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■火の巻 離別のエピローグ

 水母の外で迎える朝はどこからともなく日の出がやってくる。


 それを人々は東の方角より日出ると表現する。


 暗闇に包まれた世界を一条の光が射しこみ世界を映しだす。


 このような世界であっても戦いは起こる。


「グラード・エリオス、確認するぜ。ここで降参なんてのはまさか言わないよな?」

 ハクトは挑発的な口調で問う。


『安心したまえ。私もこれ以上、この世界に長居するつもりもない。私は逃げも隠れもしないよ。この私の乗機であるゼルベルドと一四機のグルクオルファがお相手しよう』

 つまり投降の意思はなく、最後まで戦うと宣言したということだ。


「安心したぜ。憂さ晴らしはさせてもらうからな!」

『――きたまえ』


 それが開戦の合図だった。

「ルディ、お前があいつとの決着をつけてきやがれ。進路は作ってやる」


 一瞬だけルディは口を開くもすぐに閉じて短く返事をする。

『了解した』


「ホノエ、アズミ、異論はないよな?」

『いいだろう。私も嶺玄武は久しぶりだからな』

 アズミが返答する。


『こちらも問題ない』

 ホノエが焔朱雀の速度をあげて前に出る。

 進路を塞ぐように向かってくる一機に対して背中の小さい斧を投げつけるも躱される。しかし、ホノエはその軌道を読んで槍斧を振りおろして一刀両断にする。

 

 一方で嶺玄武が別の機体を串刺しにして戦闘不能にしていた。

(となると……)


 あとはハクトの動きだ。

 白雫虎は目の前の敵機に金柑をぶつけて、怯んだところを一気に距離を詰めて短剣の山茶花で切り裂く。


 これでエリオスまでの進路はできた。

「行け、ルディ。決着をつけてきやがれ!」

 ハクトが叫ぶ。

 蒼天龍はエリオスのほうへまっすぐ向かうのであった。


   ――◇◇◇――


 エリオスとルディの間に導線が結ばれる。

『きたまえ、ルディくん。私も本気でいかせてもらう』


 エリオスの機体には巨大なスラスターが取りつけられている。

「試してみろ。次も俺たちが勝つ」


『私は接近戦で相手を切り刻むことに重きを置いているんだ』


 エリオスが「ふふふ」と不敵に笑いながら、蒼天龍に向けてアンカーを飛ばすのを体を捻りながら前進しながらかいくぐる。


 さらに鉄扇――旋風を広げた状態で投げつける。鉄扇は攻撃のためかと思いきや、目の前を通りすぎるだけであった。

『私は戦士として生をまっとうしようと考えている。戦いの中で死ぬのは本望なのさ』


「テロリズムは本意でなかったとでも言うつもりか?」

『あれは役目を果たしたにすぎないよ。依頼されれば、やぶさかではないというのが雇われということだろう?』


 しかし、その間に蒼天龍は距離を詰める。その右手にはいつの間にか剣――霞が握られていた。


 霞の一閃を後ろに退かれてかわされる。すると視界を遮るようにして鉄扇が仰がれる。するとその片手に霞はなく鉄扇が握られている。


(何だ、これは?)とエリオスは混乱したことだろう。まるで手品を見せられているようだった。その戸惑いは隙となる。


 斬撃は縦横無尽に絶え間なく加えられる。鉄扇で視界を遮りながら、時に間合いの違う霞の一撃が見舞われる。


『すべては何をしたのかではない。どう死ぬのか、さ』

「その自己満足のために貴様は虐殺をしたというのか?」


『先ほども言っただろう。私は仕事をまっとうしたにすぎないと。虐殺なんてのは結局の所ね、相手に対して何にも感じないからできることなのさ。つまり状況を望んだのはあの男一人さ。なのに自分が総合意志であると思いこんでいる。何とも愚かだとは思わないかい?』


