表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/86

■サヨナラ

 陽は完全に沈む中、スズカを抱きかかえたルディは蒼天龍がいるほうへ向かっていた。

「……ルディ、ごめんね」


「俺もお前を守れなかった……」

「気にすることないわ。あなたの助けになれたから」


「だから満足とでも言うのか?」

 するとルディの服を掴む力がこもる。

「……ううん。ちっとも満足じゃない。もっとルディと一緒にいたかった」


 スズカの力ない声がこぼれる。それはもう叶わない。ルディも、スズカも理解していた。

 ルディの足が止まる。目の前には片膝立ちしている蒼天龍の姿があった。


「セナさんをいたわってあげてね」

「……わかっている」


 スズカの周辺から金色の明かりが舞う。

「きっとまた会えるわ」


 スズカは満面の笑顔を浮かべている。これはルディを安心させるため優しい嘘だった。本当は辛くて悲しくして仕方がない。それを隠すための笑顔だった。


「だから、また恋をしましょう――」

 スズカはやがて金色へとなり、蒼天龍のまわりをふわふわ漂って、やがては吸収されていく。


 ルディはただ蒼天龍を無表情で仰ぎ見るだけであった。


   ――◇◇◇――


 戦況について、ニィナの一角獣は中破。月輝読は機動鎧(ブーストアーマー)が損壊し、パイロットであるティユイは死亡認定された。


 五カ国会議にて襲撃されたクラシノ邸では甚大な被害を被った。五カ国会議に出席していた国王たちは殺害されて、警護についていた者たちも軒並み殺害された。


 この事件に際してソウジ・ガレイは緊急に会見を開き、この痛ましい悲劇を許しては鳴らないと熱弁を奮った。


 クラシノ邸には野外病院が急遽建設されそこで一命を取り留めた者も多くいる。セナもその一人だ。


「セナ……」

 ルディはどう声をかけていいかわからなかった。


「スズカ様のことは聞きました。残念でなりません。ユミリ王女には?」

 ――伝えたのか? とセナは訊ねる。

「ああ、いまは蒼天龍のところにいる」

 きっとそこで泣いていることだろう。


 セナの右腕は存在しない。左手で震えるルディの左手を握る。

「セナのほうこそ、右手を失ってしまって……。すまない。俺はまた何も守れなかった」

 懺悔ともとれる言葉にセナは静かに首を横に振る。


「あなたと私の大事なものは守れました」

 セナは自分のお腹を撫でる。


「まだ希望は潰えていません。私たちはまだ戦えます」

「……君は強いな」

 ルディは弱々しい笑顔を浮かべる。


「強きも弱きもありましょうか。どんな状況であっても明日は必ずやってきます。だからこそ挫けぬように、あなたを支えるために私たちがいるのですから」

「ありがとう、セナ。君の言葉、たしかに受け取った」


 面会はそれで終わりとなった。セナはこれから軍の病院へ移送されることになっているからだ。

 ルディが病院から出るとアズミが立っていた。


「すまない。セナを守るどころか守られてしまった」

「気付けば体が動いていたと言っていた。もし、あなたがセナをかばったままであれば、あなたは確実に死んでいた。だが、結果的にあなたは生き残り、自分は右腕を失うだけですんだと」


 兄には生きていて欲しいと、それがセナの切なる願いであった。

「私はセナやスズカ様の思いに応えねばな」


 ルディは黙ったまま頷く。

「許されるのであれば嶺玄武には私が乗ろう。また襲撃があるかもしれん」


「そうだな」

「ルディくん、改めて君には妹を――セナを任せたい。幸せにしてやってほしい」


 アズミが振り向き、深々と頭を下げる。

「私はそのために何でもやるつもりでいる」

「あなたの決意は伝わったよ。セナは俺が守り抜いてみせる」


 アズミは覚悟を促すよう首をゆっくりと縦に振ると右手を差しだし、ルディもそれに応えるのであった。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

感想、評価、お気に入り登録も今後の励みになりますので、ぜひお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