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■五カ国会議がはじまる

   ――未来――


 アズミが港から海を眺めていた。潮風が頬に吹きつけてくるので思わず目をつむる。

「今日は風が強いですね」


 声をかけてきたのはホノエであった。左手のマグカップを持っていて湯気がのぼっている。右手にも同様のマグカップを持っておりアズミに向けて差しだしてくる。


「すまない」

 そう言いながらアズミは受け取る。

「自分でも情けないことです。あれから自身の行動を思い返して後悔ばかりしている。もう少しやりようがあったのではとね」


「君は妹を亡くしたのだな」

 ホノエは無言で頷く。


「私も同じだ。覚悟が足りなかったと今更ながら反省をしている」

「……キリがないというのにね」

「まったくだ」


 二人は自嘲気味に笑いあった。


   ――過去――


 冬の寒さが近づきつつある中で優しい陽光が降り注ぐ昼の最中。

 御所の建礼門(けんれいもん)前はそれなりの人通りがある。


 由衣が歩く後ろを桐はそわそわした様子でついてくる。どうして横を歩こうとしないのかは由衣が聞きたいくらいだった。

 しかも二人は周辺の通行人に比べて身長が高く、嫌でも人目を惹いた。それについて二人が気にした様子はなさそうにある。


「式条君、どうかしたんですか? 様子が変ですよ」

「い、いやぁ、その……」

 桐はあたふたとしながら言葉を出そうか引っこめまいか、迷っているというよりは言いだせないというほうが正解かもしれない。


 由衣が振り返って立ち止まる。それにつられて桐も歩みを止める。桐は視線を合わせづらいのか俯き気味でいる。

 由衣は首を少し傾げて、不思議そうに桐を見つめる。

 彼が何を言おうとしているのか、待ってみようか。


「その、さ。俺たち付き合いも長くなってきただろ。だから、その……」

 由衣は彼が懸命に絞り出そうという言の葉を待つ。

「好きなんだ。俺と付き合ってくれないか」

 桐は精一杯の勇気を出したのだろう。その勇気と裏腹に由衣の返答は至って短くあっさりとしたものであった。


「はい。お願いします」

 そのときの桐の顔を由衣は忘れないだろう。だから、どんな顔をしていたのかは由衣だけの秘密となる。


 ただ、彼女は我慢できず大笑いをしてしまった。

 二人の失念はそこが往来であったことだろう。その後に少しだけ二人は有名人になった。


   ――現代――


 五カ国会議にはハルキア、フユクラード、ナーツァリ、アークリフの四カ国の王。そしてソウジ・ガレイの姿があった。


「ガレイ閣下、我々はあなたに報告がある」

 ハルキア王が発言する。


「何でしょうかな?」

 ガレイはゆったりとした身構えで答える。


「我々、四国の王は彼を皇子に推薦することを伝えようと思ってな」

 ハルキア王が手招きすると扉が開き一人の少年が入ってくる。彼に見覚えがあった。ハルキアでユミリ王女との会談を邪魔した少年であった。


 何よりガレイには聞き逃せない言葉があった。

「彼の少年が皇子ですと?」

 ガレイは驚愕が隠せない。見るかぎりどこにでもいる少年だ。


「彼は光雨帝の実子にあたる。彼を皇家に迎え入れて彼を次期海皇に迎える。そうすればソウジ家の憂いも絶たれよう」


「それは確かなのですか?」

 ガレイは顔が引きつらないよう我慢する。


「光雨帝はレイア妃の間に子供を設けていた。五〇〇年前のことだがな」

 ガレイは思わず立ちあがる。


「現海皇がまだ行方知れずのまま。まずは現海皇の捜索が先ではありませんか!? それこそ万民の望んでいることのはずです!」


 旗色が明らかに悪くなっていた。しかし四国の王は何をいまさらという表情である。それもそうでいままで現海皇をないものとして扱っていたのは他ならぬガレイ自身であったからだ。


