表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

 魔素を遮断した牢屋というのは人間用の牢屋であり、魔族からするとありえない苦痛な場所なのだそうだ。


 魔族は魔素から栄養を得る事ができ、濃い魔力溜まりからは魔物が生まれ育ったりもする。


 魔素のない牢屋に魔族が入れられ続けると途端に力が半減してしまったり、弱い個体だとエネルギー不足に陥り消滅してしまうモノもいるそうで恐れられている場所である。


 今、その魔素のない牢屋の中には魔族領の森の中で保護した聖女と勇者のパーティの一部が入っている。


 目の前に突然現れた魔人に3人は全く対応出来ずに直ぐにこの牢屋に運ばれてしまったのだ。


 「ちょっと!!なんで私がこんな場所に入れられないといけないのよ!!」

 と叫んでいるのは銀髪紫の瞳の見た目可憐なアリス姫だった。


 (パッケージよりも可愛いわね・・・パッケージは正直ライラに力を入れ過ぎてエレアもあの子も結構雑に描かれていたからかしら・・・)

 悪役サイドには力を入れていないのは一目瞭然といったところでエレアも本ルートの悪役令嬢だったが雑なパッケージデザインの1人だった。


 エレアはそんな事を思いながら相手からは見えない場所から勇者のパーティを見ていた。


 正直アリス姫のアレはないと思う。


 リザルドの王太子ルートは知ってはいるけれどエレアの知っているアリス姫はこんなアリス姫ではない。

 もっと深層の姫君でそれでいて陰湿な嫌がらせをライラに仕掛けていて、最終的に修道院に送られるのだけど、目の前のアリス姫はどうしてこんな風に元気で口が悪くて攻撃的なのだろうか。


 勇者として連れてこられた者はどう見てもエレア達と同じ10代後半の若者だった。

 アリス姫の側でしょんぼりしているが、それよりももっと落ち込んでいる魔術師風の服装をした20代前半の男性は・・・牢屋の中で小さくなっている。

 勇者と魔術師はパーティには必要だが見たことのないキャラなので、ライラのほんわかスローライフでは主要ではない人達なのだろう。


 何で私がと叫んでいるアリス姫は、ライラがリザルドに行くのであれば王宮の中で待ち構えていなければならないゲームを進める上で今は必要なキャラなのに、何故こんなところにいるのだろう。

 とても薄汚れていて何日も着ている服を着替える事も出来なかったのだろう。

 元はとても高価そうに見える服装なのはアリス姫として討伐パーティに参加していたから身分としては当たり前の服装なのだろうけれど、もしリザルドが魔王討伐パーティを作るのであれば、王太子と聖女ライラにリザルド王国お抱えの魔術師団の精鋭とリザルドの騎士が加わるはず。

 もちろん王太子が勇者という立場でのパーティとなり、魔王を倒した後は氷の貴公子と呼ばれている王太子から、リザルドの山に降り積もっている雪が全て溶けるような熱い抱擁と愛の言葉が囁かれ、笑顔のライラのスチルがあったはず・・・


 だとしたらこのパーティは何なのだろう?



 「ねぇ、ライラとは会ったの?」


 しばらくこの勇者パーティを保護すると聞いて、それならばとエレアは思い切って近寄って訊ねると、アリス姫は初めてエレアに目を向けて驚いたように声を出した。

 「えっ!貴女は人間よね?どうして魔族の中にいるの?」


 魔族の中でも魔人ともなれば人に似た様相を取ることが出来るけれど、魔人は人を圧する覇気があり、魔の気配に敏感な者が見れば近づきたくないオーラを放っている。

 髪色も殆どの魔人は漆黒といえる艶やかな髪色をしているが、極稀に鮮やかな色を纏う者もいたりする。


 ドレス類も魔族領産の素材から僅かに魔素の残りが染み出ているし、敏感な者からすれば嫌な感じのする物で、正体を詮索されないよう出来る限り魔人に似せているつもりだったエレアはアリス姫に一目で人間だと見破られてしまったのだ。

 少しイメージとは違っていたがアリス姫本人で間違いない。

 アリス姫には公にされてはいないがリザルド王国で一番多い聖魔力がありその聖魔力をエレア同様にライラに奪われる為に存在している。

 どういう経緯で魔族領で魔王討伐パーティに参加していたのか知らないが、パーティを連れて魔属領の奥まで来れるほどの実力があるという証拠だ。


 ゲームの中ではアリス姫の陰湿な嫌がらせのほうにばかり注目されていたが・・・

 今、リザルド王国ルートを進み始めたライラはアリス姫から聖魔力を奪う為にリザルド王国に向かう予定なのに。


 そんなアリス姫を先に保護することが出来たのは良かったが・・・


 「私はサムル王国の者なのだけど、わけあってこちらで保護してもらっているの。サムル王国の聖女ライラがそちらの国を訪れるって聞いていたのだけど」

 「あぁ、そのライラって聖女のせいで私は王妃からここに送られたのよ」

 「えっ?王妃様が?」


 ゲームの中ではあまり登場することのないリザルド王国の王妃はアリスの異母兄であるアーサー王太子の実母だ。

 アリス姫は母親が元々は筆頭聖女として活躍していた男爵令嬢で、国王が一目惚れして側妃として召し上げられたのだ。


 (アリス姫の母親はゲーム上ではすでに亡くなっていて、母親と同じ聖魔力を持つアリス姫は病弱なために王宮の奥深くで何不自由なく静かに暮らしていたはずなんだけど・・・)

