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第22話 発掘終了

 最終日。


 現場の埋め戻し作業が行われた。

 調査が終われば、遺跡は現状保存のために土で埋め戻される。そして数ヶ月後には、ダムの水底へと沈む。


 もう二度と、日の目を見ることはない。


 重機が唸りを上げ、俺たちが三週間かけて掘り出した土を、無造作に穴へと落としていく。


 あっけない幕切れだ。


 だが、俺たちの手元には、数百枚の図面と、数千点の遺物、そして二人の骨がある。

 情報は保存された。魂は救出された。


「終わったなぁ……」


 内海さんが感慨深げにタバコを吹かす。


「大成果だ。間違いなく今年の学会賞モノだぞ。須藤、牧村、よくやった」


「ありがとうございます」


 俺たちは頭を下げた。

 帰り際、源さんが見送りに来てくれた。

 手には、袋いっぱいのおにぎりと、漬物を持たせてくれた。


「達者でな。わしらの村の恥を、綺麗に洗ってくれてありがとうよ」


 源さんの笑顔は、シワくちゃだったが、とても晴れやかだった。


「源さんも、お元気で」


 村が沈めば、彼らもまた故郷を失う。

 歴史は残酷に塗り替えられていく。けれど、人はそれでも生きていくのだ。


 バスに乗り込む。


 窓の外、遠ざかる廃校と、赤茶色の現場。

 理香はずっと窓の外を見ていた。


「さよなら、ミイちゃん」


 彼女が小さく呟いたのが聞こえた。

 それは三千年前の娘への言葉か、それとも彼女自身の過去への決別か。

 彼女の横顔は、来た時よりもずっと大人びて見えた。


 バスが峠を越える。


 携帯の電波が入るようになり、日常が戻ってくる。

 俺はポケットの中の、小さな土器片を握りしめた。

 ただのゴミだと思っていたものが、今ではかけがえのない物語の欠片に見える。


 俺の夏が終わる。


 いや、ここからが本当の始まりだ。

 東京に戻って、レポートを書き、論文をまとめ、彼らの生きた証を未来へ残す。


 それが、俺たちに残された仕事だ。


「先輩、帰ったら何食べます?」


 理香が明るい声で聞いてきた。


「焼肉だ。死ぬほど肉を食う」


「賛成! あ、でもその前に泥落とさないと。私たち、原始人みたいな匂いしますよ」


「違いない」


 俺たちは笑い合った。

 バスは山道を下り、現代の街へとスピードを上げていく。


 泥だらけの青春と、三千年の愛を乗せて。


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