「その件については私からお話ししましょう」

 その言葉とともに入ってきた人物にガレイの表情は引きつる。


「ご無沙汰しています、ソウジ・ガレイ閣下」

 白雪の着物をまとったティユイであった。その表情は口の端はあがっているものの、目は笑っていない。


「ティユイ皇女、ご無事という話は本当であったのですね」

 王たちは歓声があがる一方で、ガレイは自分の声が震えていないか不安だった。


「おかげさまで、ガレイ閣下。ケイトでの生活は充実したものでした」

「それは何よりです」


 ガレイはそう取り繕うものの声が震える。空いた席にティユイは座る。

「ティユイ皇女、我々はあなたの無事を心より嬉しく思う」

「誰かに幽閉されていたと聞くがそれは本当かね?」


「実は先日まで記憶がなかったのですが……、いまは無事に記憶のほうは戻っています」

 ティユイはガレイに意味深な視線を投げかける。


 ――言えるはずがない! ガレイは確信してか願望かわからないことを心中で叫んだ。


 だが、ティユイがいるというだけでガレイの発言力が一気に低下したのは間違いなかった。

「ソウジ家は民を豊かにする政策には長けている一方で、皇家が女系海皇を選ばせるように仕向けてきたのも事実ではありませんか?」


「……ソウジ家は常に皇家の繁栄を願っています。女系海皇も万民に道が開かれるべきという理念があってこそ」


「その理念は万民の支持を得ましたか?」

「無論です。我が一族は代々より万民の高い支持を得ていますゆえ」


「では、女系海皇の理解も得たというのですか? あなたがたはそれを万民に向けて問うたのですか?」

「きっと支持は得られるはずです」


「ということはまだであるということですね」

 ティユイは鋭く射貫くような眼光を向ける。


「理解を得るには時間を要しますゆえ」

「では、あなたの家が皇家に行った数々のことをこの場でお伝えしてもよろしいか? あなたのいう万民にはその上で支持が得られるのか問うてみればいいでしょう」


 ガレイの目が大きく開かれる。ティユイは無慈悲な瞳を向けてくる。彼女は本気だった。


 そんな時だった。襲撃の報がクラシノ邸に響きわたったのは――。


   ――現代――


 天神の司令室内にて。

「輸送艦の調査許可が下りたぞ」とシンクからレイアは報告を受ける。


「……そう。もう遅いかもしれないけど」

「民間の艦に軍隊が踏み入るなんて普通じゃないから無理もないさ」


 でないよりはよほどいいとシンクは言う。

「とりあえず部隊の編成を――」


『その必要はない』

 強制的に割りこんでくる通信。


「ヒズルね」

 ヒズルの顔がディスプレイに映される。


『こうやって会話するのは久しぶりだな』

「どうしてあなたは私たちと対立することにしたのかしら?」


『それをこの場で話す気はない』

 ヒズルは取り付く島もない様子だ。


「あいつは相変わらずだな」

 シンクはため息をついている。


『天神はしばらく動かないでもらう』

「……どういうこと?」


 その返答は通信士から入る。

「艦長、艦に人機が一機取りつかれています」


『それが俺だ。熱田大上できたと言えば、わかってもらえると思うが?』


 その言葉にレイアとシンクの表情に緊張が奔る。

「あなた、何を考えているの?」


『教えるとでも? それより動くなよ。お前たちにはこれから起こることを黙って見ていてもらう』

 

「あの……。人機は一機なんですよね? それで艦をどうにかできるとは思えないんですが」

 通信士の疑問はもっともだと言えた。


「ヒズルが熱田大上に乗ってこなければね。冗談に聞こえるかもしれないけど、あいつがその気になれば天神は真っ二つにされるわよ」


 信じられないと司令室にいる面々は表情を思い思いに浮かべる。この事実を知っているのはレイアとシンクだけだ。


『シンクに自分の乗機を持ってこさせないからこうなる』

「それは見解の相違というものね。私たちが前線に出ずとも彼らは十分に役目を果たすわ」


『信じているのだな』

「そうよ。私たちの動きを封じても、彼らにどんな厄災が降りかかろうとも」


 ――もはや信じるしかない。それでも乗り越えてきてくれると。


「あなたこそ、もうここまでしたのだから後戻りはできないわよ」

『無論、承知のうえ』


 ヒズルの言葉に揺らぎはない。それがある意味危険だと常々レイアは感じていた。

『それと輸送艦の調査は不要だぞ。中のものはこれから明らかになる』


 輸送艦のほうへ画面が拡大される。


 ハッチが開くと中からは輸送トラックが数台降りていく。

『よく見ておけ。そして存分に思い出すがいい、虐殺が起こる瞬間というのをな』

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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