 

 「あの性悪婆が自分の息子可愛さに私達を魔属領に送り込んだのよ。リザルド王国の魔王討伐パーティとして聖女である異母妹の私が魔王討伐に向かい魔族に殺されて、それから兄であるアーサーが異母妹を殺された事で聖女ライラと共に勇者としてパーティを組んで魔王討伐に向かうって流れみたいよ」

 「そんなことって・・・」

 

 確かにリザルド王国の魔王討伐イベントではリザルドの王太子と聖女ライラがパーティを作り魔王討伐に向かうが、その前にアリス姫を送り込むなんてあり得ない。

 それだと討伐前のライラの聖魔力が魔王討伐に必要な力まで満たされていないので討伐なんて出来ないはず。


 「性悪婆は厄介者を始末できるチャンスだったのよ。魔王討伐の勇者ってアーサー兄様に箔も付けれるし、私がいるといつまでも結婚出来ないから王宮から追い出したかったのよ。王妃への嫌がらせでずっとアーサー兄様の婚約者候補に嫌がらせをしていたから近々来るっていうサムル王国の聖女との間を邪魔されるって思ったんでしょうね。もちろん邪魔するつもりだったけれど」


 そこはゲームの設定と同じ流れだってちょっと安心したが、アリス姫が大好きな兄を取られるっていう理由でライラに嫌がらせをしていたのとはかなり内容が違っていた。


 「アリス姫って深層の姫君って聞いていたのだけど・・・」

 エレアはアリス姫の様を見てつい呟いてしまった。


 「どうして貴女が他国の事を知っているの?リザルドでも私は公に出させてもらえないわよ。病弱だとかいろいろ理由づけて王宮から出してもらえてないんだけど」

 

 (建前上はやっぱり病弱ってことなのね)


 ゲームの中のアリス姫は病弱とは思えない程の嫌がらせパワー全開だったから病弱という肩書はどうかと思っていたが、心の底からの嫌がらせをブラコンと勘違いされていたのだ。

 兄妹間で仲が悪いとなると体裁が悪いので優秀な兄を慕う妹という流れにリザルドでは変換させていたようだった。


 アリス姫の王妃への憎しみを見ると側妃憎けりゃ娘も憎いで幼い頃からアリス姫に対して嫌がらせをしなければアリス姫が応戦して王妃の息子への嫌がらせを行うこともなかった気がする。

 

 「私はサムル王国の王太子の元婚約者だった者です。他国の王族の事はそれなりに学んではいたのでアリス姫の事も知っていました」

 私の言葉に少し考える風な表情をしたアリス姫だが何かを思い出したのか目を見開いた。


 「なるほど!貴女はサムル王国の王太子の婚約者だったのね!聖女ライラが王太子の元婚約者が魔族に寝返って魔王と共に行動しているからって吹聴してるけど、本当に魔族になっちゃったの?」

 「いえ、私は命を狙われているので魔王様が保護してくださっているだけで、サムル王国に仇なすつもりはありません」


 聖女ライラは私を殺す口実に私が魔王様の元で魔族と共に行動しているという話を広めているのだろう。


 「命を狙われるってどういうこと?貴女って生粋の高位貴族に生まれたんでしょ?王太子の婚約者になれるってことならゆくゆくは王妃だったわけじゃない。なのに殺されるって何なの?」

 「聖女ライラがサムル王国の王妃になるのであれば私は邪魔者なので・・・」


 「それってどういうこと?聖女ライラはリザルドの王太子妃になるんじゃないの?」

 

 「すでにサムル王国の王太子の婚約者ですが」


 「婚約破棄してリザルドの王太子の婚約者になるってあの性悪王妃が言ってたわよ」


 「それは・・・」


 リザルドの王太子ルートを選ぶならリザルドの王太子妃になるけれど、すでにサムル王国ルートをほぼ攻略しているので恐らくハーレムルートでリザルドの王太子を攻略に来るだけだろう。

 サムル王国では大聖女候補と呼ばれているライラの来国の為にアリス姫は魔族討伐という理由を付けて魔族領に放り出されたのだ。


 この後に聖女ライラと共に魔族討伐パーティを組むメンバーだと心当たりがある。

 リザルドの最強の魔術師と騎士を連れて討伐に来るだろう。


 だからアリス姫が連れているパーティの顔ぶれに心当たりがなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