第6話 出会いと役割
こんにちは、msnoです。
第六話では、いよいよ 悠花と刹那の出会い を描きました。
高校に入学したばかりの二人が、軽音部の部室で初めて顔を合わせ、ギターとベースというそれぞれの役割を決めていく物語です。
まだ「浅黄さん」「白鷺さん」と苗字で呼び合う距離感ですが、この小さな一歩が後のAmetiaraへと繋がる大切な始まりになります。
新しい制服のスカートがまだぎこちなく感じる。
高校一年、春。カナダから帰国して迎えた新しい日々。
教室の後ろから聞こえる声に、つい耳を傾けてしまった。
「ねえ、あの子だよ。碧山凛子の娘」
「ほんと? ピアノの……すごいね」
視線の先には、眼鏡越しに紫の瞳をのぞかせる女の子。
緑の髪が肩にさらりと流れ、背筋を伸ばして座っていた。――碧山紫苑。
その隣にいた黒髪ショートの子が、突然机を叩いて言った。
「みな同じクラスになったのは運命……否、運命ではなく宿命だ!」
クラスが一瞬静まる。
「ともちゃん! やめてよ、初日から!」
ツッコミを入れたのは、黒に近い紫のセミロングをハーフアップにした子。
紫苑はそんな二人を見て、小さく笑った。
「ふふ……でも、いいと思うわ」
自然に笑い合う三人を見て、私は胸が少しざわついた。――私には、まだこんな安心できる居場所はない。
放課後。勇気を出して軽音部の扉を開ける。
「失礼します、新入生です。見学いいですか?」
中には三年生らしい先輩が二人いた。
「お、いらっしゃい。新入生か。……お、二人一緒?」
振り返ると、私と同じ制服を着た銀髪の子が立っていた。すっとした立ち姿、青い瞳。彼女もギターケースを持っている。
「白鷺刹那です。見学に」
「浅黄悠花です。ギターをやります」
先輩の一人がドラムスティックを指で回しながら笑った。
「俺は三年の加隈、ドラム担当。こっちは部長の関根、ギターをやっとる」
「関根だ。よろしくな」
――関根先輩はギター。私も刹那さんもギター。
つまり今ここにいるのは、ギター三人とドラム一人。
「……ギター三人か。うーん」
加隈先輩が苦笑する。
初めての音合わせ
「ま、せっかくだし音出してみろよ」
関根先輩が笑って私と白鷺さんにギターを渡す。
緊張しながらも弦を弾く。白鷺さんもコードを刻む。
最初は噛み合わず、音がぶつかった。
「すみません、走っちゃって」
「わたしも強く出すぎましたね」
二人で苦笑いしながらもう一度。今度は少し噛み合った。
重なった音はまだ拙いけれど、確かに音楽になっていた。
関根先輩が腕を組む。
「うん、二人とも悪くないな。ただ、ポジション考えないと。ギター三人じゃ回らない」
私は心の中で兄との約束を思い出していた。
――ギターで前に立つ。あのときの誓いだけは譲れない。
「……わたし、ギターだけは譲れません」
思わず強い声になった。
白鷺さんは少しだけ目を細めた。
沈黙のあと、低く落ち着いた声で言う。
「そうですか。……なら、わたしはベースを担当します」
加隈先輩が頷いた。
「助かるわ。ベースはバンドの心臓やからな。白鷺、期待しとるで」
「ええ。任せてください」
刹那さんは潔く答えた。でもその瞳の奥に、一瞬だけ影が差した気がした。
部室を出ると、夕暮れの光が校舎の廊下を照らしていた。
一緒に下駄箱まで歩く。
「あの……白鷺さん。ベースにするって、迷いなかったですか?」
気になって、つい口にしていた。
白鷺さんは少し歩みを止め、窓の外を見た。
「……昔、一緒に演奏していたドラムの子がいて。そのときは、わたしがベースをやってたんです」
言葉はぼやかされていた。でも、どこか寂しそうだった。
「今はギターをメインにしてきました。でも……浅黄さんのギターを見て、わたしは支えるほうが合っていると感じました」
そう言って、刹那さんは小さく笑った。
夕日がその横顔を照らして、私の胸に熱が広がる。
(この人となら、きっとやれる)
偶然の出会い。でも、それは運命――いや、宿命に近い。
ギターとベース。それぞれの役割が決まった瞬間、私たちの物語は動き出したのだ。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
今回のエピソードは、悠花の「ギターだけは譲れない」という強い想いと、刹那が「支える役割」を引き受ける決断を描きました。
二人の心にはまだ距離があり、互いを探りながらの関係ですが、ここで生まれた絆がやがて強いバンドの礎になっていきます。
次回、第七話では文化祭の準備を通してクラスメイトの紫苑、ともちゃん、ゆきちゃんが本格的に絡んできます。
悠花と刹那の関係も、少しずつ深まっていきますので楽しみにしていてください!