このメールを開いたら、お前は死ぬ
Eメールをあまり使わなくなった今では少なくなったかもしれませんが、
たまにある迷惑メール。
開いたら素敵なことがあるメールなら、嬉しいですが。
そうでないなら…。
朝起きて、トイレに行って、歯を磨く。そして髭を剃って、顔を洗う。スーツに着替えて仕事に出る準備をする。いつもと変わらない朝だ。
いつもと変わらない朝…のはずだった。
スマホにメールの通知が来た。通知バナーを見ると、
『このメールを開いたら、お前は死ぬ』
なんだよ…朝から気持ち悪い迷惑メールだな。開かず消去しようとして、ふと手を止める。
開いたら、どうなるのかな。
少しだけ興味が湧いた。何百万当たりました!とか芸能人の名前のメールだとか、良い内容で釣って開かせるフィッシングメールとかはわかる。こんなネガティブなメール誰も開かないだろう。それともそれを逆手に取った詐欺か。俺はそのメールを、開いた。
──カシャ
写真を撮った時のような音が流れて、スマホの画面中央に何か数字が表示された。
あと 0日 9時間 59分
え。あと、ってなんだ。
『このメールを開いたら、お前は死ぬ』
まさか…ホントにそうなのか?でも、そのバナーカウンター以外に、文章だとか、説明だとかは一切何もかかれていない。それどころか、はじめに来たメールさえ、いつのまにか消えて無くなっていた。
新手のハッカーの嫌がらせウィルスかよ…。
どの操作をしても、画面中央のカウンターは消えない。ちゃんとリアルな時間通り、減っていってるみたいだ。見てしまうから気になるのだ。じゃあ見なければいい。
俺はそのまま仕事に出ることにした。
最寄り駅まで10分ほど歩いて、それから電車に乗る。会社まではおよそ1時間の道のりだ。途中に電車の乗り換えが2回ある。
いつもなら電車に乗りながらネットニュースを見たり、友人のSNSなどを見たりするんだけど、例のバナーのことがあるから、スマホを見るのも嫌だ。
でも…気になる。あー、気になる。カウンターがもし減っていたら。
イタズラだとわかっていても。
あと 0日 9時間 26分
見てしまった。ちゃんと減っていた。これってなんなんだ。イタズラだとしても、何かしらの説明があるだろう。
たとえばなんだ、制限時間内に何かをしたらクリアだとか、これを探し当てることができたら、セーフだとか。何も指示がない以上、どうすることもできない。あ、違う違う。こんなイタズラに惑わされるほうがどうかしてるんだよ。
ほっとけ。どうせ何も起きない。
電車を乗り継ぎ、普通に出社した。俺の勤め先は、あるメーカーの子会社、家電事業の販売会社で、ルート営業をしている。要は雑用係みたいなもんだ。
朝礼をしている時に、スマホが震えた。普段通知は切ってるんだけどな。
朝礼後デスクに着いてから、スマホを見る。
あと 0日 8時間 51分
やはりカウンターはちゃんと減っている。あと、宛先不明のメールが来ていた。
『七つの大罪を克服せよ』
へ?…どういう意味だ。
七つの大罪って映画とかでやってたあれかな…色欲とか傲慢とかのことか?
