■防衛と崩すモノ
――未来――
藤古艦内医務室にてセナがベッドで寝そべっている。その横にルディは付き添っていた。
「あなたが思い悩むことはないよ」
表情の険しいルディにセナは優しく声を掛ける。
「私はこうして生きているし、ユミリ王女だって眠っているだけだ」
「すまない」
慰めてくれているのはわかっていても笑顔一つ作れない自分という人間にルディは嫌気がさす。
「多くの絶望が覆い尽くすときにそれでも残るモノが希望だろう? それにすがるのは決して悪いことでないと私は思うよ」
ルディの握られた両手にセナの左手が乗せられる。
「私はあなたを支えると決めているんだ。ハルキアへ行くよ」
「フユクラードに残らなくていいのか?」
「利き腕を失ってはね……。残念だが除隊するつもりだよ。それに兄上が再び嶺玄武に乗ってくれた。私はそれが嬉しいんだ」
「アズミを敬愛しているんだな」
「当然さ。師でもある。結局、足下にも及ばなかったけどね。……妬けるかい?」
意地悪い笑みを浮かべるセナの視線にルディは顔を逸らす。
「そんなんじゃない」
「兄もあなたに着いていくことを認めてくれたよ。リルハの事は自分に任せろとね」
「俺もスズカからユミリを託された。今度こそ守ってみせる」
その力強い言葉にセナは頷くのだった。
――過去――
「相変わらず手も足もでとらんかったね」
とあるスーパーの中で買い物をするキリとユミリの姿があった。ユミリはおかしそうに笑っているのに対して、キリはふくれっ面だ。
「カナヒラって代々繰者の一族じゃないか。俺は最近乗り始めたんだぞ」
キリは人機の操縦訓練をルディから教わっていた。
「両親の記憶を引き継いどらんて話は本当なんやね」
「嘘言ってどうするんだよ。兄さんたちはたしかに軍人だけどさ」
だが、シキジョウは繰者の家系ではない。どちらかといえば学者の一族だ。
「レイア艦長は何を考えてんだか」
キリは嘆息する。
「まあ、でもあれくらい動かせたらええんやない」
「どういう奴を想定するかだけどな」
「ふぅん」と言いつつユミリは棚に並んでいる袋麺に手を出すのを見て、キリがその手を掴む。
「今日はご飯がいいんだけど」
「いや、これが楽やん」
「いや、俺が作るから」
しばらく二人の睨みあいが続いた。
――現代――
人機隊の指揮はハクトに任されていた。現在は屋敷内の仮設テントが設けられ待機所として利用していた。
他は四機の人神機とアズミの石汎機は屋敷内、ニィナの一角獣は外苑に配置されている。
「停泊してからずっと動かない輸送艦があるそうだな」
『軍属ではなく民間のものですけど、少し気になるのですよね』
「調査は?」
『現在、交渉中です。返答がないので強行に出ないといけないかもしれません』
ハクトはマコナと通信会話をしているところであった。
「周辺の避難勧告もできていないんだよな。難しいんじゃないか?」
『ええ。困ったものです』
停泊してから一切の動きを見せない艦があると報告を受けていた。たしかに許可は降りているようだが、港の管理局も対応に苦慮しているようである。
「もう会議もはじまるぜ?」
そうすれば調査に人材を割くのも厳しくなる。だが、時間が圧倒的に不足している。明らかにそうなるよう狙ったような状況が整地されつつある。
『ええ。警戒するべきでしょうね』
だが、踏みこもうにも準備不足であった。この時間差がどのような結末をもたらすのか。それは予測できないでいた。
――現代――
ルディは屋敷内の一室で待機となっていた。何も起こらないかぎりは手持ち無沙汰になるのは間違いない。
「……スズカはここにいていいのか?」
「職務はこなしているわ。会議も近いから暇になっていくのね」
あとは成り行きを見守るだけである。
「キリが皇子に推薦されれば問題は解決するんだな」
「ええ。でもソウジ・ガレイはどうでるでしょうね? 自身のいままでを完全に否定することになるんだもの。加えてティユイ皇女は自分が見てきたことを公表するのでしょう」
つまり現海皇陛下と皇妃の行方が明らかになるのだ。
「殺害まではしていないにしても。それに近い何かを行ったはず。それが明らかになるはず」
歴代のソウジ家の行動を考えてもガレイはやはりやりすぎであった。やり口が強引すぎる。となると今回の会議も強行に出る可能性も捨てきれない。
「……何もなければいいんだけどね」
「ああ。そうだな」
ルディは窓の外へふと視線を向ける。あまり天気はよくないのか曇り空が広がりつつあった。
――現代――
輸送艦に動きがあった。後部ハッチが開くと車輌が数台出てくる。
制止も聞かず暴走車のように荒々しく走りだす。
その先には五カ国会議の会場であるクラシノ邸があった。
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