。 彼らの目は、完全に俺を「寄生虫」だと断定している。
「分かりました。パーティーを抜けます」 「おう、物分かりが良くて助かるぜ。手切れ金代わりに、その安物の剣くらいは持ってっていいぞ」
勇者はニヤニヤと笑いながら、野営地の結界の外へ指を差した。 ここは魔境の入り口。 ソロの冒険者が生き残れる場所ではない。実質的な死刑宣告だ。
俺は怒りを通り越して、諦めの境地で息を吐いた。 これほど整理されていない、乱雑な人間関係には、俺のスキルも及ばないらしい。
「では、お元気で」
俺は一礼し、たった一人で夜の森へと歩き出した。 背後で「あいつ、すぐ死ぬんじゃね?」「ギャハハ!」という下卑た笑い声が聞こえたが、振り返らなかった。
◇
パーティーを追放されてから、三日が経った。 俺はまだ生きていた。
襲い来る魔物は、俺のスキルで対処した。 『整理整頓』は、なにも掃除だけのスキルではない。 「敵」と「自分」の位置関係を強制的に「整理」して距離を取ったり、飛んでくる矢の軌道を「整頓」して逸らしたりできる。 攻撃力はなくとも、生存能力に関しては一級品なのだ。
しかし、さすがに疲労が限界だった。 食料も尽きかけ、どこかで休息を取らなければならない。
「……なんだ、あれは」
鬱蒼とした森を抜けた先に、巨大な城がそびえ立っていた。 黒曜石で作られたような禍々(まがまが)しい外壁。 空を覆う暗雲。 間違いなく、人類の敵対領域――「魔王城」だ。
だが、俺の目は別の点に釘付けになった。
「……汚ない」
城門の前には、折れた槍や錆びた鎧が山積みになっている。 庭園だったと思われる場所は雑草が伸び放題で、枯れた噴水にはヘドロが詰まっている。 魔王の威厳もへったくれもない。ただの巨大なゴミ屋敷だ。
俺の右手が、ピクリと反応した。 職業病だ。 散らかった場所を見ると、無性に片付けたくなる衝動が湧き上がってくる。
「いや、さすがに魔王城にカチコミに行くのは自殺行為だ……」
そう自分に言い聞かせ、引き返そうとした時だった。 ズズズ……と地響きが鳴り、城門がゆっくりと開いた。
中から現れたのは、全身黒尽くめの鎧騎士――「デュラハン」だ。 首のない騎士が、俺の方へと歩いてくる。 殺気はない。いや、それどころか……。
『……人間か? ちょうどいい、手伝え』
デュラハンは、小脇に抱えた自分の頭部を動かして喋った。 その声は疲弊しきっていた。
「……手伝う? 何をだ?」 『人手が足りんのだ。猫の手でも借りたい。いや、スケルトンの手も借りたいが、あいつらは骨だから物が掴めん』
デュラハンは俺の腕を掴み、強引に城の中へと引きずり込んだ。 抵抗しようとしたが、凄まじい怪力だ。 連れて行かれたのは、城の最奥にある「玉座の間」――の手前にある巨大な扉の前だった。
『この中だ。魔王様が……その、お困りなのだ』 「困っている?」 『入れば分かる。頼む、我々はもう限界なんだ』
S級モンスターであるはずのデュラハンが、すがるような声を出している。 一体、中にはどんな地獄が待っているのか。 俺は覚悟を決めて、重厚な扉を押し開けた。
ギィィィ……と重い音が響き、中の光景が目に飛び込んでくる。
「…………は?」
俺は絶句した。 そこは、地獄よりも恐ろしい場所だった。
広い部屋を埋め尽くすのは、書類、書類、書類。 脱ぎ捨てられた服、空になった酒瓶、食べかけの菓子袋、謎の魔法素材、壊れた武具。 それらが地層のように積み重なり、床が見えないどころか、天井に届きそうなほどの「ゴミ山」を形成していた。
そのゴミ山の頂に、何かが埋もれている。 よく見ると、ボサボサの銀髪にジャージ姿(のようなラフな部屋着)の少女が、書類の雪崩に飲まれて死んだ魚のような目をしていた。
「……あ、水……。誰か、水を……」
少女――人類の敵であるはずの「魔王」が、ゴミの中で遭難していた。
プチン。
俺の中で、何かが切れる音がした。 恐怖? 緊張? 違う。 ――許せない。 この、生理的嫌悪感を催すカオス空間が、俺の『整理整頓』スキルを最高レベルで刺激したのだ。
俺はデュラハンを振り返り、低い声で言った。
「……おい」 『ひっ、なんだ!?』 「ゴミ袋はあるか。なければ空間収納を使う。今すぐここを更地にするぞ」
勇者に追放された俺の、新しい戦いが始まろうとしていた。
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「――スキル発動。『絶対整頓』」
俺が静かにその言葉を紡ぐと、部屋の空気が一変した。 指先から放たれた淡い光の波紋が、部屋の隅々(すみずみ)まで広がっていく。
ガガガガガッ!!
