第14話 消された技術者
俺たちの推理は、一気に加速した。
図書館を出て、俺たちは近くの定食屋に入った。
カツ丼をかき込みながら、得られた情報を整理する。
「整理しよう。異人――仮に『技術者集団』と呼ぶ。彼らはよそから来て、この村に住み着いた。目的は鉱物資源の探査だ」
俺は割り箸で空中に図を描く。
「彼らは見つけた。鉄と、そして水銀朱を。朱は当時、金と同じくらい価値のある戦略物資だ。漆器の顔料にもなるし、薬や防腐剤にもなる」
「あの赤い櫛も、その朱を使って作られた見本品だった?」
「可能性は高い。彼らは技術を持っていて、この村を生産拠点にしようとした。村人も最初は歓迎したはずだ。貧しい村が豊かになるチャンスだからな」
理香がお茶を飲みながら頷く。
「でも、どこかで歯車が狂った」
「ああ。村側が欲を出したんだ。技術者たちへの報酬を惜しんだか、あるいは技術そのものを奪って自分たちだけで利益を独占しようとしたか」
「だから、リーダー格だった大男を捕まえて、足枷をはめて……」
「知識と労働力を搾り取った。そして用済みになったら殺して、死体は『祟り』があると言って封印した。そうすれば、誰もその場所に近づかないし、余計な探索もしないからな」
完璧な隠蔽工作だ。
「鬼」という恐怖のレッテルを貼ることで、被害者を加害者に仕立て上げ、自分たちの罪を正当化した。
そして、その歴史は数百年かけて歪められ、「悲恋の伝説」としてロマンチックに脚色されていったのだ。
「……酷すぎます」
理香が割り箸を折れそうなほど強く握りしめる。
「恩人を奴隷にして、殺して、さらに悪者に仕立て上げるなんて」
「だが、計算が合わない点がある」
俺はカツ丼の最後の一切れを口に運んだ。
「あの『櫛』だ。村人が強欲だったなら、なぜあの高価な櫛を、死体と一緒に埋めた? 売り払えば金になったはずだ」
古文書には『赤き宝を売り払おうとした長が死んだ』とあった。
つまり、櫛以外の在庫は持ち出された。
なのに、あの一本だけは、わざわざ娘と一緒に埋葬された。
「……やっぱり、娘さんの意思じゃないでしょうか」
理香が静かに言った。
「娘さんは、村長の娘だったのかもしれません。父の裏切りを知って、絶望した。だから、せめて彼の形見である櫛を持って、彼と一緒に死ぬことを選んだ。それだけは、誰にも渡さないという抵抗の意思として」
俺は黙り込んだ。
資料だけでは説明がつかない部分。そこに「感情」というピースをはめ込むと、不思議と辻褄が合う。
強欲な村人たちの中で、ただ一人、彼を愛し、彼と共に殉じた女性。
その存在が、この凄惨な事件における唯一の救いであり、同時に最大の悲劇だ。
「内海さんに報告しよう」
俺は席を立った。
「朱の鉱脈があったとすれば、現場周辺の土壌分析で痕跡が出るはずだ。それが証明できれば、この遺跡の評価は一変する」
単なる集落跡ではない。
古代の鉱山都市、あるいは生産プラントの跡地として。
店を出ると、雨は小降りになっていた。
だが、空は鉛色に重く垂れ込め、まるで村の罪を覆い隠そうとしているようだった。
バス停に向かう道すがら、理香がふと足を止めた。
「先輩」
「ん?」
「私、やっぱり許せません。忘れ去られて、歪められたままなんて」
彼女は遠くの山を見上げていた。
「私たちが掘り出して、本当のことを証明してあげなきゃ。彼らが『鬼』なんかじゃなかったってこと」
「ああ。それが俺たちの仕事だ」
俺は答えた。
初めて、理香と同じ熱量で、その言葉を口にできた気がした。
データのためでも、単位のためでもない。
名誉回復という、死者への弔いのために。




