■スズカ、その別れ
ニィナは呆然としたまま目を覚まさないキリを抱きかかえていた。
「姉さん……、姉さん」
先ほどからうわごとのようにもういない姉を呼ぶ。すると不意に背後から声をかけられる。
「ニィナさん、無事だったのね」
スズカであった。ルディも横に控えている。
「まだ、安全は確保されたわけではないのよ。ティユイ皇女が出撃したと聞いていたけど、どちらに?」
ニィナは言葉が出てこず、月輝読の方を指さす。そこには誰も乗っていないコックピットがあるだけだ。
「姉さんは私を守るためにヒズル様と戦って、コックピットが降りてきたらキリだけがいたんです」
「そんな……」
スズカが絶句する。それの意味することは一つだからだ。
「キリは無事なのか?」
ルディの問いにニィナは何とか頷く。
「息はあります。だけど、目を覚まさなくて。どうしたらいいのか――」
――わからない。そんな一言が頭をよぎる。
「救護班の手配をしましょう」
――立てる? とスズカはニィナに優しく声をかける。
「屋敷の方は混乱が続いている。すぐは厳しいかもしれない」
おそらく基地の方から救護が出ているはずだ。連絡はついたからとりあえず待つしかなかった。
その状況下で――。
「それは好都合だ。この場で皇子は死んでもらう」
その声にルディは覚えがあった。
「貴様、エリオスか」
「自動人形だけどね。私が遠隔で操作している」
自動人形の銃口がキリに向けられる。
「詰めが甘いと言われないように仕込んでいたのさ」
引き金を引くと同時に銃弾が放たれる。ニィナも反応しきれない。このままではキリに当たってしまう。
しかし銃弾が当たったのはスズカであった。キリとニィナを庇ったのだ。
「スズカ!」
ルディは抜刀して自動人形を切り伏せる。
「しくじったか……。ま、仕方ないね」
自動人形はそれで何も言わなくなる。ルディは自動人形が動かなくなるのを確認するとスズカに駆けよる。
「無事か?」
「当たり所が悪かったかも……」
スズカは苦悶の表情を浮かべながら胸のあたりを抑えている。しかしそれでは流血を抑えられない。
「あ、あ……、私――」
ニィナはこの現状に混乱をきたしていた。
「あなたは気にしないで。私がやったことよ……」
ルディは近くに待機させていた軍用車を呼びだし、ニィナの手を借りて後方の荷台にキリとスズカを寝かせる。
スズカは止血をする必要があった。ニィナは救護セットを取りだしてくる。
「……たぶん助からないでしょうね」
「弱気なことを言うな」
スズカは事実を言ったつもりなのだろう。淡々とした口調であった。
「私は皇子の命を繋いだ。それだけよ」
スズカの息は荒い。
「ルディ、お願いがあるの。私はあなたと共にありたい。私を蒼天龍に捧げて」
――ごめんなさい。こんなことしかできなくて。
それだけを伝えるとスズカの意識は深く沈んでいく。ルディは想いのかぎりスズカの名を叫んだ。
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