凄まじい音が響き、物理法則を無視した現象が巻き起こる。 床を埋め尽くしていた書類の山が、まるで意思を持った軍隊のように宙を舞い、種類別・日付順に整列して本棚へと吸い込まれていく。 脱ぎ捨てられた衣類は一瞬で汚れを落とされ、綺麗に畳まれてクローゼットへ。 空き瓶やゴミは圧縮され、俺のアイテムボックス内の「廃棄物エリア」へと転送される。
舞い上がっていた埃すらも、光の粒子となって浄化されていく。
『な、なんだこれは!? 魔法か!? いや、時空魔法の類か!?』
デュラハンが自分の頭を落としそうになるほど驚愕している。 無理もない。俺のスキルは、ただ片付けるだけではない。「あるべきものを、あるべき場所へ」強制移動させる概念干渉に近い力だ。 勇者たちはこれを「地味だ」と笑ったが、極めれば部屋一つくらい、数秒でリセットできる。
そして――十秒後。
ゴミ屋敷だったその場所は、高級ホテルのスイートルームのように洗練された執務室へと変貌を遂げていた。 黒曜石の床は顔が映るほど磨き上げられ、書類は完璧にファイリングされ、窓からは清々(すがすが)しい風が吹き込んでいる。
その部屋の中央。 ゴミの山が消えたことで、一人の少女がポツンと床に座り込んでいた。
「……え?」
銀髪の少女――魔王は、きょとんとした顔で周囲を見回している。 薄汚れていたジャージ姿も、いつの間にか俺のスキルで洗濯・修復され、新品のように輝いていた。
「な、なにごと……? 私、ゴミに埋もれて死にかけて……あれ? ここ、私の部屋?」
魔王は震える手で、ピカピカになった床を撫でた。 そして、信じられないものを見る目で俺を見上げた。
「お前が……やったのか?」 「はい。あまりに惨い状況でしたので、勝手ながら片付けさせていただきました」
俺が淡々と答えると、魔王の赤い瞳が潤み始めた。
「す、すごい……! すごいぞ貴様! 私はこの部屋の片付け方が分からなくて、三百年くらい悩んでいたのだ! どこから手をつければいいのか分からず、とりあえず見なかったことにして書類を積み上げていたら、いつの間にか遭難していた!」 「三百年も溜め込んだんですか……」 「重要機密書類も、食べかけのポテトチップスも、全部一緒くたになって……もう終わりだと思っていたのに!」
魔王は立ち上がると、俺の手をガシッと握りしめた。 その手は温かく、そして微かに震えていた。
「ありがとう! 本当にありがとう! 礼を言うぞ人間!」 「いえ、これくらいは当然のことです」
魔王のあまりの感謝ぶりに、俺の方が面食らってしまう。 勇者パーティーでは「やって当たり前」「雑用係」と罵られてきた作業だ。 こんなに真っ直ぐな感謝の言葉を聞いたのは、いつ以来だろうか。
『魔王様! ご無事ですか!』
デュラハンが慌てて駆け寄ってくる。
「おお、デュラハンか。見ろ、この輝きを! 無くしたと思っていた『世界征服計画書(改訂版)』も見つかったぞ! あと、三百年前に隠しておいた高級ワインも出てきた!」 『なんと! あれほど探しても見つからなかった伝説のワインが!』
魔王とデュラハンは手を取り合って喜んでいる。 微笑ましい光景だが、ここは人類の敵の本拠地だ。あまり長居はできない。 俺は咳払いをした。
「……ええと、用事は済んだようなので、俺はこれで失礼します」 「は?」
魔王とデュラハンの動きがピタリと止まった。
