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あら?ここは知っている場所じゃない?


 目覚めたばかりだと少しぼんやりしている感じだが、エレアはここは魔王城と呼ばれている人が生きて出ることが出来ないと言われている場所だと知っていた。


 

 以前もここで生活していた記憶があったからであるが、自分が亡くなったはずなのでまさか自分が生きているなんてと驚いてしまった。

 今ここで目覚めたばかりのエレアは魔属領の隣にあるサムル王国の公爵令嬢として王太子妃教育を受けていた。

 エレアは何の瑕疵なく公爵令嬢として、王太子の婚約者として厳しい王太子妃教育を受けていが、サムル王国の王都に突然現れた聖女ライラと王太子の運命の恋に巻き込まれる形で全てを失い、最後には不本意な形で亡くなってしまったのだ。


 王太子の婚約者としての立場を失う過程では周囲がエレアが悪として決めつけ誤解に誤解を重ねるように無実の罪が積み重なり、魔族に寝返った希代の悪女『闇堕ちの魔女』としてエレアは討伐されたはず。


 そのエレアが魔族の王の住む城で寝ていたのだから悪夢だったのかと不思議な気持ちになってしまった。

 否、全てが夢であれば公爵家の自室のベッドでの目覚めであろうから、魔王城の自室で目覚めたのであれば自分の元婚約者とその新たな婚約者によって自分が殺されたという悪夢を見たという事なのか。




 「エレア大丈夫?」


 小さな声がする方をエレアが振り向くと幼いながらに整った容姿の幼児が心配そうにこちらを見ていた。

 魔王城で共に過ごした魔王様をそのまま小さくしたような幼児は目元にある小さなホクロまで魔王様と同じ位置だ。



  これは・・・魔王様だわ


 確かに自分を庇護してくれた魔王だと理解出来るが、あまりにも小さすぎる。


 「魔王様・・・これは・・・?」

 

 亡くなったはずの自分が生きていて、成人だった魔王が小さくなっているのなら自分の死が何らか魔王に影響があったとしか考えられない。


 「エレアが大変な事になったから戻したんだ」


 子供の姿になると話し方も少し幼くなるのか魔王は少し上目遣いにこちらを見ている。


 「わっ私が大変な事になったからって魔王様がこんなお姿になるなんて!!」

 「それは大丈夫だよ、だって時間は2ヶ月しか戻してないから元の姿に戻るのだって100年もあれば魔力が溜まるよ。エレアは私の養い子だし私が護ると約束したよね」


  100年もあればって・・・100年後の私なんて生きてはいない年月なのに・・・

 

 時空の歪みを起こせるほどの強大な力をエレアを庇護した魔王と呼ばれる者は持っていたのだ。

 魔属領に追いやられたエレアを庇護してくれた魔王は魔王城に迎え入れる時にはエレアを自分の養い子として魔族達に紹介された。

 当代の魔王は各地の珍しい生き物を魔王城に集めていて、人も魔王城で飼うのか程度に魔族達はエレアを受け入れてくれた。

 養い子という呼び名は魔王がペットとして可愛がっている虹色鳥や魔大地亀といった会話の出来ない生き物よりはエレアが意思疎通が出来るから養女に近い存在として養い子と呼ばれていたのだ。


 それぞれの生き物に適した生育環境を与えられエレアは魔王城に1室を与えれれ衣食住を世話してもらっていたのだ。

 エレアからすればその境遇に同情され魔王城に引き取られただけの自分に対して、魔王が持つ魔力をそれほどまで削ぐ秘儀を使う価値があるとは思えなかったが、そのまま消えて無くなる運命だった自分に対してこの世に戻れるよう時空を歪ませ命を引き戻してくれたのだ。


 多くの物を失ったエレアだったが失っただけではなかったということなのだ。


 聖女に陥れられた後のエレアの人生は悲惨だった。

 王国中が聖女を害そうとしたとエレアを非難し、実の両親さえもエレアの存在をいない者として除籍した。

 

 どうしてこんな目に遭ってしまったのだろうと我が身に降りかかる苦難を嘆きながら亡くなったが、魔王様の時を戻す力はあまりにも強力過ぎて、1つ前のエレアの中に眠る別の記憶までも巻き戻してしまったようだ。


 

 この世界は「聖女ライラのほんわかスローライフ」という名前だけは穏やかそうなタイトルのゲームの世界に似ている。

 似ていると気付いたのはそのゲームのキャラクターの容姿や名前、出てくる国の名前までも同じなのだからエレアの中にある記憶と照らし合わせればゲームの世界に自分がエレアとして生きているとしか思えない。

