■会議の前に
――未来――
紀ノ内の艦長室。
「眠っている王女たちは自国で療養ですか。それがいいかもしれません」
マコナは椅子に深々と座りながら、ふうと一息つく。
「各国の繰者も併せて帰国するって話だよな」
対面にいるハクトが両足を組んで背もたれに背中をだらしなく預けている。
「アークリフ国にあなた方を送り届ければ、紀ノはナーツァリ国へ向かいます」
「そうなれば、艦長ともしばらくお別れか。寂しくなるな」
ハクトからすれば何気なく言ったことかもしれないが、マコナは違った。
「アークリフ国に到着すれば幾日か休暇をいただいています」
「そうか。じゃあいつぞやみたいにホノエを誘って飯でも行くかい?」
するとマコナは首を横に振って拒否を示す。
「いえ。できれば、あなたと二人きりでお願いします」
マコナは口の端をあげる。ハクトが目を白黒させている姿を見るだけで十分だった。
――過去――
四条河原町。あたりはクリスマスで装飾されている。これが二五日を過ぎれば一気に正月の装飾に変わるのだから面白い。
日曜ということもあり人通りは多い。由衣と美希奈の二人はその中にいた。
由衣の手には次年の一月二五日に大規模な避難訓練があるというチラシを手に持っていた。
「それ預かるよ」
美希奈は由衣からチラシを預かると折り畳んで自らのコートのポケットに入れる。
「何なんですか、さっきのチラシ」
「忘れたらいいよ。気にするような話じゃないから」
忘れろという言葉が由衣の耳に残る。それと同時に先ほど見たはずであるチラシの存在がすっかり抜け落ちる。
「式条君のプレゼントを買うんだよね」
話題が変わったことで、由衣の口からチラシの話はもう出ることはなかった。
「はい。何を買えば喜んでくれるでしょうか」
何でも喜ぶでしょうと美希奈は言ってやりたかったが、それは由衣の望む答えでは決してないだろう。
それに美希奈にとって親友と過ごせる時間こそが至福である。自らの不適格な言葉の選択で水を差すなど馬鹿げていた。
「こういう場合、ついつい相手のことを考えて選ぼうとするけど、実際は自分が欲しいものを想像して選ぶといいよ」
「どうしてです?」
「プレゼントって相手に自分を知ってもらう絶好のチャンスでしょ」
「だから自分を知ってもらえるようなモノを選ぶのがいいかなって」
美希奈はゆっくりと無言で頷く。
「だったら新作のゲームとか、欲しいプラモとかですかね」
由衣は身を乗り出して息をまく。
「……押しつけと思いやりは似てるようで違うよ」
さすがの美希奈も呆れたようで、大きなため息をついた。
「ちなみに私だったら張り倒してやるから」
美希奈の目が据わっている。どうやら本気のようだ。
美希奈は由衣の腕をがっちりと掴む。由衣が行きたそうな店へ行くのを阻止するためだ。
クリスマスが終われば正月がきて、二月になればバレンタインがある。
由衣にとって桐と美希奈と過ごせる時間が何より楽しかった。だが、彼女は気づいていなかった。かしこに彼女の視界に入っているはずなのに視えていないもののことに。
――現代――
ナーツァリ国ターベ。ナーツァリ第二の規模を誇る水母である。
クラシノ邸という大きな館――ここで五カ国会議は開催される。
その一室にティユイとニィナはいた。
「姉さん、すごく綺麗」
ティユイは白を基調とした雪の結晶の刺繍をあしらった着物を着ていた。下の部分はスリットがあり伸縮する構造になっている。そのため見た目以上に動きやすいはずだった。
「ありがとうございます、ニィナちゃん。こんな格好、久しぶりすぎて困りますね」
「いままでの格好の方が違和感あったけど」
ニィナは苦笑いを浮かべる。
「姉さん、無理はしないで」
「わかっています。ニィナちゃんも気をつけてくださいね。ソウジ・ガレイが何を仕掛けてくるのかわかりませんから」
「五カ国会議で?」
ティユイは首を縦に振る。
「私は彼を追求するつもりです。父や母をどこに追いやったのかを自身の口から言わせます」
そうなるとガレイが何をするかわからないということである。
「私は人機で護衛にまわることになってる。姉さんもキリも私が守るわ」
「ええ、それについては信用していますので」
ニィナは屋敷の外に目を向けると月輝読をはじめとした機体が並んでいる。
「屋敷の外に人機を並べるのもソウジ・ガレイを警戒してのこと?」
「そうですね。こうやって他国の機体と一緒に並べられていれば仲の良さも伝えられるでしょう」
「同盟だよね」
「軍事とは如何に協力関係が結べるかも肝要でしょ。それは私たちの役目ではないけどね」
皇族はあくまで象徴としての存在である。こうして眺めることはあっても本来であれば乗機して戦闘をしたりしない立場にある。
一方でこうして五カ国会議の同盟と守りは万全であるという象徴として機体を並べることは重要とされていた。
「軍事をかざすことは相手の警戒心を煽らない?」
「警戒したら躊躇してくれるわけだから、軍事力があることをアピールすることは問題にならないでしょう」
ニィナはそうかと納得したような表情を浮かべる。
「相手から攻めてこられない環境を作っておくことが大事なのね」
「そういうことです。それじゃあ、もう少しお話していましょうか」
「うん。もう少しなら」
ニィナも間もなく持ち場に就くことになっている。もうメイナとして接することは難しいかもしれないが、それでもティユイはたった一人の肉親だった。
ティユイはメイナと過ごす時間に顔を綻ばせるのであった。
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