「失礼するとは、どこへ行くのだ?」 「いえ、俺は通りすがりの元冒険者ですので。森で野宿する場所を探さないと」 「待て待て待て!」
魔王が慌てて俺の前に回り込み、両手を広げて通せんぼをした。
「行くな! いや、行かないでください!」 「魔王様?」 「貴様がいなくなったら、この部屋は三日で元通りだ! いや、一週間でまた私はゴミに埋もれて死ぬ自信がある!」
威張って言うことではない。
「頼む! 我が軍に入れ! 衣食住は保証する! 給金も弾む! 週休二日制だ! 福利厚生も完備している!」 『そうです! 貴殿のような人材をみすみす逃すなどありえん! 我が軍の四天王は脳筋ばかりで、事務処理能力が壊滅的なのです!』
デュラハンまでもが必死に頭を下げてくる。 勇者パーティーでは「クビだ」と言われた俺が、魔王軍ではトップ自らにヘッドハンティングされている。 なんという皮肉だろうか。
だが、悪い話ではない。 行くあてもなく、所持金もない。このまま野垂れ死ぬよりは、魔王城の管理人のほうが遥かにマシだ。 それに何より――この城の惨状を見る限り、俺のスキルを必要とする場所はここ以外にない気がした。
「……分かりました。お世話になります」 「本当か!?」 「はい。ただし、条件があります」
俺は魔王の目を真っ直ぐに見据えて言った。
「俺に、城内の全権限を与えてください。掃除に関しては一切の妥協を許しません。魔王様だろうと四天王だろうと、汚したら許しませんよ?」
魔王はゴクリと喉を鳴らし、それでも力強く頷いた。
「許可する! 貴様を魔王軍第五の幹部、『清掃将軍』に任命する!」
こうして、俺のセカンドライフが始まった。 とりあえずの仕事は、このだらしない美少女魔王の生活指導と、荒れ果てた城のリフォームだ。
一方その頃。 俺を追放した勇者パーティーが、森の中でポーションが見つからずにパニックになっていることなど、知る由もなかった。
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魔王軍幹部、『清掃将軍』アイク。 それが俺の新しい肩書きだ。
就任初日。俺はまず、魔王城の大改革に着手した。 部下となったスケルトン部隊やゴブリン雑用係たちを整列させ、スキルの応用で効率的な清掃手順を叩き込む。 彼らは知能は低いが、命令には忠実だ。何より「骨だから疲れない」「不眠不休で働ける」というブラック企業垂涎の労働力だった。
廊下のヘドロは除去され、窓ガラスは曇り一つなく磨かれ、錆びついていた甲冑たちは油を差されて輝きを取り戻した。 さらに、俺は城内の「導線」も整理した。 無駄に入り組んでいた回廊をショートカットできるように空間を繋ぎ変え、食堂へのアクセスを改善。 魔物たちからは「メシに行くのが早くなった!」「迷子にならなくなった!」と大絶賛された。
そんなある日、玉座の間で定例会議が開かれた。 集まったのは魔王と、四天王たちだ。
「おい新入り。城が綺麗になったのは認めるが、人間風情が幹部とは笑わせるぜ」
そう噛みついてきたのは、炎の四天王ヴォルガスだ。 全身から炎を噴き出している巨漢で、性格も粗暴そのもの。
「俺様は認めねぇぞ! 力こそ正義! 掃除ができるくらいで偉そうにするな!」 「ヴォルガス殿、床に灰が落ちています。掃除したばかりなので控えていただけますか?」 「ああん!? 俺様の炎にケチつけんのかオラァ!」
ヴォルガスが激昂し、巨大な火球を俺に向けて放った。 灼熱の獄炎が迫る。 普通の人間なら消し炭だろう。
