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第1話 : キツネ目の女

 むかしむかし、

 ある日本では妖魔がのさばり人を食らっていた時代が存在する。

 人々は妖魔を退治するため妖魔狩りを発足、

 以来妖魔狩りは妖魔と戦う侍として認知されていった。


 この記録はある妖魔狩りの女と彼女が持つ妖刀にまつわる記録である。


             ・・・報告書・・・

           次元XXX - 次元歴YYY - 日本

           遺物No.487372 - 「白狐稲荷(びゃっこいなり)

 日没の刻、赤い夕陽が澄んだ空を真っ赤に染め上げている。

 山は夕陽に負けじと紅いに染まり落ち葉も目立つ中、

 猟銃を抱えた漢二人が一心不乱に駆けているのが見えた。


「銀二!、急げ急げ!あいつに追いつかれへんぞ!」

「親っさん!あの化け物はまだ前走ってるんか?」

「ああ、俺の目はまだやつを捉えとる。」


 親っさんと呼ばれた漢が目を細めた先に、

 人影が一つ木々の間をものすごい速さで跳び移動している。


「銀二、いつでも撃てるようにしとけよ!」


 銀二は走りながら猟銃の薬室に弾が入っていることを確認する。

 親っさんは人影から目をちらりとも離さず、

 高低差のある山道を速度を落とすことなく駆けている。


「親っさん止まれ!熊や、目の前!」


 人影に向けていた鋭い眼光をすばやく目の前の熊に向け止まったと同時に

 低くしゃがみ、両手に持つ猟銃を構えピタりと静止させる。

(熊との距離18m)


「くそっ...しゃあないか」


 小さくつぶやいたその後ろで、追いついた銀二も同じように構える。


 二人に気づいた熊はこちらを睨みつけている。


 ぐおおおぉ・・・


 人を警戒し殺気立っているが迂闊に攻撃してくるわけでもない。

 変に動いて刺激するよりこのまま熊が離れるのを待つことが得策であることを、

 二人は本能で理解した。


 しばらく膠着状態が続き人が何もしてこないことを悟ると、

 熊は向きを変え歩き始める。


「ふぅ...」


 猟師達は引き金に掛けていた指の力を緩めるものの、

 姿勢を維持したまま警戒は解かずゆっくり後ずさりを始める。


 その時


 『うおぉーーん!』


 不気味な声が森に響いた次の瞬間、

 どこからともなく現れた人影が無防備な熊に襲い掛かる。


「なんや!?」

「銀二、構えろ!!」


 現れた人影の正体は、老婆の姿をした小鬼であった。


「間違いない、こいつが山姥(やまんば)や!」

「親っさん、どうする?二人だけでやれるんか?」


 山姥に襲われた熊は必死に抵抗しようと

 あたりに激しく突進し暴れ狂っている。


「親っさん!」


 親っさんは集中して狙いを定めようとするが、

 山姥は熊にしがみついていて思うように狙いが定まらない。


「くそっ!銀二、一旦撤退して報告や!」


 熟練の猟師達は自分の力量を理解している。

 山姥は人よりも遥かに身体能力が高く、

 熊にも見境いなく襲いかかる。

 二人がかりで仕留めるのは難しく、

 失敗すれば二人とも死ぬことはまず間違いない。


 銀二は親っさんの指示に頷き、来た道を全速力で走る。


「銀二!後ろや!後ろ!」


 後ろの方で走っていた親っさんの声が届く。


(はっ...!)


 慣れないことで逃げることに必死になり、

 後ろの警戒を緩めてしまった銀二。

 振り返ると山姥のしがみつく熊が狂乱状態で突進してきているではないか。

 しかも尋常じゃなく速い。

 熊の馬鹿力というやつか。


(おいつかれる!)


「うぉっ!」


 親っさんが突進してきた熊をかろうじてかわす。


「親っさん!」

「銀二!止まるな!」


 どうしていいかわからずパニックになった銀二は足を止めて、

 親っさんに声をかけてしまう。

 やばい!そう思ったと同時に強い衝撃が全身を走る。

 吹き飛ばされ四肢はずきずきと痛み、

 まともに声も上げられない。


「銀二ーーっ!!」


 ぶつかった熊はその場で止まりしばらく悶えた後、

 山姥に喉をかみちぎられ絶命した。


 『あひゃひゃひゃ...うひっっひゃひゃ』


 口を血で真っ赤に染めた山姥が不気味な笑みを浮かべながら、

 銀二へとゆっくり近づいていく。


「ちくしょう、化け物め」


 親っさんは猟銃を山姥に向けるが、

 山姥は有効射程の外にいる。

 そうこうしているうちに

 山姥は銀二の目の前まで来てしまった。


「このやろう!おい!こっちにこい!ばかやろう!」


 必死に山姥を挑発するが山姥は見向きもしない。


「ははは...」


 銀二は痛みに耐えながら死を悟る。


 ・・・すると、どこからともなく現れた女が

 親っさんの背後から静かに声をかける。


「親っさんとやら...よく見つけてくれた......」

「お、お前さんは...」


 女は親っさんの肩にぽんと手を置くと、

 山姥と銀二のいる方向へ体を向け仁王立ちする。

 腰に下げている刀を抜くため鞘に手をかけると

 特徴的なキツネ目を閉じ、

 深く深呼吸をするとカッと目を見開く。

 すると先ほどまでの優しげな雰囲気は消え

 空間が歪むがのごとき殺気を放つ。


 山姥がその殺気に気付きハッと振り返ると、

 その目にはゆっくりと鞘から刀を抜く女の姿が映っている。


 女が刀を中段に構えると殺気が一段と強くなる。

「............死ね......」


 親っさんは邪魔をすまいと女から後ずさりして距離をとり、

 その殺気に息をのむ。


 女がゆっくりと山姥に近づいていくと

 山姥は怯えわななき尻もちをついた。


 『あ、あぎゃ...あぎゃ』


 山姥と女の距離がじりじりと近づいていく。

 怖気づき立ち上がれない山姥は小賢しいことに銀二をつかみ

 首元に鋭い爪を食い込ませる。

 脅しというわけだろう。

 それを見た女は歩みを止める。


 『ぎゃへへ、ぎゃああはは』


 山姥は勝ち誇ったように笑みを浮かべ

 銀二を盾にしながら女に威嚇する。


 女のキツネ目がさらに鋭くなる。


 その刹那、落ち葉が舞い神速の一振りが山姥と銀二を捉える。

 

 ザシュ!!!


 銀二ごと断ち切ったはずの刀の軌跡に残るのは

 首がはねられた山姥の体躯のみであった。


 しばらくの沈黙の後、

 親っさんが銀二と女に駆け寄る。


「銀二、大丈夫か!あんた今、銀二も切ったような気したんやが」

「そう......切った......でも妖刀だから...」


 女を見ると先ほどの羅刹のような形相は消え、

 優しく静かな声を発している。


「......妖刀は...妖魔しか切れない......」

「そうか、やっぱりお前さんが妖魔狩りの」

「そう............私は妖魔狩り...八重よ......」


 雪のように白い刃が鈍く光ったと同時に、

 死んだ山姥は灰となり空に消えていった。


 "白狐稲荷(びゃっこいなり)"

 これこそまさに伝説の妖刀である。

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