■挑戦状
『はじめまして、私はグラード・エリオス。クラシノ邸の襲撃を計画した主犯であると思っていただいて結構です』
もってまわった言いまわしである。計画はしたが、指示は自分でないとこちらに意図して情報を流しているようである。実際、指示を出したのはソウジ・ガレイなのは違いない。
「それで? そのエリオスがわざわざ通信をしてきたのには理由があるのでしょう」
レイアが切り返す。
『もちろん。宣戦布告です。こちらはそちらで言う三艦隊から展開する三部大隊を展開します。お互い派手にやろうではありませんか』
「奇襲をした割には正面からの開戦なのね」
『何かを企んでいると思っているなら、それはそれで結構。こちらは明日の夜明けとともにターベに対して総攻撃を仕掛けます。逃げだすもよし。戦うもよし。お好きなほうをどうぞ』
誰も黙したまま答えない。
『それでは戦場でお目にかかりましょう』
エリオスからの通信が切れる。
「――というわけだけど」
レイアはマコナに視線を向けて意見を促す。
「戦いましょう。相手はテロリスト。逃げ出す理由がありません」
それにこちらの士気は十分に高いと付け足す。
「テロリストから宣戦布告か……。」
クワトは苦笑いを浮かべる。
「それでどうする?」
レイアはクワトに対して「あなたがそれを聞くの?」とばかり怪訝な表情を浮かべる。
「包囲戦法には針を一差しが有効――つまり一点に対して正面突破」
「君の得意戦術だったな。その後は?」
クワトは不敵に笑って顎に手を当てる。
「天神はアークリフへ向かうわ。他の艦は自分の国へ戻るルートを」
「分散するのだな」
「ええ。いまは力を蓄えるときよ。国が乱れては戦いを継続できない」
三人は頷きあう。
「徹底的にやるわよ。私たちは負けていないことを知らしめてやらないとね」
――◇◇◇――
「嶺玄武いけそうか?」
ハクトがアズミに声をかける。
ターベの港にて各艦に資材が運ばれているところだ。つまり出立は間もなくということだ。
「心配してくれるのか?」
アズミは口の端を吊りあげる。
「……あんた、嫌な奴だな」
テントの中でパイロットは待機することになっている。だが、いまはハクトとアズミだけだ。
「もし、我々のリーダーを任せるとしたらハクトくんだろうな。それに反対する者はおそらくいないはずだ」
「もちあげるじゃねぇか」
「そんなことはない。至って正常な意見のはずだ」
「どうだか」とハクトはため息をつく。
「あんたといい他の連中もよく戦えるよな」
「それは君もだと思うがな。それに敵が迫ってきているのだ。そうも言っていられん。まずはこの場を切り抜けねばな」
ハクトが頷く。
「降りかかる火の粉は振り払わないといけないのはわかるぜ」
「二人とも早いな」
ホノエであった。
「お前のほうこそ大丈夫かよ?」
「貴様の声を聞けばいても立ってもいられん」
ホノエは薄い笑みを浮かべる。傷は深いなとハクトは察する。
「そういやルディは?」
「それならシンク副長に呼ばれていた。新武器のレクチャーだそうだ」
「このタイミングで新兵器かよ……」
大丈夫か? 不安げな表情を浮かべる。
「どういう装備か聞いたか?」
アズミが訊ねる。
「剣だと言っていたな」
「カナヒラに剣か」
アズミは目を細めるのであった。
――◇◇◇――
「――説明は以上だ。使いこなせそうか?」
シンクからの問いにルディが頷く。
「名称は霞――でよかったな。問題ないだろう」
刃の部分は流体金属になっており、時に軍配の姿に変えるという。
「カナヒラに剣を与えるなというのは迷信の類いなのか?」
「いや、事実だ。殺意が高すぎると昨今の戦場では禁忌となっていた」
「カナヒラの一族が剣を持っている姿がないのはそれが理由か?」
ルディは黙って頷く。
「そうだ。未だに破られたことのない必勝の戦法だ」
ルディは静かにそう言い放った。
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