■涙のワケ
ケイカがぽつりと言葉を漏らす。
「私の両親ね、突然いなくなったの。それで弟と一緒にあるお家に引き取られることになって、そこの男の子と一緒に住んで、何でか大きなロボットに乗って変なのと戦う羽目になったり……」
なかなか波瀾万丈だなとキリは思ってしまう。
「やっぱり会いたい……。家族に会いたいよぅ」
この町の情景にホームシックを刺激されてしまったようだった。キリはほっと一息ついて、それから言葉を続けた。
「あのさ……ケイカさえよければなんだけど。俺の家――シキジョウで君を預かろうかと思っているんだけど」
――どうかな? とキリは提案をしたあとにケイカは顔をあげてキョトンとしている。何を言われたのか理解できていないようだった。
キリは何だか照れくさくなって咳払いをする。
「おそらくカリン王女からも誘われていると思うから選択肢の一つくらいに思ってくれていい」
――ゆっくり決めてくれていいと言って少しケイカから離れようとすると、服の裾の端が掴まれる。
「どうした?」
「……考えておくから、もう少し傍にいて」
ケイカは俯いたまま決して顔をあげようとしなかったのでキリは顔を覗くことはできない。だからどんな表情を彼女がしているのかすべては想像の中である。
――◇◇◇――
少し時間が経ってからキリとケイカはリーバに乗って小学校のほうに来ていた。
「キリの人機は武装していないけど大丈夫なの?」
ここに来る際に武装をしていなかったことをケイカは気にしていたようだ。
「光振刀の放つ光は町中では本来なら使用禁止だ。あれは斬るんじゃなくて構成した情報そのものを分解してしまうからな」
人間に使えば存在したこと自体を過去から遡って抹消してしまう。非常に危険な兵装なのである。
「そもそも人機を町中に持ちこむこと自体が禁止なんだよ」
「どうして?」
「人機と人間くらいのサイズ差があると同じ空間で共存はできないんだ」
「私の世界だと人型ロボは人が直接整備してたし、弟を手に乗せたりしてたよ」
「安全意識が違うんだろうな。たとえば手の平に人を乗せるって操作はもっとも危険とされている。設計上がその運用を想定していないから」
「私の世界だとその動きを想定していたってこと?」
「そうかもしれない。ただ、手の形をしていても実際は巨大な金属の塊だ。あれで押し潰されたりしたら一溜まりもないぞ」
他にも起こった事故には枚挙にいとまがない。コックピットが切り離しで自立式になっているのも一つの理由となっている。繰者が降りる際に機体と距離を保つためだ。
「実は結構怖いんだ」
「俺たちが小さい昆虫に接するときと同じ感覚だよ。握り潰すのは難しくないだろ」
それを聞いてケイカが息を呑む。言わんとすることをようやく理解したようだ。
「あとな。人機を見た目通りのモノだと思わない方がいい。あれはそこにいるだけであらゆる保安対策を敷いてくれるんだから」
間もなく四人の王女がくる。それまでケイカにとっては探検の時間であった。
――◇◇◇――
「四人の王女が間もなく到着……か」
シンゴがニヤリと口の端を吊り上げる。
「ケイカは自分に似た情景の町で自分の機体を強固なイメージで精製できる。王女が現地に到着することで配置も完了する」
「ここからどうするんだい?」
エリオスが訊ねる。
「ケイカ機は半径数キロを灰塵にする威力の爆弾になります。起爆剤をケイカにして数分後に爆発、止めるには彼女を殺すこと」
「さっさと爆破させればいいのでは?」
「情緒は必要でしょ?」
エリオスは顎に手を当てて少し考えこむ仕草を見せる。
「この策を考えたのは君かい?」
「立案はガレイ閣下ですよ。多少の脚色はしましたが」
「なるほどね」
エリオスは哀れむような顔をシンゴに向けてくる。
「やってみるといい」
それは独り言のようにもあった。シンゴはその視線にただ不快感を覚えるだけだった。
――◇◇◇――
そろそろ四人の王女が到着する時間が近づきつつあったので、キリとケイカはリーバへ戻ろうとしていた。
ケイカはグラウンドを歩いていてふと違和感を覚え立ち止まる。
「どうしたんだ?」
キリが心配して近づいてくるのをケイカは思わず「来ないで!」と制止する。
背中にぞわりとしたものが奔った。振り向くと校舎が崩壊をはじめる。
――考えられない……! 崩落する校舎から自分の愛機であるペルペティが姿を現す。しかし素体の色は白でなくて黒くなっている。その横にはライオン型のメカがいる。
「あ、あ……」
ケイカは自分の体が言うことを聞かなくなっていることに気がつく。
「ケイカ?」
何が起こっているのかキリも理解が追いついていないようだ。
「……逃げて! キリ、逃げてぇっ!」
ケイカが叫ぶ。
片膝立ちになった黒い素体に誘われるようケイカは乗りこむと、ライオン型メカと合体する。
その視線は四人の王女が来るであろう保養地の方角に向いていた。
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