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 「聖女様に依頼されたんだよ!!」


 男は魔属領でいえば徒歩2日の辺りの森の中で迷っている所を魔族の兵士により捕らえられた。


 よくもまあ魔属領の森の中で命があったものだと感心してしまうことだったが、たまに幸運が続いて命を失うことなく徒歩2日目辺りまで進める者でもこの先は急に強い魔物が増えていくのでこの男もいつの間にか命を落としていただろう。


 この魔物の強さが変わってくる地帯で捕らえられたのは男にとっては幸運だったのだが、男のほうはそうとは思っていない様子だった。

 

 こういう幸運な者は魔族に保護された後に人間用洞窟牢屋へと投獄している。


 これは魔属領に幾つか設置している牢獄で天然の洞窟等を利用していた。

 魔族に捕まってしまったという恐怖感を自然と抱かせる雰囲気があり、その中に投獄された者は命の危険を感じることが出来る風合いだ。

 このやけに身綺麗な農民風の男はやはりというか、サムル王国から密偵として魔属領に寄越された男で、サムル王国側に敷かれた結界を破ることが出来ないので別の国から魔属領へと入国したらしく、それにしては衣服が疲れた感じもないのでそこそこ身分のある者ではないか?と皆が怪しんだ通り男の職業は貴族籍の騎士だった。


 聖女ライラに有益な情報を持ち帰ってくれれば聖騎士の身分にしてあげると言われ単身で魔族領に入って来たのだ。

 他の者に頼み幾人かでパーティを組み魔族領に入るほうが生きて戻る確率が格段に上がるのだが、この男は偵察した後に得られる褒美を誰とも共有したくなく1人で入ることを選んだようだ。


 聖騎士という職業はそれほど簡単に就ける職業ではないのだが、ライラにとっては自分の手足となり動ける人間を聖騎士として今後周辺い置くつもりなのだろう。

 ここの所、やけに森の魔物の動きが活発になっていると魔族の中で噂になっていたが恐らくライラが幾人かの騎士に同じような言葉を使い魔族領に送り込んでいたのだろう。

 捕らえられたのはこの男だけだったので何人がライラの甘言に乗り森に入ったのかは確認することは出来なかったが。


 この男のように貴族の生まれだと衣服に関しての知識が欠落してしまうのか、農民に扮するという発想はよかったがわざわざ農民風の衣服を仕立てるという辺りにお坊ちゃん感が溢れてしまっている。


 まさか自分が捕らわれるなんて思ってもみなかったのか、年若そうな男は命乞いのために自白剤の必要がないほどベラベラと魔属領に入るまでを話してくれたが、ここまで話すのは逆にこちらを油断させる罠なのかもしれませんね。と現魔王の側近のアランが疑いの目を向けている。


 取り調べをしている魔人もこの男の命乞いっぷりに若干引いてしまっている程に聖騎士の称号に釣られた男は醜態を見せていた。


 偵察に行って情報収集すれば聖騎士の地位を与えてあげる等というライラの発言も驚きだが、聖騎士は本来教会が任命するものであり、ライラに任命権はないはずだ。

 ライラの中では聖騎士は自分の気分で指名出来ると勘違いしているのだろうか。



 魔族側としては逆にあちらの情報を得ることが出来るから有益な贈り物をもらったようなものである。


 取り調べを担当している魔族の兵士によると、聖騎士になれるほど優秀ではなさそうだけど、人の中ではまぁ・・・そこそこ強い騎士らしい。

 この森に入ることが出来るという事はそういうことで、その強さから自分の実力に自惚れを持ってしまい聖女の最も近くに侍ることの出来る聖騎士という地位に自分がなれるとでも思ったのだろう。


 ゲームの世界ではマーカスという聖騎士がライラを護るキャラとして登場するが、このマーカスに出会うにはいくつかのイベントをクリアしないといけない。


 この捕らえられているサムル王国の騎士はマーカスという名前ではないし、聖騎士マーカスはライラがスイーツ系スローライフではない道を選択しなければ出会えないキャラだ。

 ライラが今目指している王太子ルートではは出会えていないだろう。


 洞窟牢屋の岩肌の一部は反対側からは中が透けて見えて、でも相手にはこちら側が見ることが出来ない仕様になっているので、このやり取りをエレア達が見ていることは相手側は知らず、見ず知らずの人の口からエレアの悪口が・・・まぁ出るわ出るわでサムル王国ではエレアは魔王の配下になっているという話が出回っていて、サムル王国に恨みを持つエレア公爵令嬢、今の通り名は闇堕ちの魔女というちょっと恥ずかしい名前で呼ばれている。


 そんな話を聞いてエレアの頬は恥ずかしくて赤くなってしまった。


 男がベラベラと話している事はもちろん真実ではないし、そんな話が出回っている・・・も若干違うのだ。

 ライラの側近達がそのような噂話を何度となく広めようとしてはいるものの効果がなく、ほとんどの人が気にしていないのだ。


 まず、魔族側からサムル側への侵略がないので国民が魔族に対しての危機意識がないことが大きい。

 国民にとって自分達の生活基盤を脅かす存在かどうかが問題であり、王太子の元の婚約者が・・・という話は面白おかしくは聞くがだからといって自分達には関係のない元婚約者だ。