克服って、そういう欲を出すなってことなのかな。意味がわからない。
「ユタカくん!前に言ってた申請書類まだ未提出なんだけど?」
うわー、ウザ…。あー、ユタカは俺の名前で、俺に話してきてる人は、経理のお姉さんである。いちいち言われなくてもわかってるって。こっちも忙しいんだよ。
カシャ
ん、なんか音がした。まぁいいか。もううるさく言われる前に、外回りに行こう。
ホワイトボードに適当に行き先を書いて、帰社時間を書いて、社用車のキーを取る。
「いってきまーす」
「いってらっしゃい!」
一応俺の勤めている会社では、外に出る時の挨拶が規則になっている。帰りも同じく。まぁ心のこもった挨拶ではなくても、ないよりはあるほうが少しマシな気はする。
社用車に乗って出る前に、同期の奴が外で電話してるのが聞こえた。
「えー、どうしよっかな〜。週末くらいに行っちゃう?うんうん、また連絡してよ。じゃあね〜」
会社の役職としては平社員なんだが、親が本社の重役らしい。んで、金持ちな上に、将来も本社勤務が約束されているらしく、こんな子会社で頑張って働かなくてもいいらしい。というわけで、女の子も寄ってくるし、遊び放題の奴。あー、気に食わない。
カシャ
まただ。なんの音だろうな…。まぁいいや。
社用車を走らせて、顧客の家電量販店をまわり、自社の商品のメンテナンスや、在庫状況、従業員への愛想などをしにいく。
…ふりをして、パチンコに行く。
どうせ、午前中から行っても仕方ないからな。用があったら会社の携帯に連絡がある。だいたいがクレームとか、在庫の緊急発注などだ。
てか…今日は朝からずっと運が悪い。
「くそっ!」
今日の昼メシと夜メシ代を稼ごうと思ったのに、逆に吸われてしまった。あー、ツイてねぇな。
カシャ カシャ
なんだよ、カシャカシャ。どうせこれだろ、スマホ。画面をみてびっくりした。
あと 0日 7時間 45分
え、なんか進み早くね?しかも、またメールが来ている。
『七つの美徳を体現せよ』
え、今度は大罪じゃなくて美徳?これは聞いたことがないな。体現てなんだよ、いいことしろってこと?
パチンコはやめて、外に出てタバコを吸う。タバコ吸いながらさっきの七つのなんとやらを調べてみた。気になったというか、ヒマだったからだ。
なになに、七つの大罪とは、暴食、色欲、傲慢、強欲、憤怒、怠惰、嫉妬のことである。へー、なんかわからんけど、食べるとか嫉妬も罪なんだ。
で…七つの美徳は…。七つの美徳とは、節制、純潔、謙虚、寛容、忍耐、勤勉、感謝のことである。七つの大罪と対になっている…なるほどねぇ…。
で、このメールはどういうことなんだ?
てか、カウント早いのってなに?
と、歩道を綺麗な若い女の子が歩いていた。めちゃめちゃ俺の好み。しかも胸もでかい。あぁ、俺もアイツみたいに会社の重役の息子だったらなぁ…あんな女の子もよりどりみどり…あぁ〜…
カシャ カシャ カシャ
あー、うるさ。なんなんこのスマホ。げ、またカウント減ってる。
あと 0日 7時間 3分
あ、このカシャカシャ言う音がなるたびに、減りが早い気もするよな。
七つの大罪を克服せよ。
七つの美徳を体現せよ。
んー、大罪のどれかをしたらダメってことなのかな?美徳をすると良い?てか、カウントなくなったらほんとに死ぬの?マジくだらねー。
パチンコ屋を出る前に、トイレを借りた。手を洗っていて、鏡を見たら…
!!!
え…俺ってこんなに老けてたっけ?いや、歳はもう35だからそれなりにはいってるんだけど、鏡に映る俺は、すごい白髪が増えていて、それに顔にもシワができていた。
な、なんなんだ、これは…
そして、メールがまた来た。
『大罪×1 マイナス10分 美徳×1 プラス10分』
あと 0日 6時間 58分
ん…大罪がマイナス10分。美徳がプラス10分?これって、カシャカシャ鳴ってたやつか。何回なったかわからんけど、俺知らん間に大罪を犯してたのか?
ま、まぁでもまだ7時間あるだろ。で、美徳…はちょっと思い浮かばないけど、いいことすれば増えるってことだろ?