 

 聖女ライラは聖女に目覚めてから小さなエリアでスローライフを送りながら様々な理由でライラの住む場所を訪ねて来る攻略キャラとクエストしながら恋愛も楽しむゲームで、女子ウケを考えたのか強引な展開を詰め込んだことで一部では「くそゲー」という評価ももらっているゲームだ。

 その理由はほんわかという割には例えば王太子ルートを選択すると魔族の所有する領地を浄化しながら奪う事も出来たりするし、大商人の息子ルートを選択すると商会を発展させるために工場を建ててフルに稼働させる土地を得るためにやっぱり魔族の土地を奪って浄化して工場を建てたりするのだ。


 とにかくライラを手に入れれば豊かになるということは決まっているし、ライラが王太子を選択した場合には王太子の婚約者は用済みとなってしまう。


 エレアが魔族の地に行くきっかけは王太子クエストの魔族の土地にしか育たない薬草採りのクエストで、聖女ライラとその薬草の数を競うが負けた方が魔物に食べられてしまうという内容。

 もちろんゲームなのだからうっかりライラが食べられても次のライフを消費して勝つまで続けることが出来るし、ゲーム自体は簡単なものなのでライラが勝つことが容易にできる。


 問題はこのゲームで負けたエレアが魔族化して魔王軍の傘下となり、サムル王国に闇堕ちの魔女エレアとして襲い掛かるというくそゲーの名に恥じない展開で、王太子と聖女ライラは二人で力を会わせて魔族となったエレアを倒し、エレアの聖魔力を引き継いだライラはパワーアップし魔属領を攻め落とし土地を奪い、ゆくゆくはサムル王国の王妃となり王城の広い中庭で畑を作りハッピーエンドになるのだ。


 魔族化したエレアの中に聖魔力があるって時点でいろいろ設定はおかしいが、それはゲームの中でライラをパワーアップさせるクエストだから強引にそうしたのだろう。

 


 公爵家を除籍された後にエレアは修道院へと送られて、聖女見習い達含む修道女達とで魔属領に薬草を摘みに行くことになる


 修道女がそんな危険な行為を普段からするはずはないが、修道長からの命令に逆らえない聖女見習い達は全員強制で連れて行かれ、名前はわからないけれど襲って来た魔物の毒霧にエレアは倒れてしまったのだ。


 その後倒れているエレアを魔族が見つけて魔王に報告し強い魔素中毒にかかっているエレアを魔王は保護することになった。

 ゲームのクエストではエレアは食べられた後に魔物の体内で魔族に変身してサムル王国への復讐を誓うという展開になるが、魔物に食べられた者が魔族になるなんてあり得ず、エレア達を襲った魔物は肉食系ではなく魔属領の草食系魔物でエレアを食べるつもりなんてなかった。


 ただ魔物の縄張りにある薬草をエレア達が採取していたので威嚇のために毒霧を出したのだ。


 魔王に庇護され魔王城で暮らし始めたエレアを討伐するというゲームの流れのような強引な展開で魔属領に攻め入って来た王太子と聖女に、魔族に保護してもらっているという事情を説明しようとエレアが前戦に迎え出た所を討ち取られてしまった。


 


 前世の記憶を思い出したがこのゲームが別段好きってわけではなく、スローライフ系のゲームを探していて何となく始めたゲーム程度だった。


 突然現れた聖女がエレアを断罪し始めた時、何故誰も自分の話を聞いてくれず聖女の話ばかりを正しいと決めつけるのか。

 何度も枕を濡らし涙を流し続けたが、周りが突然敵だらけになり、周囲から何て性格の悪い悪女だと言われ、優しかった父母からも見捨てられた理由がゲームのシナリオへの強制力だったのだろう。

 どんなに否定しても聖女ライラに都合の良い展開へと不思議と周りが解釈していくのだ。


 ゲームのシナリオだから自分がどんなに無実を訴えても誰も聞いてくれるはずがなかったのだと知ると胸の内のもやもやとした気持ちがほんの少しだけ取れた気がした。

 自分が悪いわけではなかったのだ。

 努力すれば誰かが気付いてくれるとか、そもそもそんな次元ではなかったのだ。



 エレアは寝台から降りて小さな魔王の元へと傅いた。

 自分の中にある聖魔力を狙い聖女ライラはまた必ず魔族領を訪れるだろう。


 私が討ち取られれば聖女ライラは巨大な聖魔力を得て魔属領を奪いに来るわ。それを絶対に阻止しないと。


 エレアはゲームのシナリオを出来る限り思い出す事にした。

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