■ターバ内戦闘継続中
キリ機とアズミ機はターバ水母の傘から侵入をし、現在地上へ自由落下中であった。
「これうまく着地できるものなのか?」
『そのあたりは機体がオートでやってくれる。人機はこういう事態も想定されて設計してある。機体を信用することだ』
「……はい」
どのみち地上から攻撃がなければ地上付近まで何もすることはない。
「一年前も試みたんですよね?」
『ああ。だが、そう何度もやるものではない。結果として傘に負担をかければ水母の寿命は縮む。あくまで急を要する時だけだ』
「でしょうね」と短く返す。人機で傘からの侵入するなど起こりっこないとキリは高をくくっていた。だからこれが最初で最後の体験になる。
「着地点付近に機影を二つ確認。……蒼天龍と嶺玄武です」
『想定通りだな』
間もなく二機は着地姿勢に入り、秒読み(カウントダウン)がはじまる。
――三、二、一、〇。と同時に機体後方が逆噴射をはじめ着地姿勢をとる。
それはお尻のあたりから着地しそうになるのだが、そうなる付近で脚のほうがゆっくりと伸びていき足が接地するようになっている。
『キリくん、君は蒼天龍を相手にしてもらう。嶺玄武は私が抑える』
(どっちも相手にしたくないんだけどな……)
こうして蒼天龍を目の前にすると改めて勝つという展望がまるで浮かばない。とはいえ、どちらに転んだとしても手筈通りだ。ならばぶつかっていくしかない。
キリは石汎機の盾を掲げて蒼天龍へ向けて前進をする。対して、蒼天龍は二本の鉄扇――旋風を広げてくるくると円舞を踊るよう舞いながら向かってくる。
おかげで斬撃がくる方向がわからずキリは盾で防ぐの精一杯である。
(あの無骨な雰囲気の奴の戦い方これだもんな……)
軽やかで繊細で美しく舞うように刺してくる。いつも我慢が足らずにあるいは差しこむ隙をわざと作られて、そこに手を出してしまい敗北というのがいつもの流れだ。
(つまり動きを止めろってことだよな)
キリは後退すると盾を蒼天龍の視界を塞ぐようにして投げつける。それから光振刀を上空へ放り投げて肩に装填してある小刀二本を足のほうへ投げつける。
それから小刀を追うようにして駆けはじめる。
『旋風は投擲に使えることを忘れているようだな』
ため息とともに通信が入ってくる。それから一瞬である。滑るように盾を躱すと同時に旋風の一枚を小刀げ投げて弾き飛ばす。
上空に投げた光振刀をキリの石汎機が掴むとその勢いを利用して振りおろす。蒼天龍はキリが想像していたよりも深く懐へ入りこんできて力が乗りきるまえに光振刀を残っていたもう片方の旋風で弾き飛ばしてしまう。
勝負ありだ。
『セナ、敵石汎機の無力化に成功した。この機体を鹵獲して後退してくれ』
『了解。あなたはどうする気だい?』
『俺にはやることが残っている』
『……わかった』
嶺玄武がこちらへ向かってくる。ここまで手筈通りだ。しかし――。
「お、おい。ルディ」
『悪いが、一年前のケリをつける必要がある。ユミリのことはお前に任せる』
ルディから謝罪をされてどう返せばいいのかキリも困る。
『時間はそんなに残されていない。案内は私がする。行こう』
嶺玄武の繰者――セナにキリは急かされて渋々従う。向かうべきはユミリのいる屋敷だ。
「……わかりました。頼みます」
セナは知らない仲ではない。リルハの姉というのもあって面識はそれなりにある。
キリは覚悟を決めてユミリの救出を優先させることにした。
――◇◇◇――
キリとセナが去った後は広大な荒野に蒼天龍とアズミの石汎機――二機の機影が残るだけであった。
『久しいな。一年ぶりか』
「ああ、決着をつけよう」
『二人が心許せるまでな』
「そうだ……!」
蒼天龍に二枚の鉄扇を広げて構えさせるのに対して石汎機が盾を構える。おそらく先ほどのキリのようには行くまい。
アズミは鉄扇を受け止める盾の角度を調整して確実に動きを止めてくる。うっかりすればこちらが盾で鉄扇を弾かれるし狙っているのそれだろう。
動きを止められているところにすかさずアズミは光振刀を突きたててくる。それをもう片方の鉄扇で受け止めるも突きの勢いに押されて後ろへよろめいてしまう。
「くっ。さすがだな」
一方、盾で受け止めていた鉄扇を弾き飛ばされる。だが、それで盾の角度が少し浮いたところを見逃さない。
蒼天龍はよろめくのを踏ん張る。そこから左脚を伸ばしてつま先を盾の裏に差しこんで引っかけて上方へ蹴りあげる。
『腕をあげたか……!』
残された右手の鉄扇を一閃させ、アズミも光振刀を振りおろしてくる。かち合う刃と刃。
結果は――互いとも手元に武器はなく手放す結果となってしまった。だが、それでも二人は戦いを止めようとしなかった。
武器を拾いに行けないよう蒼天龍とアズミの石汎機は両手を伸ばして掴み合う。そして力が拮抗している二機はその状態から硬直してしまう。
『こうなると勝負はもうつかないな』
「……ならばどうする?」
ルディは石汎機からリーバが切り離されて地上へ降りていくのを目撃する。
「そういうことか」
ルディも同じくコックピットを機体から離して足下のほうに着陸する。
さらにコックピットを降りた二人は直接対面をした。
「こうして君と出会うのははじめてになるな」
「……ああ」
こうして顔を合わせたが不思議とはじめて出会ったという気はしない。それに兄妹だからだろうセナと似たところもある。
「最初に言っておくことがある。私が本国へ還された理由ついてだが、あれはすべて事実だ。私はスズカ王女と関係を持った」
何を言うのかこの男はと冷静な部分がある一方で体が先に動いていた。叫びながらまっすぐに伸びた右腕の拳がアズミの左頬に打ちつけられる。
アズミは避けようともせずにただ殴られた。
「……これで一発だな」
アズミはルディの右腕を掴んでくる。
「君も私に対して言うべきことがあるのではないか?」
「何を――」
アズミが激昂した表情でこちらを睨んでいることにようやくルディは気がつく。おそらくセナのことだろう。
「貴様はこれから相手を探そうという妹に手を出したのだ」
「花嫁修業に軍へ入れたとでも言うのか?」
「それは本人が望んだことだ。しかし、なし崩し的に行為に及ぶなど認められるか!」
アズミは掴んだ右腕を離さないまま、右拳でルディの左頬を殴る。
「それをお前が言うことかっ!」
ルディは掴まれていた腕を強引に振りほどいてアズミに掴みかかる。
「スズカ王女は孤立した状況の中で誰かの支えが必要だった!」
「黙れ!」
それが自分でなかったことへのやるせなさからくる怒りであるのは理解している。しかし、それをアズミに叩きつけずにはいられなかった。
「セナは――」
ルディ、アズミ両者の殴り合いはこうして幕を開けるのであった。
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