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■目指す未来(サキ)

   ――未来――


八岐災禍(クーゼルエルガ)が勝手に動いただと!?」

 ガレイは驚愕の表情を浮かべる。対して、ダイトは平静を装って報告をする。


「はい。ソウジ邸は全壊です。現在、封鎖して誰も入れないようにしています」

「当然だ。あそこに八岐災禍を隠していたことが公表されては事だぞ。それで八岐災禍はどこへ向かったのだ?」


 八岐災禍をソウジ邸に隠していたのは公然の秘密であった。これを知られたらソウジ家は存続の危機と言われていたほどだ。実際、八岐災禍の黒い炎は幾度となく暗殺に利用された。


「アークリフ国のほう――おそらく皇子のところかと」

「黒い炎に焼かれたのだぞ。生きているわけがない」

 たしかにその通りだ。しかし果たしてそうだろうか?


「八岐災禍の回収を進めておけ」

「はい。閣下はケイトヘ移動を急いでください」

 オーハンの中央議会はガレイの私設軍によってすでに制圧して閉鎖が完了している。あとはその機能をケイトヘ移設することで臨時政府の樹立を宣言するだけだ。


「小娘め。何が呪いだ!」

 ガレイが吠える。ここまで事はうまく進んでいたようにあるが、ここにきて事態は一転しつつあった。


   ――過去――


 首にマフラーを巻くようになって、ずいぶんと経つ。

 今日で一月も終わり。

 冬の寒さがより厳しくなるのを感じて身が縮こまるような思いだった。


由衣ゆいちゃん、おはよ」

 同じ制服を着ているにも関わらずに少しだけ大人びた髪長の少女が優しく声をかけてくる。


美希奈みきなちゃん、おはようございます」

 敬語であるが、親しげな様子で挨拶を返す。美希奈もそれに対して気にした様子はない。これが由衣という少女の普段通りということなのだろう。


「聞いたよ、高校決めたって」

「はい。御所近くにある府立高校です。そこなら徒歩で行けますから」

「近いもんね。由衣ちゃん低血圧だしいいかも?」

 美希奈はからかうような笑みを浮かべる。


「そうなんですよねぇ。ぎりぎりまで寝れそうです」

「モーニングコールはするから遅刻しないように」

「よろしくお願いします」


「実は私も受けるつもりなんだ。受かったら、また同じ学校だね」

 由衣は少し言葉に詰まったあと、すぐ笑顔になる。由衣にとっていいサプライズだったのだろう。

「嬉しいです」


   ――現代――


 キリはセイオーム伝統の黄色を基調とした礼服姿を鏡でまじまじと見せられる。

「うん。ぴったり」

 リルハは何度も頷いている。


「俺には着せられているようにしか見えないぞ」

「そんなことないよ。礼服着るのだってはじめてじゃないんだから。自信持ちなよ」


 ――きついところはないかと続けて聞いてくる。

「大丈夫だよ。それにしてもサイズよくわかるよな」


「当然でしょ。キリは私の体型わからない?」

 リルハは意地の悪い笑みを浮かべる。


「……俺はわからないよ」

「だったら覚えるまで確かめてもらったらいいけど?」


 キリは顔を引きつらせる。からかうのは勘弁してほしい。

「別にからかってないけど?」


 胸中を見透かしたような一言であった。

「何ていうかウキウキしているよな?」


「キリが海皇候補として第一皇子に推薦されるんだもん。嬉しいよ」

「俺は困ってるんだけどな……」


 キリは皇族に入るとなればティユイとは姉弟という立場になる。これは妙な感覚だった。しかし現実である。


「サイズ合わせはもういいんだよな?」

「うん」


 キリは確認をとると別室に入って普段着に着替える。

「五カ国会議に出席なんて考えられないよ」

 しかし礼服に袖を通したいまとなっては自覚せざるを得ない。


「キリはこれから大変だね」

「え?」


「キリは皇子になるともう私たち王女の中から一番を決めることはできない。それをキリが決めるとバランスが崩れるでしょ。それはわかるから」


「決めることができないか……」

 それは自意識というものが存在してもそれを決して公の場で表出させないということだ。

 

「これからキリは立ち振る舞いを常に周辺から見られるってことになるから。五カ国会議が終わった後は意識しないとね」


「気が重いな……」

「だから、私たちが助けるんでしょ」


   ――現代――


 あれは運命の出会いだった。

 ソウジ家の秘術――地下に隠されていた八岐災禍の黒き炎は数々の者を例外なく屠ってきた。


 ガレイは不老体になることを決意したとき親兄弟すら邪魔な存在であった。だから全員をことごとく黒い炎で焼いてやった。


 いまも黒き炎によって捕縛された魂は苦痛を与え続けていることだろう。

「そうとも俺は選ばれた存在。しかもそれを自ら勝ち取ったのだ」


 ――にも関わらず誰も認めようとしない。むしろ誰もが忌み嫌うような瞳で自分に向けてくる。


 そういう人間は例外なく黒い炎で灼いてやると決めている。

 机の上に小瓶が一つ。


 中には黒く蠢く炎が封入されていた。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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