 傍から見れば蒼天龍は踊っているように見えたことだろう。エリオスの機体が右腕を振りあげようとしたときに気がつけば腕が切り落とされていた。


 そこから蒼天龍の攻撃は畳みかけるようだった。そこら中を切り刻まれて、最後は機体を霞で横一文字に両断される。


『私の負けだ。だが、これでようやく――』

 ゼルベルドは胴が切り離されると同時に光の粒子となってクエタの海に溶けていく。


 ルディが知るかぎりでこれがエリオスから最後に聞いた声であった。


   ――◇◇◇――


 私はグラード・エリオス。この世界に顕現させられた者だ。


 私は誰かに創造された存在らしい。


 創作の人物なのだという。


 私は要するに悪を為すことを前提として作られた物語の一登場人物なのだ。


 虐殺をする自分も戦場に出て戦う自分もすべて設定された絵空事。


 私の行為はすべて娯楽だということだ。


 刺激的な展開がお望みだという。物語とは誰かが不幸になって、あるいは誰かが死ぬ。


 その展開をより面白く描けば褒めてもらえるのだという。


 それは私からすれば異常な世界だ。


 戦い傷つくことを憎むとしながら、やっていることはその真逆ではないか。


 創作では私のような人間を生み出し悪事を強要させる。


 誰かの不幸を望み、死を積み重ねることを望んでいる。


 私は寒気が奔った。


 すべては自分の意志――行いであるとずっと思っていたからだ。


 こんなことが許されようか。いや、許されるはずがない。


 だからこそ悪を為すことを私に強要する存在――望む存在を許してはならない。


「ソウジ・ガレイくん、私の最後の贈り物だ」


 ――旧人類(ホモ・サピエンス)よ!


 その存在が滅んでも尚、永久に苦しみ続けるがいい!


 エリオスは感情が霧散していく気がした。そして一瞬だけガレイと同調する。


 ふと何かが聞こえた気がしたガレイは椅子に座ったまま顔をあげる。


 我ながら名演説だった。これで民意をさらに引きつけられるだろう。


 しかし、そんなことにはならなかった。


 自らに疑念の感情がまわりから押し寄せる。


 ――どういうことだ?


 その出所はとある音声からだ。


『くくっ……。はははっ! 馬鹿な奴め! 死に損ないを庇って皇子が死ぬとはな! すべては計画通りではないか! 四国の王も! 皇子も! 邪魔な奴はみんな死んだ!』


 紛れもないガレイの声だった。


「違う。これは陰謀だ。そうに違いない。私がこんな残酷なことをするはずがないだろう。私は慈悲深く、この惨劇を誰よりも嘆いている。五カ国会議から奇跡の生還を遂げたソウジ・ガレイなのだぞ」


『閣下、これはどういうことですかな?』

 小憎いアイト・トウキから通信が入ってくる。


「これは私を貶めようとする陰謀だ」

『そういことでしたら一刻も早く首謀者を突き止めねばなりませんな。……ところで五カ国会議の襲撃事件の件なのですが、その首謀者と思しき人物が襲撃時に使用とした自動人形の指示内容が公開されているのはご存じですか?』


 寝耳に水であった。

「ほ、ほう。それはどういった内容であったのかな?」

『ガレイ閣下には銃口を向けないよう指示がなされていたようなのです。これですとたしかに閣下が無傷であったのも頷けます。ああ、申し訳ない。これも閣下を貶める陰謀の類いでありましょう。原因の究明を急ぎませんと。それでは私はこれで』


 トウキからの通信が切れる。


 ――エリオスに謀られた?


 ガレイは狂ったように雄叫びをあげる。


 それから足元にあったプラスチック製のゴミ箱を蹴飛ばし、何度も何度も踏みつける。それこそ壊れても執拗に何度も踏みつけた。


「ちくしょう! ちくしょう! どいつも! こいつも! 俺をコケにしやがってぇ!」

 その目には涙がたまっていく。


「俺はソウジ・ガレイなんだぞーっ!」


 そこは狭い室内。ひどく狭い世界の中でガレイは誰にも聞いてもらえない――それでも大声で叫ぶのであった。


 その後、この一連の事件はこう呼ばれる。


 ――『ガレイの虐殺』と。


   ――◇◇◇――


 ――目が覚めるとそこは玉座だった。やはり自分にはこの場所こそが相応しいと感じる。

「お疲れではないですか、閣下?」


「ふふっ。どうだろうね。ただ、妙な夢を見ていた」

 男は不敵に笑う。


「どのような夢だったのですか?」

 どう答えるべきかと逡巡したあとに口が開く。


「私を従わせようとする愚か者の夢だよ」

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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