だが、俺は眉一つ動かさなかった。
「スキル発動。『分別』」
ヒュンッ! 俺の目の前で、火球が霧散した。 いや、消えたのではない。「熱エネルギー」と「光エネルギー」と「可燃性ガス」に分解され、それぞれが無害な状態で空気中に整頓されたのだ。
「は……? な、俺様の炎が消えた……?」 「攻撃魔法の構造が雑すぎます。魔力の配列がバラバラだから、簡単に分解できるんですよ」
俺は淡々と指摘し、ヴォルガスの足元を指差した。
「それより、あなたの装備、メンテナンス不足ですね。ベルトの留め具が緩んでいますし、ポケットの中身がぐちゃぐちゃです。戦闘中にポーションを取り出そうとして、間違えて毒瓶を掴むタイプでしょう?」 「な、なんでそれを……!?」 「見れば分かります。『整っていないもの』は、俺にとって目立ちすぎるので」
俺は一瞬でヴォルガスの懐に入り込み、彼が腰に下げていたポーチの中身を並べ替えた。 回復薬、解毒薬、予備の魔石。 それらを「戦闘時に最も取り出しやすい配置」へと最適化する。
「これでコンマ二秒は早く動けますよ」 「っ……!?」
ヴォルガスは呆然と自分のポーチを確認し、震える声で言った。 「つ、使いやすい……! なんだこれ、すげぇしっくりくる!」
単純な男で助かった。 他の四天王たちも、同様に俺の「整理整頓」の洗礼を受けた。
氷の四天王には、散らかり放題だった魔法研究室の資料を完璧にファイリングしてやり、涙を流して感謝された。 風の四天王には、羽の手入れと空気抵抗を減らす整髪をしてやり、飛行速度が上がったと喜ばれた。
気付けば、俺は魔王軍の中で絶対的な信頼を勝ち取っていた。 「アイク様に任せれば間違いない」「アイク様がいないと城が回らない」 そんな声が響く中、俺は充実した日々を送っていた。
一方、かつての仲間――勇者パーティーは、地獄を見ていた。
◇
「おい! ポーションはどこだ! 傷薬がないぞ!」
薄暗いダンジョンの片隅で、勇者アルヴィンは叫んでいた。 目の前には巨大なドラゴン。 パーティーは満身創痍だった。
「知らないわよ! アイテムボックスの中がぐちゃぐちゃで、どれがポーションか分からないのよ!」
聖女が悲鳴を上げる。 以前はアイクが色分けして管理していたが、今は腐った食料や汚れた下着と一緒に詰め込まれ、何がどこにあるのか判別不能な状態だった。 焦って取り出した瓶は、なんと強力な接着剤だった。
「ふざけんな! 手がくっついたじゃねえか!」 「うるさいわね! あんたが整理しないからでしょ!」
賢者もまた、パニックに陥っていた。 魔法の触媒が見つからないのだ。
「くそっ、魔石はどこだ……! アイクがいれば一瞬で出してくれたのに……!」
彼らは初めて思い知った。 戦闘中、必要な物資が即座に出てくること。 野営地が常に清潔で、安眠できたこと。 装備が常に万全の状態だったこと。 それら全てが「当たり前」ではなく、アイクという基盤によって支えられていたことを。
失って初めて気づく、整えられた日常の有難み。 だが、もう遅い。 連携の乱れは致命的な隙を生み、ドラゴンの炎が彼らに迫っていた。
「くそぉぉぉぉ! アイク! 戻ってきてくれぇぇぇぇ!!」
勇者の情けない絶叫が、ダンジョンに虚しく響き渡る。 その頃、俺は魔王城のテラスで、魔王と一緒に優雅なティータイムを楽しんでいたのだが。
