■戦のきざはし
蒼天龍の下でひとしきり泣いたユミリはゆっくりと顔をあげる。
「お姉ちゃん、行くね。またお姉ちゃんに会いたいから」
――そのために自分は生きなくては。
「もう誰も死なせへん」
その足取りはキリのいるほうへ向かうのであった。
――◇◇◇――
ホノエはところどころ破壊されたクラシノ邸を外から呆然と眺めていた。
「お互い、無事で何よりだったな」
背後から頬に絆創膏をつけたハクトが声をかけてくる。
「本当にそう思うか?」
ホノエの疑問にハクトは訊ね返す。
「どういうことだよ?」
「殺す人間を選別していたというより殺さない人間を選別していた形跡がある。実際、私はほぼ無傷だった」
「どういう基準だったんだ?」
「そこまではわからん。まあ、少なくともソウジ・ガレイ閣下の意志とは関係なさそうではあるな」
その名を聞いてハクトの機嫌があからさまに悪くなる。
「ったく、胸くそ悪い演説だったぜ」
「まあ、どの口がとは思うところだな」
五カ国会議で告発されそうだったソウジ・ガレイがやけくそになったとしか思えない展開だったからだ。だが、人死にがここまで出ていることは計算通りだったようには思えない。
これは歴史に残るような虐殺事件であるからだ。そこに自分が関わったという一端が示されるのはソウジ家としてどうなのだろうか。
「だがよ。このままじゃあ終われねぇ」
「うむ。その通りだ」
ホノエは力強く頷く。
「お二人ともご無事そうで何よりです」
マコナであった。
「艦長殿、ホノエならびにハクトはこの通り無事であります」
ホノエが敬礼をするのにハクトはため息を一つついて遅れてだが横に習う。
「いまは軍務ではありませんから、敬礼は結構ですよ」
ふふと笑いながらマコナは二人の敬礼を解かせる。
「じゃあ、どうしてここにきたんだ?」
「皆さんが心配でしたのできちゃいました」
ハクトに対してちろりとマコナは舌を出して答える。
「これから、どんな動きになるんだ?」
「おそらく、そんなのんきなことは言っていられないと思いますよ」
「どういうことです?」
ハクトとホノエが互いに顔を見合わせマコナに訊ねる。
「ターベに所属不明の部隊が展開されつつあります。ターベに駐在している軍艦は天神、紀ノ、藤古の三艦とそれに所属する人機のみ。一角獣は中破。月輝読は機動鎧の破損が深刻で戦闘は困難。現在動ける繰者は四人。よって戦闘可能な人機は四機のみです」
状況をさらりと説明される。
「敵がどんな奴なのかがわからねえと不利有利はわかんねえな」
それを聞いても二人の戦意が下がるようなことはなかったことにマコナは安堵する。
「マコナ艦長、俺たちはこのままじゃ終われねぇ。人機戦だっていうんなら何が何でも勝ってやる」
「ならば私もできるかぎり知恵を出しましょう」
一同は頷きあうのであった。
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