いいこと続ければ大丈夫ってことじゃん。楽勝だろ。
それより、この姿なんとかしてくれよ…意味がわからん。とりあえず社用車に戻る。落ち着け。落ち着け。おそらくだ、美徳ポイントを稼げば、たぶんこの見た目も戻るはず。もしかしたら、稼ぎまくれば、若返るなんてこともあるかもしれない。二十代の頃に戻ったら、俺も…
カシャ
おい、減らすな!そうだ、美徳、美徳ね。さっき調べたページを出す。んー、見たところ何か動かないと体現できそうなことがないぞ。行動とかの二択で、大罪か美徳か、ってはっきりわかるやつがいいな。ばあちゃんの荷物持ってあげるとかな。
人が多そうな繁華街に出るか。
カシャ
また減った。なんなんだよ、まったく…もしかして仕事してないから、怠惰とか??ちょっと勘弁してくれよ。
なるべく近くの街中で、コインパーキングに車を停める。車の中で美徳は無理だ、たぶん。
車をおりて少し歩いていたら、自転車が近くを通った。ものすごいスピードだから危うく俺に当たるとこだった。
「おいっ!あっ…」
ふと文句を言うのを思いとどまった。憤怒…忍耐…。我慢したら美徳になるんじゃないか…
シャリーン♪
なんか妙なお金ゲットみたいな音がした。スマホを見ると、たぶんだけど、10分増えてる。よしよし。ただ…結局リアルな時間は経っているから、その分カウントはどんどん減っている。え、はじめってどのくらいからだったっけ…10時間だったかな。まだ実際の時間はお昼前くらいなのに、スマホのカウンターの方は6時間を切っている。もし…これがホントなら。今日中に、死ぬ?
意味がわからんだろ。
なんで俺が。
何も悪いことしてないのに。死ぬなら、もっと悪いやついくらでもいるだろ。
カシャ
また減った。心で思うだけでもダメなのか。てか、欲のない人間なんていないだろ。善行ばかり施すやつなんているのか。
何がしたいんだ。
あと 0日 5時間 42分
待てよ。落ち着け。逆に何もしないほうが、いいかもしれない。今の感じだと、心で思っていることもカウントされる。
美徳に関連あることを思い浮かべれば…。
もっかい美徳を見る。
あぁ、毎日こうやって生きてることができてありがとう。毎日ごはんを食べることができて嬉しい。俺はもう何も望まない。いい女もいらない。お金もそんなにいらない。毎日きちんと真面目に働く。あぁ、そして、そして…
無理に決まってるだろ!!
ただ、何もなく、生きてるだけで幸せなわけないだろ!
美味しいもんも食べたい!
いい女も抱きたい!
金もできたらたくさん欲しい!
仕事もあまりしたくない!
あぁ、そして、そして、広い綺麗なタワマンに住んで…
女はべらせて…
あぁ…そうだ!
カシャ カシャ カシャ カシャ
カシャ カシャ カシャ カシャ
あと 0日 3時間 19分
はぁ…はぁ…
なんか。息が少し苦しくなってきてる。それに身体も重い。なんか変な咳も出る。
あ、車だ。こんな身体でまともに歩けない。
ん、なんか足元に落ちたぞ…
「きゃあ〜〜!!」
女の悲鳴が聞こえる。足元に落ちたなんか白い欠片を拾う。あぁ、俺の歯か。
もうなんか口の中もスカスカだな。
あぁ、だるい。体がだるい。
もう何もしたくない。
カシャ カシャ
もういい。てか、腹減ったぞ、なんか食わせろ…
カシャ
どうせ死ぬんだろ。せめて死ぬ前にいい思いさせてくれよ。
カシャ カシャ
車で横になって、いつのまにか寝てしまっていた。
スマホを見ると、いくつかメールがきていた。
『10時間=100年』
『今までの生き方を悔い改めよ』
『生きていること自体が罪だと知れ』
あと 0日 1時間 28分
なんだ…もうよく見えないし、何のことを言ってるかもわからない。
生き方?
罪?
もうどうでもいい…
カシャ
結局、罪を犯さず生きること自体、無理なんだろ…
あぁ、なんだか頭もぼんやりしてきたな。
はらもへってきて
あぁ…
あと 0日 0時間 56分
『お前の現在の体年齢は91歳だ』
あぁ、そうなの…
へぇ…
まぁいいや…
お腹すいたなぁ…
カシャ
あと 0日 0時間 43分
あぁ、なんかうるさいな…
でも、死ぬのって、わりと
そんな苦しくないんだな…
◇ ◇ ◇ ◇
「くそつまんねぇ!なんなんこのゲーム!」
中古のゲームショップでワゴンセールで100円だったから買ってみたけど、何も面白くない。ていうか金返せ。
まぁ、暇つぶしにはなったか。
ちょうど腹も減ってきたし、誰か誘って飲みにいくか。
自分のデスクの上で充電していた、スマホを取る。
ん、メールが来てる、なんだろ…。
『このメールを開いたら…』