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「ふふふ、この紅茶は本当に美味しいな」
魔王城のバルコニー。 夕日を眺めながら、魔王様――本名はセレスティアというらしい――が、幸せそうに目を細めた。 テーブルには、完璧な温度で淹れられた紅茶と、俺が焼いたクッキーが綺麗に並べられている。
「アイクが来てから、毎日が楽しいぞ。城は綺麗だし、ご飯は美味しいし、部下たちの士気も上がっている」 「それは何よりです。環境が整えば、心も整いますから」 「うむ。……なあアイク」
セレスティアは少し頬を赤らめ、上目遣いで俺を見た。
「人間界に戻りたいとは、思わないか?」 「思いませんね」
俺は即答した。
「俺の能力を正当に評価してくれて、必要としてくれる場所がここですから。それに……」 「それに?」 「貴女の部屋、油断するとすぐに散らかるじゃないですか。俺がいないと、また三百年分ゴミを溜め込むでしょう?」
俺が苦笑すると、セレスティアは「うっ」と言葉を詰まらせ、それから嬉しそうに笑った。
「そうだな! お前がいなきゃダメなんだ! だから、死ぬまで私の傍で掃除をしてくれ!」 「……ええ、謹んで」
それは実質的なプロポーズにも聞こえたが、鈍感な彼女は気づいていないだろう。 まあ、焦る必要はない。時間はたっぷりある。
その時、城門の方が騒がしくなった。 見下ろすと、ボロボロになった一団が、門番のスケルトンに取り押さえられているのが見えた。 煤と泥にまみれ、装備は半壊し、見る影もなくやつれた三人組。 勇者アルヴィンたちだった。
「あ、アイク! アイクじゃないか!」
アルヴィンが俺を見つけ、涙目で叫んだ。
「探したぞ! 悪かった! 俺たちが悪かったから戻ってきてくれ! お前がいないと何もできないんだ! 給料も三倍……いや十倍出す! だから!」
聖女と賢者も、必死に頭を下げている。 「お願いアイク! もう一度やり直しましょう!」 「君のスキルこそが最強だったんだ! 僕たちが愚かだった!」
その姿を見ても、俺の心は微塵も揺れなかった。 憐れみすら湧かない。 ただ、「汚いな」と思っただけだ。
俺は冷徹に言い放った。
「お引き取りください。俺は今、この魔王城の管理で忙しいんです。あなたたちのような『整理できない人々』に関わっている暇はありません」
そして、隣にいるセレスティアに目配せをした。 彼女はニヤリと笑い、片手を上げた。
「私の大切な部下に手を出すな。――消え失せろ」
魔王の強大な魔力が解放され、突風となって勇者たちを吹き飛ばした。 「うわぁぁぁぁぁ!」という悲鳴と共に、彼らは空の彼方へと消えていく。 キラリと光る星になった彼らが、どこへ落ちるのかは知らない。 ただ、二度と俺の前に現れることはないだろう。
「ふん、せいせいしたな!」
セレスティアが鼻を鳴らし、そして俺に向き直った。 満面の笑みで、手を差し伸べてくる。
「さあアイク、戻ろう。そろそろ夕食の時間だ。今日は何を作ってくれるんだ?」 「そうですね……在庫の食材を整理したいので、特製シチューにしましょうか」 「おお! 楽しみだ!」
俺は彼女の手を取り、美しく整えられた城の中へと歩き出した。
追放された雑用係は、今や魔王軍の最重要人物。 俺の『整理整頓』スキルは、この世界を変える――かもしれない。 少なくとも、この可愛らしい魔王様との幸せな生活だけは、誰にも乱させないつもりだ。