 元になったということはこの先のサムル王国の王族になる者でもないのだからエレアの事よりも明日のパンの値段の方が重要なのだ。


 サムル王国はジリジリと物価が上がっているのでエレアの事などどうでもいい話なのだ。


 もちろんライラにとっては明日のパンよりも自分の聖魔力なのでエレアをいかに利用するかが大事なのだろう。


 『闇堕ちの魔女』



 ゲームがライラのための進行だからか悪役として存在するエレアに対してはインパクトのある名前を与えたかったのだろう。

 この通り名は何とかして欲しいと心の中でエレアは恥ずかしく思っていた。

 前回も恐らくこの通り名で呼ばれていたのだろうが、そんなサムル王国の事など知らずに命を落としたので自分が人の敵として置かれていたなども今になり知ることになったのだ。


 そういえばゲームの中でもチラッとそんな風にエレアが扱われていた気がするが、すぐにライラに倒される前半で消えるキャラだった為にエレアも呼び名をうっかり忘れていたのだ。



 「エレア様、この男はどの辺に捨てて来ましょうか?」

 魔族の兵士がエレアに訊ねた。


 今すぐにサムル王国に帰すわけにはいかないし、少しの間この洞窟牢屋に閉じ込めておくしかないだろう。

 魔属領の魔素は中心になれば成程強くなり、この男が聖騎士を目指すほど強かったとしても数日で体が蝕まれてゆくのだ。



 魔属領の中の濃い魔素を取り込めば取り込む程魔物は強くなれるが、魔素の中には闇の魔力と光の魔力が絡み合うように含まれていて、弱い魔物などはこの含まれている光の魔力を体が受け付けることが出来ず魔力を沢山体内に取り込めないのだ。


 強い魔人は魔素の中に含まれている光の魔力を体内に取り入れたとしても、それをある程度の時間をかけて排出する事が出来るので魔素を多くを摂取することが出来る。


 エレアの場合は人間なので魔族のように魔素の中の闇の魔力を力として求める事はないし、闇の魔力に体が弱るほど蝕まれることはなく、しかしそれ自体は体には必要のない物なので少しずつ体の外へと排出するか、魔石に闇の魔力のみを抽出して出すことになる。

 光の魔力は元々エレアの中にある物なので受け入れる土台があり、取り込むうちに少しずつ聖魔力の力が強くなっている気はしたが、もう聖女として働くつもりもないのでそれを喜ばしいとも思えない。

 懸念している事として聖魔力の強くなったエレアをライラが狙うことだけだ。


 エレアが必要のない闇の魔力を詰めた魔石は魔族の中では非常に価値の高い物になるので魔力をかなり失ってしまった魔王に渡している。


 小さくなってしまった魔王に少しでも闇の魔力を吸収してもらい、早く元の大きさの体に戻ってもらいたい一心で渡しているのだが、魔王は人間の食べ物に興味を持ってしまい、そちらのほうを好んでしまうのでそれだと魔属領で採れた物とは違い魔素がほとんど含まれていない食べ物になる。

 ならばサプリのように飲むことはないけれど手のひらに魔石を置いて吸収してもらえればいいとせっせと魔石に詰めていた。


 それ以外にも魔族の幼い子供などが体調を崩した場合にもこの闇の魔力が込められた魔石を使えば体調が回復するので非常に重宝されている。


 魔族の子供をあまり見かけないのは幼い頃は魔力も安定せず外敵攻撃にも弱いので、成人することなく亡くなる場合も多くあり、命の危険がないように魔属領の中心部に隠しているのだ。

 魔属領は中心に行くほど魔物も強いモノが多く、魔素も強いので危険だと思われる場所だがその昔、周辺国が魔人の子供を攫って奴隷にしていた時代もあり、子供を護るためにあえて人の踏み入れない中心地で産み育てるようになったとエレアは聞いた。


 子供を養育する地域には強い魔素が届かぬようその時代の魔王が魔素を和らげる結界を張り巡らせ、強い魔物が住み着かぬように魔王が目を光らせている。

 そしてその保護区の前に魔王城を建立し、成人するまで護っている。

 魔人は人よりもはるかに長い寿命を持っているが、気まぐれに行動する者が多く、長い寿命の中で1度か2度出産する程度で、1度も番を設けることなく寿命を終える者も少なくはない。

 そのため魔人の子供は希少であり、血の繋がりが無くても子供が育つまでの間は他の魔人も養い親のようにあれこれと世話を焼くシステムが出来ている。


 エレアも魔王様の養い子と呼ばれるようになると魔人達もエレアをすんなりと受け入れ、その後闇の魔石を作り出すことが出来るとなると魔族の恩人として大切にされていた。

 エレアからすれば必要のないモノを魔石に詰めて処分しようとしていただけなのだが。

 

 この男を何処に捨てればいいのか?


 結界の張っているサムルとの境界線に置き捨てると何かしら理由をつけてまた魔族が悪いようにライラが利用するかもしれないので入って来た場所に戻すのが一番いいだろう。


 「じゃあ、サムル王国以外の魔属領との境界線でお願いします」


 エレアがそう告げると魔族の兵士が早速男を人の国側に捨てに行く準備を始めてくれた。

 騎士とはいえ魔力耐性のレベルでは刻一刻と命を削る場合もあるので魔族側も要らないモノはさっさと処分しておきたいのだ。




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