表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/86

■スズカ、その別れ

 ニィナは呆然としたまま目を覚まさないキリを抱きかかえていた。

「姉さん……、姉さん」


 先ほどからうわごとのようにもういない姉を呼ぶ。すると不意に背後から声をかけられる。

「ニィナさん、無事だったのね」

 スズカであった。ルディも横に控えている。


「まだ、安全は確保されたわけではないのよ。ティユイ皇女が出撃したと聞いていたけど、どちらに?」

 ニィナは言葉が出てこず、月輝読の方を指さす。そこには誰も乗っていないコックピットがあるだけだ。


「姉さんは私を守るためにヒズル様と戦って、コックピットが降りてきたらキリだけがいたんです」

「そんな……」

 スズカが絶句する。それの意味することは一つだからだ。


「キリは無事なのか?」

 ルディの問いにニィナは何とか頷く。

「息はあります。だけど、目を覚まさなくて。どうしたらいいのか――」

 ――わからない。そんな一言が頭をよぎる。


「救護班の手配をしましょう」

 ――立てる? とスズカはニィナに優しく声をかける。

「屋敷の方は混乱が続いている。すぐは厳しいかもしれない」


 おそらく基地の方から救護が出ているはずだ。連絡はついたからとりあえず待つしかなかった。

 その状況下で――。


「それは好都合だ。この場で皇子は死んでもらう」

 その声にルディは覚えがあった。


「貴様、エリオスか」

「自動人形だけどね。私が遠隔で操作している」


 自動人形の銃口がキリに向けられる。

「詰めが甘いと言われないように仕込んでいたのさ」


 引き金を引くと同時に銃弾が放たれる。ニィナも反応しきれない。このままではキリに当たってしまう。


 しかし銃弾が当たったのはスズカであった。キリとニィナを庇ったのだ。

「スズカ!」


 ルディは抜刀して自動人形を切り伏せる。

「しくじったか……。ま、仕方ないね」


 自動人形はそれで何も言わなくなる。ルディは自動人形が動かなくなるのを確認するとスズカに駆けよる。


「無事か?」

「当たり所が悪かったかも……」

 スズカは苦悶の表情を浮かべながら胸のあたりを抑えている。しかしそれでは流血を抑えられない。


「あ、あ……、私――」

 ニィナはこの現状に混乱をきたしていた。


「あなたは気にしないで。私がやったことよ……」

 ルディは近くに待機させていた軍用車を呼びだし、ニィナの手を借りて後方の荷台にキリとスズカを寝かせる。


 スズカは止血をする必要があった。ニィナは救護セットを取りだしてくる。

「……たぶん助からないでしょうね」

「弱気なことを言うな」


 スズカは事実を言ったつもりなのだろう。淡々とした口調であった。

「私は皇子の命を繋いだ。それだけよ」


 スズカの息は荒い。

「ルディ、お願いがあるの。私はあなたと共にありたい。私を蒼天龍に捧げて」

 ――ごめんなさい。こんなことしかできなくて。


 それだけを伝えるとスズカの意識は深く沈んでいく。ルディは想いのかぎりスズカの名を叫んだ。


お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

感想、評価、お気に入り登録も今後の励みになりますので、ぜひお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