■決断の時は迫る
……これより現地を危険地域に指定。音声が頭に響いた。
キリはリーバに乗りこみ、石汎機と連結してから周辺の確認する。
(リルハたちは到着してしまったんだよな)
「ケイカ、どうにかならないのか?」
相対する機体に搭乗している少女へ語りかける。
『無理なの! 体が言うことを聞かなくて……!』
青を基調とした機体――ペルペティの右手にクナイを握って先端をこちらに向けながらゆっくり向かってくる。その動きには以前戦った時のようなキレはない。ただ歩いているという印象だ。
「どういう状況なんだ?」
ただ一つわかっていることがある。ペルペティの進行方向が四人の王女がいる場所だと。
――◇◇◇――
不幸中の幸いは王女の保養地にするため一時的に回顧都市内に外部の人間が入れないよう封鎖していたことだろうか。
ターバ基地内にある司令室にレイアとマコナをはじめとする戦闘指揮権を持つ者たちが招集されていた。
この騒動の首謀者を名乗る者から映像付きで通信がくると室内には緊張が奔る。
『はじめまして』
姿を現したのは一五歳ほどの少年だった。
『僕はクモワキ・シンゴ。我々セイオーム特殊部隊は第一三独立部隊に対して武装解除並びにティユイ皇女の身柄と月輝読を引き渡しを要求します』
「拒否した場合はどうなるのかしら?」
レイアが無表情のまま訊ねる。
『ペルペティを自爆させます。半径数キロを灰塵と化す威力です』
司令室にいる人間すべての視線が厳しいものに変わる。
「あなたの行いは無差別暴力行為にあたる。即刻、行為を取りやめ出頭しなさい」
レイアが呼びかけにシンゴはフンと鼻を鳴らして嘲る。
『僕に降伏勧告だなんて状況を理解していないんですか?』
「先に言っておくけど交渉はないわ。行為に対しては実力で排除することが義務づけられているのよ」
『不自由ですね』
「あなたは責任というものを理解していないわ」
――子供にすぎないと指摘されてシンゴの眉根がピクリと動く。その感情の動きをシンクは見逃さない。
『では、交渉は決裂ですね。せいぜい後悔することです』
通信が一方的に途切れる。
「状況は?」
レイアがシンクに訊ねる。
「正直、悪いな。先ほどの彼が言ったとおりだ」
――ただしと捕捉が入る。使われているのはいわゆる時限爆弾。停止方法はケイカの殺害によって達成されるという内容のものだった。
「他の手段はあるの?」
「先ほどから干渉を試みているが、エーテルでの接触ができないようしているらしい」
であれば他の手段を検討している時間はないだろう。レイアは納得はしている。しかし――。
「迷っている時間はないぞ」
「わかっているわ。すぐに指示を出します」
そうは言うもののレイアの唇がワナワナと震えだす。
マコナはあからさまに迷いのある瞳のレイアを見て驚愕している一方で、シンクは「やはり」と納得した表情をしている。
「……レイア」
シンクが静かに呼びかけた。
――◇◇◇――
繰者の待機室にてティユイたち繰者一同は待機をしていた。
「状況はどうなんですか?」
ティユイは誰に訊ねたわけでもなかったが、ルディが答えてくれた。
「厄介なことになっているようだ」
順を追っていくとシンゴがケイカに記憶に派生させて学校から巨大ロボット――ペルペティをエーテル精製した。
エーテルとはこの世界のありとあらゆるところに存在している。エーテルとは要するに情報体の呼称である。それが薄い状態であれば気体のようになっているが、それがおそろしく濃密化したものがクエタの海となる。
精製とは想像の具現化である。こうなったらいいをエーテルから形にするのだ。故に具現化する際には情報の具体化が求められる。
ケイカの住んでいた世界に近い風景を見て記憶をより鮮明になったというのだ。ただし精製されたメカにシンゴはある仕込みをした。
エーテルは収束させるとエネルギー流動体となる。そこに情報を与えることによって精製が可能となる。
このエネルギー流動体を利用して人機などは動いている。
ペルペティはこの流動体を動力へ変換させるエーテル変換器に異常がある。これでは動力へ変換されずエネルギーが機体に溜まる。
さらにケイカの生態振動に合わせて一定回数を超えると起爆剤が爆破する仕組みになっているという。
「止めるにはケイカさんの生命振動を断つ……ということですね」
ティユイは唇を真一文字に締める。それにルディは短く「そうだ」と答える。
「割と古典的な手だが、俺たちには効果的な手だな」
「ああ。正面から来られる分には対処もあるが、これでは出遅れる」
ハクトは苛立ちを隠そうとせず右拳を左手の平にパンと当てる。ホノエも立ちあがったままキリの石汎機とペルペティが対峙している映像を苦々しい表情で見ている。
「我々の機体は整備でしばらく使えん。キリくんには頑張ってもらうしかないな」
アズミは淡々とした口調に努めているようだった。
「月輝読が整備を中断して、すぐに動けるよう調整中とのことだ。ティユイ、しばらくしたら出撃命令が出る。頼めるか?」
ルディからの依頼にティユイははやる気持ちを抑えながら「はい」と答えた。
――◇◇◇――
――美しくないな。
エリオスはシンゴに聞こえないよう小さくため息をつく。
ペルペティはあの少女の持つ格闘センスを生かす構造になっていて、所作の一つ一つが洗練されて美しさがあった。
だがいまはどうだろうか。歩くだけでもよたよたしてぎこちない。右手に持ったクナイはあくまで威嚇のために使われている。
あの少女は武器はあくまで自分の動きを読ませないために利用していた。彼女がこの機体を動かしていたとしたらどうしていただろうか?
――残念だ。できれば見てみたかった。そんな風に考えてしまう。
「くそ。何で思うとおりに動かないんだ」
シンゴが悪態をつく。それはそうだろう。現実は人型ロボを操るのは至難の業だ。ましてやペルペティという機体は特段だ。
その機体を素人で格闘センスなど到底持ちあわせいないであろうシンゴがケイカを操ることで動かしているのだ。
しかし、それでいいのだ。このまま相手が迷ってくれているだけで任務は終わる。はっきり言ってしまえば操作する必要すらない。
――悪趣味ではあるがね。
エリオスは思わず鼻で笑う。それは自嘲からくるものなのだろうか。自身でもわからないものであった。
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